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小林美香のエッセイ「写真のバックストーリー」
第27回 カリン・シェケシー「mit Katarina」  2012年12月10日
(図1)
カリン・シュケシー
"mit Katarina"
1977年
ゼラチンシルバープリント
52.0×51.3cm
Ed.20 サインあり

一枚の薄い布で胸から腰を覆い、顔を正面に向けて佇む二人の女性。前の女性は頭にも包帯のような布を巻きつけ、布越しに胴体の輪郭や腕、乳房や臍が透けて見えています。後ろの女性は、伸ばした左手の指先や頭の先がちょうど画面の際に収まるように写っていて、その胴体は前の女性の背後に隠れています。二人の身体が前後に重なって、腕を伸ばしてポーズをとっている様子は、あたかもダンサーが一振付の動作を一瞬止めたかのような緊張感を漂わせています。
ライティングの効果により、二人の身体と顔は右半分が影の中に隠れていて、立体感が強調されています。また、前の女性の左腕が布に隠れ、二人の右肩から腕にかけての輪郭がつながるような位置で立っているために、二人の身体から一組の腕が左右に伸びているような、不思議な一体感も醸し出されています。陰に隠れた顔には強張った硬い表情を浮かべているために、二人は生身の人間というよりも、あたかも彫像やマネキンのようにも見えます。
「mit Katarina(カタリーナと一緒に)」というこの作品のタイトルが示唆するように、二人のうちのどちらかがシェケシー自身で、カタリーナというモデルと一緒に写っているセルフポートレートとして見て解釈することもできるでしょう。二人の身体を覆う布は、体の輪郭を際立たせて見せると同時に、「一緒にいる」二人の間のつながりを表す手段としての役割も果たしています。
カリン・シェケシー(Karin SZEKESSY, 1939-)は、モデルの身体を彫刻やオブジェのようにとらえたり、ダンスや舞台を彷彿とさせるようなポーズや演出をほどこしたりすることによって、複合的な要素を盛り込んで作品を制作しています。彼女の複合的な制作技法は、夫で画家のパウル・ウンダーリッヒ (Paul Wunderlich, 1927-2010)と共同制作を手がけ、互いに影響を与えあっていたことに因るところが大きいでしょう。
ウンダーリッヒは、シェケシーが撮影した写真をもとに絵画・版画作品などを制作していましたし、シェケシーの作品「A Hitchcock」(図2)の中でも、ウンダーリッヒが制作した彫刻作品とドローイングが登場しています。(図2)では(図1)と同様に、モデルの身体の立体感を強調するようなライティングが施されていて、後ろに配置された二つの彫刻作品と呼応するようなモデルのポーズと、動きでぶれた右腕の輪郭、顔を隠すように左手で掲げられた顔を描いたドローイングが、画面の中に視覚的なアクセントになり、相互にダイナミックな相互作用を生み出しています。
(図1)についても同様のことが言えますが、シェケシーの作品において、布や紙が、モデルの身体を隠したり、分節したり、視覚的なアクセントになったりすることで、作品全体の印象を形作る要素となっています。ときには、「Two cut outs」(図3)のように、紙や布でモデルの身体のほとんどを隠してしまったり、ごく一部だけ露わにするために切り抜いたりすることによって、身体の部分やモデルの存在感をより一層際立たせたてもいるのです。このような、隠したり露わにしたりする演出方法を通して、シェケシーはモデルの女性たちのなかに秘められた魅惑や力を引き出しているようです。

(図2)
A Hitchcock (1984)

(図3)
Two cut outs (1970)

(こばやし みか)

小林美香 Mika KOBAYASHI
写真研究者。国内外の各種学校/機関で写真に関するレクチャー、 ワークショップ、展覧会を企画、雑誌に寄稿。
2007-08年にアメリカに滞在し、国際写 真センター(ICP)及びサンフランシスコ近代美術館で日本の写真を紹介する展覧会/研究活動に従事。
著書『写真を〈読む〉視点』(2005 年,青弓社)、訳書に『写真のキーワード 技術・表現・歴史』 (共訳 昭和堂、2001年)、『ReGeneration』 (赤々舎、2007年)、 『MAGNUM MAGNUM』(青幻舎、2007年)、『写真のエッセンス』(ピエブックス、2008年)などがある。

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