ときの忘れもの ギャラリー 版画
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写真を買おう!! ときの忘れものフォトビューイング
御礼と報告3 原茂
2010年9月14日
 一枚写真を買って「来廊者」から「お客様」になることで起こるよいことというのは、飲み物が出てくるということだけではありません。そのギャラリーが取り扱っている(取り扱うことのできる)作品すべてが出てくるということです。

 メーカー系ギャラリーや貸ギャラリーであれば、そこで買えるのはそこに展示してある作品だけですが(もっとも、メーカー系ギャラリーの中には、商談禁止などというとんでもないところまであるわけですからびっくりです。「写真文化」というのは写真を撮って飾って見せてというだけではないはずなのですが・・・)、企画ギャラリーの売り物は展示作品だけではありません。むしろ、展示作品以外のものを売り買いすることによって企画ギャラリーは成り立っています。

 よくよく考えれば、よほど高額な作品でない限り、展示されている作品の売り上げだけで家賃や光熱費やスタッフの給与がまかなえるはずがありません。展示作品は氷山の一角で、水面下に隠されている部分の方がはるかに大きいのです。展示はデパートのショーウィンドウのようなものと言ったらもちろん言い過ぎですが、展示作品の背後に膨大なコレクションがあってこその企画ギャラリーなのです。

 大河原さんからは、あの「ツァイト・フォト」でさえ、最初は、というよりかなり長い間、写真の売り上げによってではなく、オーナーの石原悦郎さんのご専門だったフランスのアカデミズム絵画の売買によって支えられていたということをうかがいました。東京ステーションギャラリーで開催された「ラファエル・コラン」展の作品のほとんどは石原さんが納められたものだそうですし、ご自身いくつもの作品を美術館に寄贈されているそうです。思えば、「イル・テンポ」にも、棚の隅にはそういった絵画の台帳が並べられていて、一度見せていただいた時には、写真の価格とは桁の違う数字が並んでいてびっくりしたことを思い出しました。

 一般のギャラリーの場合ですと、こうしたギャラリーのコレクションを見せていただくためには、前もって連絡をして倉庫から出していただいたりといったことが必要になるのですが(文字通りのビューイングですね)、写真ギャラリーの場合には、多くの場合その場で見せてもらうことが可能です。ブックマットしていても十枚以上、プリントだけなら数十枚単位でミュージアムケースやストレージボックスに入ってしまう写真だからこそですが、展示されているもの以外の作品がいつもギャラリーの奥には用意されているのです。

 日本の場合、企画ギャラリーはそれほど大きくはありません。ですから展示できる作品の数は限られてしまいます。スペースの点で、また展示プランの関係で、壁に掛けることのできなかった作品は奥のストレージボックスの中で出番を待つことになります。「展示されている以外の作品も見せていただけますか」とお願いすれば、どこのギャラリーでも喜んで見せて下さるとは思いますが、「来廊者」の立場ではちょっと肩身が狭いのは致し方ありません。

 たとえ一点とはいえ、写真を購入すると、このギャラリーの宝箱とでもいうべきストレージボックスを開けていただくことにも罪悪感がなくなります。「ときの忘れもの」様では、スタージスの作品を展覧会終了後でも、誰でも自由に見ることができるようにしてくださっていますが、これは実に「太っ腹」なやり方といわなければなりません。

 私の場合、「イル・テンポ」に何度目かにうかがった際の「植田正治写真展ー1974年のヴィンテージ作品展」の時に、「他にもありますがご覧になりますか」と声をかけていただきました。1974年に「アサヒカメラ」誌に12回にわたって連載された「植田正治写真作法」(金子隆一編『植田正治 私の写真作法 』(TBSブリタニカ、2000年、所収)の中に登場した作品群でした。

 赤瀬川原平の「トマソン」がきっかけだったこともあって、「絶対非演出の絶対スナップ」主義の「ストレート一本槍」だった私にとって、「X氏」シリーズを含む「植田調」の作品群は、私のストライクゾーンを大きく離れた「見送って当然」の作品群だったわけですが、ストレージボックスから登場した、「一見らしくないというか、演出が見えないにもかかわらず、私たちの隣りに異世界への通路を一気に開いてしまう植田魔術を目の当たりにさせられる一枚」ということで、思わず「こ、これを、く、ください」ということになってしまいました。今では大切な私の<小>コレクションの一枚です。

 「来廊者」の皆様が「お客様」となって下さって、普段はなかなか見えない、水面下に隠されているギャラリーの豊かさを発見して下さり、ギャラリーの奥に隠されている「お宝」を掘り当てて下さるようにと願うことしきりです。
(はらしげる)



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