光嶋裕介さんから、新春メッセージ

新年あけましておめでとうございます

思えば僕が学生だった10年前、
世界的建築家となった安藤忠雄氏の版画展が見たくて
ふらふらと入ったのが、ときの忘れものギャラリーでした。

それ以来、版画に写真に多くの展覧会を見に来たものだ。
4年働いたドイツ・ベルリンの設計事務所をやめ、
帰国した時、僕の師である石山修武氏の銅版画展が開催されていた。
学生時代から目にしてきた石山さんのスケッチと、
それらの銅版画は全く違っていた。
画面を飛び出さんばかりの豊潤な世界観、創作の幅の広さに圧倒され
ある想いが脳裏に巡る

僕もやってみたい、
いや、やらなければならないと思ったのだ。

鐵(てつ)は熱い内に打て、とは師匠の言葉。

オープニングで刷り師の白井さんに直談判し、
2週間に1度、版画教室に通わせてもらうようになった。
紙にペンで描くドローイングとは似て非なるもので、
針で銅板に描く感覚はとても新鮮で、楽しかった。
内なる自分との対話。

建築家として建物を設計する時に、
いかに自分の視線が
遠くまでをも見渡せるかを強く意識している。
そのために、
僕は銅版画を彫っている。
それが多様で新しい本質へとたどり着き、
作品に強度を与えると信じて。

そして昨年、
神戸に凱風館(がいふうかん)という建築が竣工した。
僕にとってのまぎれもない初めての建築、処女作である。
大きなオーケストラを指揮するマエストロのように、
僕は最大限のことをやりきった。
建築という音楽を結晶化して
生まれたのが凱風館である。

これらの版画を彫っていた時間も
少なからず建築設計に深く影響しているだろう。
何かをつくるにあたって
可能な限り多くの次元でアイデアを検討し、
感覚を自由に開放することが重要であるから。

今年、そんな僕の銅版画を
ときの忘れものギャラリーで
発表する機会を頂き、大変嬉しいと同時に
きゅっと身の引き締まる思いである。

一枚の版画が語る言葉は大変大きい。
作品は空間で呼吸する。
それをたくさんの方々に見てもらい、
新しいご縁が大木の枝葉のように
広がっていくことを何より楽しみにしている。
(こうしまゆうすけ)
光嶋裕介1
光嶋裕介 銅版画

光嶋裕介2
光嶋裕介 銅版画

◆画廊亭主敬白
5月末から6月初旬にかけて光嶋裕介さんの銅版画による個展を開催します。
初対面で麻雀の負けっぷりがいいからと論客・内田樹さんがいきなり自宅兼道場の設計を、まだ何一つ実績のない光嶋さんに依頼した、もはや伝説になりつつある話ですが、世の中まだ捨てたもんじゃあない。
建築家に必須の条件はもちろん才能ですが、いい施主に巡り会えるかという運もあるでしょう。才能という力と強運という星の下に生まれた光嶋さんの今後の活躍に期待しましょう。
久々の大型新人の登場です。