マン・レイ・イストの「アートフェア京都」観戦記その1 石原輝雄
京都の繁華街が烏丸通りに移って久しい。京都駅に伊勢丹百貨店が入り地下鉄でのアクセスが良いため四条から御池通りにかけてお洒落な店が増えている。そして、戦前からの洋建築が残っている烏丸三条辺りにはイノダコーヒ本店や贔屓の居酒屋こしのがあるのでブラブラする事が多い──もっとも観光客のカップルを見る為なんだけど。その烏丸通りを三条から下がった西側にホテルモントレ京都が開業したのは2007年3月、このホテルチェーンはロンドン、ウイーン、パリ、ニューヨークなどの都市をテーマとした建築様式を採用して全国展開を図っており、京都の場合はスコトランドのエジンバラをモデルにしたと云う。見学に訪れたときロビーにルノワールの油彩『鏡の中の婦人』と『水浴みの後』が掛けられていたので驚いて尋ねたところ「社長の趣味でオリジナルです」との返答だった。その他にも館内のいたるところに19世紀の風景画や肖像画が飾られていてうなった、海外の古いホテルならば普通にある事柄だけど、日本でも実現されているのは素晴らしい、得をした気分。何気なくそこにあるのが良いことなんだ。そんな訳でちょっと好意を持ったホテルモントレ京都を会場にする「アートフェア京都」の第二回展が5月20日(金)から22日(日)まで開かれると知って出掛けた。
この情報を最初に知ったのは「ギャラリー ときの忘れもの」のブログだった。「京都には社長とそのお供で亭主が参ります」とあったものだから、是非お二人にお会いしたいと思った訳。初日の夕方、仕事を済ませ6時前にホテル4階へ、411号室から順番にと見始めたら、あまりに面白くて「ギャラリー ときの忘れもの」のブースを拝見するまでに1時間も掛かってしまった。壁面だけではなく客室のベッドに並べられ、さらに浴室とトイレを占有する作品。それぞれに力が無ければ、学園祭の行事になってしまうけど、見応えのある仕事ばかりだった。若い作家の自己満足ではなく、アート作品に必要な客観化、作者を離れ自立しているからこそ、所有したくなる作品、コレクター魂をムズムズさせる作品のいくつかと出会ってしまった。でも我慢しなければ、我慢するからこそマン・レイを購入し続けられるのだ。さて、「ギャラリー ときの忘れもの」のブースとなっている421号室は北東の角部屋で、正面にジョナス・メカス、エントランスには宮脇愛子さんの真鍮彫刻が暖かい光に包まれて置かれている。その対向には細江英公の新作写真。廊下の喧噪が立ち入らないように仕切られ、他の部屋に比べてゆったりしている。このタイプの部屋は「デラックスコーナーツイン」と云うのだろうか。早速、お二人に挨拶し作品を拝見する。手前のベッドの上にジョック・スタージスの写真、奥のベッドには宮脇愛子さんの真鍮彫刻──生前のマン・レイが手にとって光を覗いたのだと思うと嬉しい、そして窓側には宮脇さんの新作折り本『オマージュ マン・レイ』が見事にディスプレーされ、裏面のマン・レイ側が鏡に反射している。これはル・フェルーのアトリエに居るような錯覚をおこさせる現象、折り本に貼られた淡い色調のオリジナル写真の訴求力と、イメージを形ある物にし保存する行為の勝利であり、眼の前で笑っている小柄な女性の指先から生まれたのを知っているわたしとしては、心からの感謝を伝えたい(恥ずかしくて直接には言えないけどね)。
ベッド側の壁面には、小野隆生の新作テンペラ3点、不思議な存在感、空気漂う肖像である。ここは現実の京都の街だけど、イタリアでありアメリカでありパリでもあるような国際性を持つ空間に変わっている。作品の魅力が果たす役割は大きい。そして、第二室に入るとTSUYUのインスタレーション、尾形一郎・尾形優の大判写真。知らない街のコルマンスコップなのに、知っているような気分にさせるのは、淡いブルーと砂の組み合わせから来るのだろうか、「歩いた事があったのだろうか」と記憶を探させる写真だ。その記憶の糸口をもたらせるのが井桁裕子の人形。小さな瞳には何が入っているのだろうか。日暮れた窓の外に目をやるとみずほ銀行京都中央支店の赤い煉瓦と白い横帯模様(明治時代を代表する辰野式の建物)が心地よい。この建物を見ながらオープンエアーで珈琲を飲むのが好きなんだ。
その後、お二人に誘われてレセプションに参加する。会場はホテル二階のホール・ケンジントン。ウエルカム・ドリンクに白ワインをいただき良い気分となったのは、別室に飾られていた19世紀イギリスの油彩『リボンをつけた少女の肖像画』のなせる技だろうか。パーティーでは「お酒を止めた」と云う綿貫さんの心温まるお話をお聞きし、いろいろな関係者の方々を紹介いただいた。それが、美形の作家ばかりで有頂天になりそうだった。美しくなければ良い作品は造れない。この関係式に理屈はないけど、経験則としては正解だから、屈折した人生、自己を解放するための作品制作、そうした時代はもうこないのかと思えるほどだ。
さらに、二次会に誘われ錦市場近くの居酒屋に移動し、楽しく歓談した(浜田さんありがとう。次ぎは東京でお会い致しましょう)。
(いしはら てるお、明日に続く)

アートフェア京都の会場となったホテルモントレ京都

会場のホテル玄関

421号室の社長と亭主。左は宮脇愛子作品、右は細江英公作品。

初日のパーティ会場で、左が石原さん。

パーティには多くの人が参加されました。

美女を囲んで。右が最強の助っ人・浜田さん。

421号室ときの忘れものの展示風景。

カタログ、写真集の展示と販売。

508号室の震災支援チャリティ室、ときの忘れものはジョック・スタージスさんの写真2点を提供しました。
*画廊亭主啓白
さきほど(23日零時25分)アートフェア京都の撤収梱包作業を終えてホテルに戻り、慌ててこのブログを書いています。
初日夜のパーティに参加してくださったマン・レイのコレクター、石原輝雄さんが観戦記を執筆してくださいましたので、早速アップさせていただきました。
ノートパソコンなるものを初めて買ってスタッフの助けも借りず、四苦八苦しながらブログの掲載作業をしています。
アートフェア京都の総括は後ほど詳しく書きますが、とにかく気持ちのよいフェアだったことをご報告して本日のところは締めさせていただきます。
ご来場の皆さんには心より御礼申し上げます。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
京都の繁華街が烏丸通りに移って久しい。京都駅に伊勢丹百貨店が入り地下鉄でのアクセスが良いため四条から御池通りにかけてお洒落な店が増えている。そして、戦前からの洋建築が残っている烏丸三条辺りにはイノダコーヒ本店や贔屓の居酒屋こしのがあるのでブラブラする事が多い──もっとも観光客のカップルを見る為なんだけど。その烏丸通りを三条から下がった西側にホテルモントレ京都が開業したのは2007年3月、このホテルチェーンはロンドン、ウイーン、パリ、ニューヨークなどの都市をテーマとした建築様式を採用して全国展開を図っており、京都の場合はスコトランドのエジンバラをモデルにしたと云う。見学に訪れたときロビーにルノワールの油彩『鏡の中の婦人』と『水浴みの後』が掛けられていたので驚いて尋ねたところ「社長の趣味でオリジナルです」との返答だった。その他にも館内のいたるところに19世紀の風景画や肖像画が飾られていてうなった、海外の古いホテルならば普通にある事柄だけど、日本でも実現されているのは素晴らしい、得をした気分。何気なくそこにあるのが良いことなんだ。そんな訳でちょっと好意を持ったホテルモントレ京都を会場にする「アートフェア京都」の第二回展が5月20日(金)から22日(日)まで開かれると知って出掛けた。
この情報を最初に知ったのは「ギャラリー ときの忘れもの」のブログだった。「京都には社長とそのお供で亭主が参ります」とあったものだから、是非お二人にお会いしたいと思った訳。初日の夕方、仕事を済ませ6時前にホテル4階へ、411号室から順番にと見始めたら、あまりに面白くて「ギャラリー ときの忘れもの」のブースを拝見するまでに1時間も掛かってしまった。壁面だけではなく客室のベッドに並べられ、さらに浴室とトイレを占有する作品。それぞれに力が無ければ、学園祭の行事になってしまうけど、見応えのある仕事ばかりだった。若い作家の自己満足ではなく、アート作品に必要な客観化、作者を離れ自立しているからこそ、所有したくなる作品、コレクター魂をムズムズさせる作品のいくつかと出会ってしまった。でも我慢しなければ、我慢するからこそマン・レイを購入し続けられるのだ。さて、「ギャラリー ときの忘れもの」のブースとなっている421号室は北東の角部屋で、正面にジョナス・メカス、エントランスには宮脇愛子さんの真鍮彫刻が暖かい光に包まれて置かれている。その対向には細江英公の新作写真。廊下の喧噪が立ち入らないように仕切られ、他の部屋に比べてゆったりしている。このタイプの部屋は「デラックスコーナーツイン」と云うのだろうか。早速、お二人に挨拶し作品を拝見する。手前のベッドの上にジョック・スタージスの写真、奥のベッドには宮脇愛子さんの真鍮彫刻──生前のマン・レイが手にとって光を覗いたのだと思うと嬉しい、そして窓側には宮脇さんの新作折り本『オマージュ マン・レイ』が見事にディスプレーされ、裏面のマン・レイ側が鏡に反射している。これはル・フェルーのアトリエに居るような錯覚をおこさせる現象、折り本に貼られた淡い色調のオリジナル写真の訴求力と、イメージを形ある物にし保存する行為の勝利であり、眼の前で笑っている小柄な女性の指先から生まれたのを知っているわたしとしては、心からの感謝を伝えたい(恥ずかしくて直接には言えないけどね)。
ベッド側の壁面には、小野隆生の新作テンペラ3点、不思議な存在感、空気漂う肖像である。ここは現実の京都の街だけど、イタリアでありアメリカでありパリでもあるような国際性を持つ空間に変わっている。作品の魅力が果たす役割は大きい。そして、第二室に入るとTSUYUのインスタレーション、尾形一郎・尾形優の大判写真。知らない街のコルマンスコップなのに、知っているような気分にさせるのは、淡いブルーと砂の組み合わせから来るのだろうか、「歩いた事があったのだろうか」と記憶を探させる写真だ。その記憶の糸口をもたらせるのが井桁裕子の人形。小さな瞳には何が入っているのだろうか。日暮れた窓の外に目をやるとみずほ銀行京都中央支店の赤い煉瓦と白い横帯模様(明治時代を代表する辰野式の建物)が心地よい。この建物を見ながらオープンエアーで珈琲を飲むのが好きなんだ。
その後、お二人に誘われてレセプションに参加する。会場はホテル二階のホール・ケンジントン。ウエルカム・ドリンクに白ワインをいただき良い気分となったのは、別室に飾られていた19世紀イギリスの油彩『リボンをつけた少女の肖像画』のなせる技だろうか。パーティーでは「お酒を止めた」と云う綿貫さんの心温まるお話をお聞きし、いろいろな関係者の方々を紹介いただいた。それが、美形の作家ばかりで有頂天になりそうだった。美しくなければ良い作品は造れない。この関係式に理屈はないけど、経験則としては正解だから、屈折した人生、自己を解放するための作品制作、そうした時代はもうこないのかと思えるほどだ。
さらに、二次会に誘われ錦市場近くの居酒屋に移動し、楽しく歓談した(浜田さんありがとう。次ぎは東京でお会い致しましょう)。
(いしはら てるお、明日に続く)

アートフェア京都の会場となったホテルモントレ京都

会場のホテル玄関

421号室の社長と亭主。左は宮脇愛子作品、右は細江英公作品。

初日のパーティ会場で、左が石原さん。

パーティには多くの人が参加されました。

美女を囲んで。右が最強の助っ人・浜田さん。

421号室ときの忘れものの展示風景。

カタログ、写真集の展示と販売。

508号室の震災支援チャリティ室、ときの忘れものはジョック・スタージスさんの写真2点を提供しました。
*画廊亭主啓白
さきほど(23日零時25分)アートフェア京都の撤収梱包作業を終えてホテルに戻り、慌ててこのブログを書いています。
初日夜のパーティに参加してくださったマン・レイのコレクター、石原輝雄さんが観戦記を執筆してくださいましたので、早速アップさせていただきました。
ノートパソコンなるものを初めて買ってスタッフの助けも借りず、四苦八苦しながらブログの掲載作業をしています。
アートフェア京都の総括は後ほど詳しく書きますが、とにかく気持ちのよいフェアだったことをご報告して本日のところは締めさせていただきます。
ご来場の皆さんには心より御礼申し上げます。
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