酒田市のモニュメント 

堀正


関根伸夫酒田市のモニュメント 昭和五十一年十月二十九日、酒田が大火……全国的に、テレビは赤々と報じた。そして二年後、私共住民にとっては、炎の熱気もさめやらぬ今ながら、次々と新しい商店が立ち並び、その核地点のショッピングモールには、力強いモニュメントが行きかう人々に新生の息吹きを与えている。
 酒田市の復興計画と、このモニュメント設置までの経過のすべてを報告するには紙数が許さない。簡単に芸術の復興参加の経過を述べよう。
 ひとことで言ってしまえば、酒田の清水屋の画廊に於いて版画センターの版画展を開催した折に関根さんと綿貫氏が来酒し、私共と面識ができたこと。酒田市商店街の復興の目玉、モールにモニュメントが望まれたこと。需要と供給が一致して完成したと云うだけのことなのだが――。五十三年七月中旬、モール計画の委員をしていた梅屋さん(商店主)が困惑した表情で漏らすに、「モールの構想はできた、そしてモニュメントの位置も決まっているのだが、肝心のモニュメントの作者が決まらずに困っている」と。モールの勉強に旭川まで、彫刻について国立近代美術館に何人かの商店街代表の人々が探訪を試みたのだが結論を得ず、時間は切迫している、と云うのである。
 私はもともと芸術には強い偏見の持ち主である。支持する作家と云えば、レジェ北川民次木内克、アンテス、靉嘔位と数が絞られている。敢て加えれば若手に、あの地面を掘りおこしたままの作品を発表した関根伸夫と云う作家の生き様に共感をおぼえていた。そんな私が、中心商店街大型店のキーテナントとして出店する清水屋の開発室を担当していたこと。そして、商店街の皆さんと共に昼夜を分たぬ開発作業に没頭していたこと、これが関根さんをご紹介できた発端ではある。
 発端なんかどうでもいい、私は今回、芸術と観衆との出合いの仕方に感動し、この仕事に携わったことを幸せに思っている。
 梅屋さんの依頼を受けてその場で版画センターに電話、関根さんの所在をつきとめて連絡。関根さん曰く、今晩出発し、明朝には酒田に着くと云うのである。二日後には個展のため、ヨーロッパ往きだからと云うことで、翌朝には、髭の高瀬さんと一緒に、確かに酒田駅に現われたのである。朝食もそこそこに酒田市の焼跡全域を見て廻る。現場はどこもかしこも建築途上、鉄骨とコンクリートと瓦礫で、火花を散らし、騒音をあげている。かつての来酒時の面影の痕跡もとどめぬ復興現場を見ながら、「作品構想はできた」とつぶやいた。やがて復興準備組合事務局で打ち合わせをすることになるのだが、云わずもがなのことながら、酒田の復興計画は市民の熱望である。どんなことをしても、この二年間で復興しなければ、生死が約束されないと云う緊迫感の中での集中的作業の中に一人一人が身を投じていたのである。何が何でも新しい商店街を創るんだ――膨大な借金を背負いながらも、明日に生きぬく闘いの日々であり、商店街の人々にとってモニュメントは、この闘いのエネルギーの凝縮をこめた期待が脈うっていたのである。
 美術品を求める時、往々にして見られる「金で買ってやるぞ」と云う、然も美しい下僕を求める如き、いやしい倣慢さはここの人々にはさらさらないのである。求めることが闘いであったのだ。そんなギリギリの突貫作業の最中に関根伸夫が飛んで来たことになる。懸命に生き抜こうとする、求める側の姿勢もいい。制作者の生き生きした若さ、エネルギッシュで行動的で磊落で、充実しきっている作家面がよかった。アトリエにふんぞり返りながら見下す難かしや先生でなく、環境美術研究所のプロジェクト構成も、我々共同作業に没頭している者たちにとっては、ピタッと決まる呼吸があった。結合の火花が散り、たった一度の会合で、発注に踏み切ることになったのである。五十三年七月のことである。
 八月七日、高瀬さんがプレゼンテーションを持参し、正式に発注調印。
 酒田市中町第四、五街区モール計画
 <イベント広場>モニュメント制作
 (基本計画プレゼンテーション資料)
      株式会社環境美術研究所
が提示される。内容は三部作であった。
No.1「、酒田の歩み石」
No.2「Top of the pyramid」
No.3、「酒田の門」(仮称)の提案がなされ、No.3と決定。「題名」は後に一般公募して、「ふれあいの門」と名付けられる。
 十月十三日到着、取付作業。
 十月二十八日の商店街オープンには数万の人手の中で、キラキラと輝いていた。
 十一月五日、除幕式。皆でビールをかけて祝いあった。
 私共は今、モニュメントと共に、不滅の街作りに体を張り続けてゆくことを誓いあっている。

ほり ただし

*現代版画センター機関誌『版画センターニュース PRINT COMMUNICATION』No.44(1979年2月1日発行)より

関根伸夫月を呼ぶ_600
関根伸夫「月をよぶ
1975年 シルクスクリーン
53.0×35.0cm  Ed.75
signed

関根伸夫「三角のピラミッド」600
関根伸夫「ピラミッドの頂き
1982年  ステンレス・彫刻
H20.0×15.0×30.0cm
Ed.30 signed

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