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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」
第11回 2013年12月1日

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左にいる男性と後ろに立っている女性は血がつながっているのだろう。目鼻立ちが似ている。どちらが年上かと問われたら、女性のほうと答える。顔つきがお姉さんっぽい。

白い毛皮の帽子をかぶった右側の堂々とした女性は左の男性の妻だ。ソフトな雰囲気の彼となかなかいい組合わせで、バッグを提げて前に立っている少女は彼らの娘にちがいない。

もしかしたらまったくちがっているかもしれない。男性は子どもの学校の先生で、後にいるのがお母さんで、白い帽子の人はたまたま出会った近所のおばさん、ということだってありうる。だが、事実がどうであれ、彼らを家族だと思いたいという強引な気持ちが自分のなかにある。家族という言葉のもつイメージを、これほどさらっと気負いなく表象している姿にはめったにお目にかからないからだ。

それはたぶん写っている場所がとても寒そうなことが関係している。見渡すかぎり平らな土地がつづき、その固そうな地表をうっすらと雪が覆っている。広さからすると凍った湖かもしれない。もしそうだとしても割れそうな感じはまったくなく、しっかりと固まっているさまがより寒さを際立てている。もちろん彼らの毛皮姿もそれを助長しており、おしゃれのためではなく生き延びるための必需品だと告げている。

もし彼らが短パンをはいて半裸状態でヤシの木の茂る浜辺に立っていたなら、これほどまでに切々と家族というものを訴えかけてはこないだろう。寒ければ身を寄せて暖め合おうとするのが生き物の自然であり、人間とても例外ではない。寒い地方には「家族のぬくもり」という言葉があたたかな土地以上にマッチするのだ。みんなが集まって熱を逃がさないようにするごとに「家族」のきずなが濃くなっていく。

男が手にしたヒモの先に付いているものが気になる。椅子だろうか、そりだろうか。少女の手提げからツンツンと飛び出している木の枝のようなものはなに? ほかの女性は手ぶらなのに、彼らだけが荷物をもっているのが奇妙で、これらの謎めいた小道具のお陰で家族のイメージはより強固になっている。きっと女性たちは少女を迎えに来たにちがいないと。
(おおたけ あきこ)

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●紹介作品データ:
宮嶋康彦
「リストビヤンカ」
2013年
プラチナ・パラジウムプリント
シートサイズ:27.9x35.0cm
Ed.3
サインあり

■宮嶋康彦 Yasuhiko MIYAJIMA(1951-)
1951年長崎県生まれ。1975年フリーランスとして活動。1985年ドキュメントファイル大賞を受賞。(有)オフィス・ヒッポ主宰、東京造形大学、立教大学講師歴任。
主な個展:1982年「風 奏」(ニコンサロン)、1989年「気 風景の始原」(ニコンサロン)、2003年「日光山花鳥縁起」(コニカミノルタプラザ)、2008年「Hippo Dance」(コニカミノルタプラザ)、2012年「東京起源」(ニコンサロン)、2013年「Siberia 1982」(gallery bauhaus)。
主な著書:『汎自然』(2002年、かんげき屋)、『河馬の方舟』(1988年、朝日新聞社)、『母の気配』(1990年、情報センター出版局)、『脱「風景写真」宣言』(2006年、岩波書店)、『Siberia 1982』(2013年、自家製本)、ほか34冊。

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大竹昭子 Akiko OHTAKE
1950年東京都生まれ。上智大学文学部卒。作家。1979年から81年までニューヨークに滞在し、執筆活動に入る。『眼の狩人』(新潮社、ちくま文庫)では戦後の代表的な写真家たちの肖像を強靭な筆力で描き絶賛される。都市に息づくストーリーを現実/非現実を超えたタッチで描きあげる。自らも写真を撮るが、小説、エッセイ、朗読、批評、ルポルタージュなど、特定のジャンルを軽々と飛び越えていく、その言葉のフットワークが多くの人をひきつけている。現在、トークと朗読の会「カタリココ」を多彩なゲストを招いて開催中。
主な著書:『アスファルトの犬』(住まいの図書館出版局)、『図鑑少年』(小学館)、『きみのいる生活』(文藝春秋)、『この写真がすごい2008』(朝日出版社)、『ソキョートーキョー[鼠京東京]』(ポプラ社)、『彼らが写真を手にした切実さを』(平凡社)、『日和下駄とスニーカー―東京今昔凸凹散歩』(洋泉社)、『NY1980』(赤々舎)など多数。

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