東京の閑静な住宅地・成城の街角に民俗学者・柳田國男が書斎とした洋館があり、1978年から90年代にかけて柳田冨美子さんが経営する「緑蔭小舎」という素敵なギャラリーがあったのをご存知ですか。
緑蔭小舎外観
緑蔭小舎外観(現在は長野県の飯田市美術博物館に移築され、柳田國男館として活用されています。

柳田冨美子さんポートレート
緑蔭小舎にて柳田冨美子さん

ときの忘れものでは、この画廊の歴史をまとめた『緑蔭小舎と作家たち』を刊行いたしました。
実は昨年11月に本自体は出来上がっていたのですが、皆様にお披露目するのが遅くなってしまいました。
編集担当の尾立麗子が入社直後から手がけて、可能な限り正確な記録集にしたいと編集作業をしてきました。当初は柳田さんの米寿のお祝いに間に合うようにと予定をたてていたのですが、保存されていた資料を分類・整理し、読みやすい内容にまとめあげるのに思わぬ時間がかかってしまいました。
編集後記は亭主が書きましたが、実質的には尾立がひとりで仕上げた本です。

緑蔭小舎表紙緑蔭小舎と作家たち P16-P17(C)北澤敏彦+DIX-HOUSE


『緑蔭小舎と作家たち』
著者:柳田冨美子
発行日:2009年11月3日
発行:ときの忘れもの(綿貫令子)
編集:尾立麗子・秋葉恵美・綿貫不二夫
デザイン:ディスハウス(北澤敏彦・森田茂)
印刷:モリモト印刷?
サイズ:26.3×19.0cm
ページ:159頁
*非売品、限定500部刊行

本書は著者の柳田さんから各出品作家、ご遺族、美術館、図書館、美術史研究者、その他関係者の方々に献呈されました。
若干の残部がありますので、ご希望の方はときの忘れものまでメールにてお申し込みください(締め切り/5月10日)。送料(着払い)のみご負担ください。希望者多数の場合は抽選とさせていただきます。


編集後記
1978年11月、窪島誠一郎さん企画の「信濃デッサン館収蔵作品公開展」を序章として始まった緑蔭小舎の歴史を一冊にまとめたいと舎主・柳田冨美子さんに申し入れたのはかれこれ5年程前になります。
1970年代後半から90年代にかけて街の一角で営まれた展覧会活動の記録は、その水準の高さからいってきっと美術史においても貴重な証言になるに違いない、一画廊の10数年にわたる展覧会活動をなるべく正確に、共に歩んだ作家たちの創作記録としても残るような本にしたいと言うのが私たちの提案でした。
柳田さんの米寿のお祝いに間に合うようにと編集にとりかかったのですが、保存されていた資料を整理し、正確な記録集にまとめあげるのに思わぬ時間がかかってしまいました。辛抱強く待ってくださったことに感謝する次第です。
今から30年前、成城のお屋敷街に天井の高い洋館のギャラリー空間が出現したことは、当時駆け出しの私たちには新鮮な驚きであり、舟越保武、山口長男、松田松雄と続いた個展のラインナップは憧れの的でした。柳田さんの周囲にはよきブレーンが集まり、その一人がMORIOKA第一画廊の上田浩司さんでした。現代版画センターを主宰し、大沢昌助難波田龍起舟越保武ら諸先生たちの版画の版元でもあった私たちも上田さんに連れられて初めて緑蔭小舎にお伺いし、その後いくつかの展覧会のお手伝いもさせていただきました。
しかし柳田さんとのおつきあいはむしろ緑蔭小舎を閉めてからの方が頻繁になりました。
1995年に画廊&編集事務所「ときの忘れもの」として再出発した私たちを応援して柳田さんがコレクションの整理をまかせてくださいました。私たちが企画する建築&美術館ツアーにはいつも最高齢で参加され、弘前や福井県勝山に旅したことも楽しい想い出です。
大正の東京生まれ、ちゃきちゃきのお転婆娘が世間に名だたる学者の家に嫁入りし、主婦としてお子さんたちを育て上げ、勤め人でいえば定年近くになっていきなり画商になるなんて考えてみれば、随分と破天荒な話ではあります。
そんな柳田さんの生き方の一端がこの本からうかがえれば嬉しい限りです。

          綿貫不二夫、令子(ときの忘れもの)

1983緑蔭小舎展
1983年4月「大沢昌助展 水彩と版画」にて
難波田龍起(左)と綿貫不二夫
本書62頁より

*緑蔭小舎では、舟越保武山口長男、松田松雄、森芳雄、須田寿、相原求一朗、坂倉新平、大沢昌助、馬場彬、佐野ぬい、難波田龍起長谷川潔畦地梅太郎、西常雄、寒川典美、松岡映丘、青木一美、佐藤忠良、吉井忠、寺田政明、大野五郎、末松正樹、清水三渓、カルペンチール、稲垣知雄、小林喜巳子、秋野勝彦、中谷泰、前島とも、永見譲治、滝沢修、宮下森、渡辺皓司、渡辺享子、羽子田長門、松葉良、磯崎新脇田和、葉逢儀、衣川俊仁、南大路一、柳原義達、小西治男、深水正策、馬場檮男、ヤコブ・デムス、真道茂、安東千恵子、黄書東らの個展やグループ展が開催されました。

緑陰小舎と作家たち(2010年5月1日)

『緑蔭小舎と作家たち』へ寄せられた感想1(2010年5月6日)

『緑蔭小舎と作家たち』へ寄せられた感想2(2010年5月24日)