池上ちかこのエッセイ《小野隆生の「断片」をめぐって》

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小野隆生の「断片」をめぐって第8回〜池上ちかこのエッセイ

小野隆生の「断片」をめぐって
その8.ハイヒール---美しいモノが武器になるとき

小野隆生ハイヒール 先日、アネット・メサジェというフランスのアーティストの展覧会に行って来ました。写真やぬいぐるみを用いた大掛かりなインスタレーションに混ざって目を惹いたのは「頭-手袋」という作品です。無数の手袋で頭蓋骨の形ができていて、手袋の指の先端には色とりどりの色鉛筆がくっ付いています。そして、この作品について彼女が語った「色鉛筆は子供にとって、ときには武器にもなります」という言葉に、ハッとしたのです。これまで、削りたての鉛筆の芯に恐怖を覚えたことはあっても、きれいな色鉛筆を武器と感じたことはなかったからです。
 前置きが少々長くなりました。本題の小野隆生のハイヒールの話に入ります。ハイヒールは、男性の靴とは異なる意味合いを帯びているように思えます。いつだったか、たぶんこの作品が出来て間もない頃、ハイヒールについて画家に尋ねたことがありました。すると次のような答が返ってきました。
「ハイヒールは男性を誘惑するという意味で、ひとつの武器と言えます。それに実際これで踏まれると痛いしね」。
 ハイヒールが武器という発想も私にはありませんでした。確かにこれは男性だからこその感性かもしれませんが。
 色鉛筆とハイヒール。どちらも本来はピストルのような武器、あるいは凶器ではありません。でも、持つ人によっては武器にも成り得る--美しさの陰に隠れた恐ろしさとでも言いましょうか。
 (2008年8月12日 いけがみちかこ)

*掲載図版は小野隆生断片98-]Y池田20世紀美術館カタログno.42
1998年 テンペラ・板 37.0×80.0cm


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