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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」
第13回 2014年2月1日

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音楽にあわせて足を踏みならし、全身でリズムをとって踊っている男。部屋の隅にジュークボックスが見える。音楽はそこから流れている。何の曲なのか気になる。

男の服装はTシャツに、裾の開いたベルボトムのジーンズ。ヒップハンガーの腰には太いベルトをしている。履物はスニーカーではなくてヒールの付いた革靴だ。どんなダンスを踊っているのか、両足のかかとが持ち上がり、膝が曲がり腰が上下する。だれのほうも見ずに、踊っている自分だけを感じている。

戸口から差し込む光が強いのに驚く。日没までまだだいぶ間がありそうなまぶしい光だ。そんなに早い時間から無心に踊っていることの魅惑。床はリノリューム張りだが、光の反射で模様が白く飛んでいる。彼はその光を凝視しつつ、全身を動かしている。スパークする床の白さが、夜に踊るのとはちがう興奮に彼を引き込んでいるのだ。ぼさぼさの頭と首に巻いたセーター。体はだいぶ熱くなっている。汗もかいているだろう。

ふいに、ジュークボックスのメタリックな光に目がとまった。床の照り返しがメタル部分を輝かせている。ほかに金属的なものが何もない店内で、このぎらっとした光は印象的だ。都会ではないと一目でわかる洗練されていないインテリア。部屋だけならば、のどかな雰囲気すらあるのに、踊る男とこのメタリックな光の組合わせが狂気的な空気をもたらしている。いまこのときしか大切にしたいものはないという、極限まで突き詰められた意識。男の視線のちょうと真下に、光の玉のようなものが見えてくる。

この写真を見るたびに、狂ったように踊る男の存在を確認するだろう。Tシャツにベルボトムのジーンズという格好で、鋭い光を背中に受けながら、両腕を細かく振り革靴を踏みならして、彼は永遠にここで踊りつづけているのだ。
(おおたけ あきこ)

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●紹介作品データ:
森山大道
「沖縄」
1974年撮影(2013年プリント)
インクジェット・プリント
100.0x133.0cm
オープンエディション

■森山大道 Daido MORIYAMA(1938-)
1938年大阪府に生まれる。商業デザイナーを経て、写真家岩宮武二、細江英公らに師事する。1964年フリーランスの写真家として活動を開始する。『現代の眼』に「I am a king・通行人」を発表。1965年『カメラ毎日』に『ヨコスカ』を発表。以降写真雑誌などで作品を発表し続ける。1967年「にっぽん劇場」で第11回日本写真批評家協会新人賞を受賞。1968年多木浩二、中平卓馬らによる先鋭的な写真同人誌『プロヴォーグ』に参加し、ハイコントラストや粗粒子画面の作風を展開(〜1970年)。1972年写真集『写真よさようなら』発刊。1982年写真集『光と影』発刊。1999年個展(サンフランシスコ近代美術館/アメリカ)開催。2003年写真集『新宿』により第44回毎日芸術賞受賞。島根、北海道、川崎で大規模な回顧展が開催される。2007年「ハワイ」を発表。2008年写真集『北海道』を発刊する。
公式サイト:http://www.moriyamadaido.com/

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大竹昭子 Akiko OHTAKE
1950年東京都生まれ。上智大学文学部卒。作家。1979年から81年までニューヨークに滞在し、執筆活動に入る。『眼の狩人』(新潮社、ちくま文庫)では戦後の代表的な写真家たちの肖像を強靭な筆力で描き絶賛される。都市に息づくストーリーを現実/非現実を超えたタッチで描きあげる。自らも写真を撮るが、小説、エッセイ、朗読、批評、ルポルタージュなど、特定のジャンルを軽々と飛び越えていく、その言葉のフットワークが多くの人をひきつけている。現在、トークと朗読の会「カタリココ」を多彩なゲストを招いて開催中。
主な著書:『アスファルトの犬』(住まいの図書館出版局)、『図鑑少年』(小学館)、『きみのいる生活』(文藝春秋)、『この写真がすごい2008』(朝日出版社)、『ソキョートーキョー[鼠京東京]』(ポプラ社)、『彼らが写真を手にした切実さを』(平凡社)、『日和下駄とスニーカー―東京今昔凸凹散歩』(洋泉社)、『NY1980』(赤々舎)など多数。

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