ときどき出版社の方が、本や雑誌の表紙に使う絵の相談に訪ねて来られます。
昨年も光村図書から『ベスト・エッセイ2009 父娘の銀座』という本が刊行され、その表紙に大沢昌助先生の「人と影」という作品が使われました。1980年に私がエディションしたリトグラフです。
年末近い頃、今度は角川書店の方が見えて、五木寛之さんがこのリトグラフを気に入っているので、文庫の表紙に使いたいといって来られました。
「先日、光村の本で使われたばかりですよ」と言ったのですが、五木さんがそれでもいいと言ったとか。

お正月早々、角川文庫から五木さんの本が発刊されました。
霊の発見
五木寛之 対話者・鎌田東二「霊の発見」
角川文庫 263ページ 514円(税別)

霊、ということばだけで、なんとなく危ぶむ人びとは少なくない。まして学問の世界では、さまざまな偏見や誤解に見舞われるおそれもあるテーマである。
うさんくさい存在であることを良しとする小説家とちがって、アカデミズムの世界から勇気と思想性に富んだ対話者を招くことは至難のわざに思われた。
しかし、鎌田東二さんがその対話者としての役を引きうけてくれたとき、この本は、ほぼ完成したように感じられた。私は素朴な体験にもとづいて話題を提供し、疑問を呈したにすぎない。鎌田さんの対話力なしには、この一冊は誕生しなかっただろう。・・・・・・
   「あとがきにかえて 五木寛之」より

●表紙に使われた作品
大沢昌助「人と影」
1980年 リトグラフ
作品サイズ:27.5×22cm、シートサイズ:42×33cm
限定100部 鉛筆サイン有り
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◆大沢昌助(おおさわ しょうすけ)は、1903年東京生まれ、父・大沢三之助は後に東京美術学校図案科教授として芸大の建築科の礎を築いた先駆者である。1928年東京美術学校西洋画科卒業、翌年には二科会に初出品(入選)し、以後長く活躍した(82年退会)。戦後の二科会再建にも参加。現代日本美術展、サロン・ド・メ、国際形象展、サンパウロ・ビエンナーレなど国際展にも数多く出品し、具象から出発した自己の画業を見事に抽象へと昇華させ、独特の大沢絵画の世界を確立した。多くの人に愛され1997年5月死去。享年93。

福沢諭吉の一族として生まれた大沢先生には、江戸の流れを継いだ良き都会人としてのセンスがありましたが、それは一面においてひよわなものと誤解されたかも知れません。薩摩に代表される田舎出の画家のバイタリティは、大沢先生にはもっとも遠いものでした。絵のうまさを表に出さず、生涯を淡々と己の信じる絵の道に生き、晩年まで制作意欲が衰えることはありませんでした。しゃれた画面構成、80年代以降の作品に特徴的な抜群の明るい色彩は、もっと評価されてよいのではないでしょうか。