小野隆生の「断片」をめぐって
その6. 自動車---オン・ザ・ロードの風に吹かれて
沙漠に消えた影 
 前回のピストルが少年時代の西部劇ならば、今回取り上げる自動車は、青年時代のロードムーヴィーといったところでしょうか。
 今でこそ車でイタリアの田舎をドライブすることを楽しんでいる画家ですが、この作品が描かれた頃はまだ運転をしていませんでした。彼が住む小さな街ではその必要がなかったからです。したがって、自動車もピストルと同じように、現実ではなく、映画の中のイメージの産物といえるでしょう。
 ビート世代の作家ジャック・ケルアックの小説『オン・ザ・ロード』の新訳が最近出版され話題になっていますが、画家もこの「オン・ザ・ロード」という言葉が好きだそうです。彼が思いを馳せるのは、60年代のアメリカ映画です。若者たちの終わりのない旅。その途中で起る予期せぬ出来事。もちろんストーリーは映画によって異なりますが、ロードムーヴィーからはそんなイメージを連想します。
 もしかしたら画家は散歩をしながら、映画のようなスリリングな出来事を期待しているのかも知れません。
 (2008年7月29日 いけがみちかこ)

*掲載図版は小野隆生沙漠に消えた影池田20世紀美術館カタログno.10
1998年 テンペラ・板 114.2×140.5cm


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