亭主は活字中毒である。
出かけるときにも本を持っていないと落ち着かない。通勤途中でも電車を途中下車してキオスクに駆け寄り、雑誌か新聞を買い込むことしばしばである。
ン十年前の2月、倒産したとき、中学生以来買い続けてきた本を全て売り払った。
もう二度と本を買うことはあるまいと、そのときは思った。
長年住んでいた豪邸(嘘です)を出て、江古田のお墓の前にあったアパートに引っ越した。
亭主はなぜか不動産運だけは強く、このときも無職・文無しだったにもかかわらず、飛び込みで入った不動産屋が、「大家が新婚の息子夫婦のために二階を増築したのだけれど、嫁さんが同居をいやがって入居しなかった」という新築ぴかぴかの2Kを格安で紹介してくれた。
風呂なしだったが、隣が銭湯なので不自由はしなかった。
学生の街、江古田には古書店が何軒もあったけれど、かつて集めた珍本、稀覯本などは買えるはずもない、軒先の箱に詰め込まれた100円均一本だけをのぞく。
そこで初めて山本周五郎にはまってしまった。倒産前には周五郎なんてただの一冊も読んだことはなかった。
乏しい財布から100円を取り出し、次々と周五郎を買い、「オレはなんて人情に疎かったんだろう」とわが身の傲慢さを反省しつつ読みふけった。
倒産のおかげで、人間がいかに豹変するかという実例を山ほど知りました。周五郎の世界が身にしみたのはそのせいでしょう。
あれからまた本が増えてしまった・・・・ 今では再び本に埋もれて暮らしています。
ときの忘れものにも本好きのお客さまが多い。
仕事をリタイアされた後、膨大な蔵書を処分するためにオンライン古書店「紙魚庵」をたちあげた大西さんもそのひとり。
ご自分の歩んできた道を振り返りながら、好きな音楽や絵の話、お読みになった本の卓抜な書評、日々の雑感を書き綴った小冊子をいつも送ってくださっていたのだが、しばらくお便りがなかった。
おからだが不自由なこともあり、心配していたのですが、先日見慣れた字の封筒が届きました。
***********

昨年の夏、荻窪周辺の同人誌「本を愉しむ人々」が休刊となり、
それに合わせて、二年半続いていた「紙魚庵日暦」もお休みさせていただきました。
一方私ごとですが、突然、何する気力もなくなり、まさに閉じこもりに陥り、
昨年末からずっと長い落ち込み状態に入っておりました。
春はまだまだ遠いことと思われますが、それでも、凍土から新芽が出るが如く、
やっと、その気が息吹きはじめたようで、新しいシリーズをお届けできるまでになりました。
(中略)
一昨年、”終の住処”と決めたマンションのリフォームを行いました。
老いの身支度? この機に思い切って蔵書の半分を整理しました。
これまで忘れていましたが、思い出ある本がゾロゾロ出てきました。
そこで、その本にまつわる懐かしい事どもをまとめてみることにしました。
(後略)
***********
同封されていたのは『紙魚の本棚』という手作りの小冊子でした。
<この一冊 連載1 田中阿喜良という画家>というタイトルを見て、ちょっと驚き、懐かしく思いました。
亭主が美術界に入ったきっかけは「現代版画のパトロン 久保貞次郎」というエッセイに書いた通りですが、井上房一郎さんに連れられて初めて訪れた鎌倉の近代美術館、館長土方定一さんが主宰するパーティでお目にかかったのが田中阿喜良さんだったのです。亭主が生れて初めて会ったプロの画家ということになります。
大西さんの文章は、田中阿喜良さんのことに始まり、辻邦生さんの『のちの思いに』へと転じ、大西さんの母校大阪の高津高校(田中阿喜良もこの学校の出身)の思い出へと移り、若い頃衝撃を受けたベン・ニコルソンについて語ります。
大西さんが「行動美術」に初出品した作品はベン・ニコルソン風の抽象画だったと知り、ニコルソン大好きの亭主としては、またまた嬉しくなりました。
大西さんの蔵書や文章については、ぜひ紙魚庵のサイトをご覧ください。
◆コレクションから、田中阿喜良とベン・ニコルソンの作品をご紹介します。

田中阿喜良「チェロ弾き」
リトグラフ 63.3×48.5cm
(額サイズ:85.0×68.4cm)
Ed.200 signed

ベン・ニコルソンBen NICHOLSON
「Tesserete A.53」1966年 銅版
18.8x22.8cm
Ed.50 signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆29日で終了した「没後20年 孤高のモダニスト福田勝治写真展」に関連して画廊では山口県立美術館の回顧展図録を販売しています。ご希望の方は、メールにてお申し込みください。

『写真家/福田勝治展 孤高のモダニスト』図録
会期:1994.10.7-1994.11.27
発行:山口県立美術館
編集:榎本徹、河野通孝
270p ; 30cm
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出かけるときにも本を持っていないと落ち着かない。通勤途中でも電車を途中下車してキオスクに駆け寄り、雑誌か新聞を買い込むことしばしばである。
ン十年前の2月、倒産したとき、中学生以来買い続けてきた本を全て売り払った。
もう二度と本を買うことはあるまいと、そのときは思った。
長年住んでいた豪邸(嘘です)を出て、江古田のお墓の前にあったアパートに引っ越した。
亭主はなぜか不動産運だけは強く、このときも無職・文無しだったにもかかわらず、飛び込みで入った不動産屋が、「大家が新婚の息子夫婦のために二階を増築したのだけれど、嫁さんが同居をいやがって入居しなかった」という新築ぴかぴかの2Kを格安で紹介してくれた。
風呂なしだったが、隣が銭湯なので不自由はしなかった。
学生の街、江古田には古書店が何軒もあったけれど、かつて集めた珍本、稀覯本などは買えるはずもない、軒先の箱に詰め込まれた100円均一本だけをのぞく。
そこで初めて山本周五郎にはまってしまった。倒産前には周五郎なんてただの一冊も読んだことはなかった。
乏しい財布から100円を取り出し、次々と周五郎を買い、「オレはなんて人情に疎かったんだろう」とわが身の傲慢さを反省しつつ読みふけった。
倒産のおかげで、人間がいかに豹変するかという実例を山ほど知りました。周五郎の世界が身にしみたのはそのせいでしょう。
あれからまた本が増えてしまった・・・・ 今では再び本に埋もれて暮らしています。
ときの忘れものにも本好きのお客さまが多い。
仕事をリタイアされた後、膨大な蔵書を処分するためにオンライン古書店「紙魚庵」をたちあげた大西さんもそのひとり。
ご自分の歩んできた道を振り返りながら、好きな音楽や絵の話、お読みになった本の卓抜な書評、日々の雑感を書き綴った小冊子をいつも送ってくださっていたのだが、しばらくお便りがなかった。
おからだが不自由なこともあり、心配していたのですが、先日見慣れた字の封筒が届きました。
***********

昨年の夏、荻窪周辺の同人誌「本を愉しむ人々」が休刊となり、
それに合わせて、二年半続いていた「紙魚庵日暦」もお休みさせていただきました。
一方私ごとですが、突然、何する気力もなくなり、まさに閉じこもりに陥り、
昨年末からずっと長い落ち込み状態に入っておりました。
春はまだまだ遠いことと思われますが、それでも、凍土から新芽が出るが如く、
やっと、その気が息吹きはじめたようで、新しいシリーズをお届けできるまでになりました。
(中略)
一昨年、”終の住処”と決めたマンションのリフォームを行いました。
老いの身支度? この機に思い切って蔵書の半分を整理しました。
これまで忘れていましたが、思い出ある本がゾロゾロ出てきました。
そこで、その本にまつわる懐かしい事どもをまとめてみることにしました。
(後略)
***********
同封されていたのは『紙魚の本棚』という手作りの小冊子でした。
<この一冊 連載1 田中阿喜良という画家>というタイトルを見て、ちょっと驚き、懐かしく思いました。
亭主が美術界に入ったきっかけは「現代版画のパトロン 久保貞次郎」というエッセイに書いた通りですが、井上房一郎さんに連れられて初めて訪れた鎌倉の近代美術館、館長土方定一さんが主宰するパーティでお目にかかったのが田中阿喜良さんだったのです。亭主が生れて初めて会ったプロの画家ということになります。
大西さんの文章は、田中阿喜良さんのことに始まり、辻邦生さんの『のちの思いに』へと転じ、大西さんの母校大阪の高津高校(田中阿喜良もこの学校の出身)の思い出へと移り、若い頃衝撃を受けたベン・ニコルソンについて語ります。
大西さんが「行動美術」に初出品した作品はベン・ニコルソン風の抽象画だったと知り、ニコルソン大好きの亭主としては、またまた嬉しくなりました。
大西さんの蔵書や文章については、ぜひ紙魚庵のサイトをご覧ください。
◆コレクションから、田中阿喜良とベン・ニコルソンの作品をご紹介します。

田中阿喜良「チェロ弾き」
リトグラフ 63.3×48.5cm
(額サイズ:85.0×68.4cm)
Ed.200 signed

ベン・ニコルソンBen NICHOLSON
「Tesserete A.53」1966年 銅版
18.8x22.8cm
Ed.50 signed
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◆29日で終了した「没後20年 孤高のモダニスト福田勝治写真展」に関連して画廊では山口県立美術館の回顧展図録を販売しています。ご希望の方は、メールにてお申し込みください。

『写真家/福田勝治展 孤高のモダニスト』図録
会期:1994.10.7-1994.11.27
発行:山口県立美術館
編集:榎本徹、河野通孝
270p ; 30cm
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