ときの忘れものが駒込にやってきたのは2017年。1995年の開廊以来拠点にしていた南青山の地が東京オリンピックで地上げに遭い、途方にくれていたところ、建築家の阿部勤先生がご自分の設計した駒込の住宅・LAS CASAS(1994年竣工、鉄筋コンクリート造三階建て)を紹介してくださいました。阿部先生は私どもの長年のお客様であり優れたコレクターでしたから、住宅建築でありながら美術作品の展示空間としても豊かな環境が整えられていました。駒込は古くからの住宅地であり、すぐ近くに六義園、東洋文庫ミュージアムがあります。

阿部勤先生は坂倉準三建築研究所の出身で、ル・コルビュジエの系譜に連なる建築家ですが、フランク・ロイド・ライトにも私淑しており、住宅作品にはライトの影響がみてとれます。戸尾任宏氏、室伏次郎氏と主宰した株式会社アーキヴィジョン建築研究所を経て、1984年室伏次郎氏と共に株式会社アルテックを設立。1985年[蓼科荘レーネサイドスタンレー]にて第4回日本建築家協会新人賞を受賞したのち、[私の家][五本木ハウス][美しが丘の家][賀川豊彦記念松澤資料館][スタンレー電気技術研究所][桜台の家]で個人事務所として最多6度の「建築25年賞」を受賞されました。

『中心のある家(くうねるところにすむところ―子どもたちに伝えたい家の本)』(2005、インデックス・コミュニケーションズ)、『暮らしを楽しむキッチンのつくり方』(2014、彰国社)、『中心のある家 建築家・阿部勤自邸の50年』(2022、学芸出版社)など著書も多数。早稲田大学理工学部や東京芸術大学芸術学部、女子美術大学、日本大学芸術学部などで教鞭をとられたことでも知られています。

阿部先生は2023年1月10日に亡くなられましたが(享年86)、LAS CASASはその精神が今も息づく名建築です。お近くにいらした際はぜひお立ち寄りください。

竣工間もないころ、Las Casasのガーデン・パーティにて、阿部勤先生(65歳頃)

LAS CASAS断面パース(『新建築 住宅特集』1996年4月号 より)