昨日は朝から晩まで席に着く間もなくお客さまの応対に追われました。
亭主は前夜のレセプションの疲れで(帰宅は午前零時)、週末くらいのんびりしようかと思っていたのですが、客が来る来る、ブームというのはこういう現象を言うのでしょうか。
羽鳥書店さんに無理いって納品していただいた50冊の光嶋裕介ドローイング集もあっという間に売り切れ、慌てて追加注文しました。
常時10人近い人が画廊に滞在するなんて、ときの忘れものの歴史でも安藤忠雄展(1998年)とジョナス・メカス展(2002年)以来かも知れない。

驚いたのは、光嶋裕介の名も、ときの忘れものの名も知らずにいらした客が数人いたことです。
聞けば、内田樹先生のブログを読んで来られたとか。
美術の愛好家でもなければ、建築好きというのでもない、正真正銘「内田ファン」。

内田先生のブログのアクセスは<24,455,329>。
二千四百万(!)アクセス・・・・ 余りの桁数に眼鏡を外して数字を読み直しました。

光嶋さんは内田先生の住宅の設計者に選ばれたことがきっかけで、次々に幸運が舞い込んだ、というよりチャンスを自ら呼び込む力があったということでしょうね。
旬の人の勢いを感じます。

亭主は昔からのろまである。
機を見るに敏、ではまったくない。
葬式に駆けつけ、お焼香が終わるやご遺族に遺作の取扱いを交渉するようなすばしっこさはまったくない。
流行やブームなどというものから最も縁遠い。
いつも、早すぎて、遅すぎる。

だから今回のような現象はまことに居心地が悪い。
そうは言っても売れるのは実に嬉しい。
本日(日曜)も明日(月曜)も画廊を開けて「光嶋裕介銅版画展―Landscape at Night」を開催していますので、ぜひお出かけください。
常連のHさんがブログで感想を書いてくださいましたので、お読みください。
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上述の通り、亭主は日陰に咲く花や、辺鄙なところで必死に生きている人たちに心魅かれる。
そんな性癖から、先日もブログで「遠くて小さくて不便極まりない、それでも輝いている美術館」二つをご紹介したところ、さっそくいくつか反応がありました。
駄文をお読みいただき恐縮であります。
百瀬寿さんのことはわかるが、戸村茂樹さんとは誰ぞやというお問合せもありました。

戸村さんと亭主は長い付き合いで、盛岡通いが始まった頃からなのでかれこれ40年近い。
イタリア旅行に一緒に行ったり(後述)、先日の植田実先生との松本竣介行脚の案内をしていただいたり、といつもお世話になるばかりです。

八戸(青森県)生まれの戸村さんは、ガンダイ(岩手大学)を卒業してそのまま盛岡に住み着いたようですが、亭主はもちろん師匠・上田浩司さんのMORIOKA第一画廊で知り合いました。
オーソドックスな銅版画で木、林、森をずっと描き続けている。
近年ではドローイングにも取り組んでいる。

版画家としての戸村さんのことは良く知っていたのですが、彼が美術史やイタリア美術にも該博な知識を持っていることを知り驚いたのは上述の初めてのイタリア旅行の折でした。
もう随分前ですが、岩手日報社の事業局に中村さんという方がおられた(定年退職していまは萬鉄五郎記念館の館長さん)。
美術や音楽の大好きな方ですが、おそらくその方の発案で岩手日報社主催で<ミケランジェロのピエタ像四つを全て見て回り、ミラノのスカラ座でオペラを鑑賞するツアー>が計画されたことがあります。
確か近畿日本ツーリスト盛岡支店が旅行会社だった。
岩手日報の社告で募集したから、直ぐに満杯となると思いきや、あまりに渋い内容でさっぱり客が集まらなかった。
慌てた旅行会社と中村さんは四方八方、声をかけまくった。
その結果、言いだしっぺの中村さんは責任上ご夫婦で参加、加えて100年を越す老舗のお蕎麦や「直利庵」の女将さん、MORIOKA第一画廊の上田さん、戸村茂樹さんなど亭主の遊び仲間が根こそぎ動員され、遂にわれわれ夫婦も参加することになりました。定員をはるかに超え、大ツアーになってしまった。
普段から団体行動は大嫌い、パック旅行なんぞもってのほかと思っていた亭主でしたが、いや実に楽しい旅でした。
われわれ独立愚連隊一行は、隙あらばお土産屋に引っ張り込もうとする添乗員の言うことはきかない(無視する)、自由行動ばかりする、途中から突然イタリア在住の画家・小野隆生さんがバスに乗り込んでくる、などなど旅行会社にとってはとんでもない客だったようです。
ローマ、フィレンツェ、ミラノを回り四体のピエタ像を見たわれわれの実質的なガイドは戸村さんでした。どこの街におりたっても歴史、美術について丁寧に説明してくださる。
おかげで無知蒙昧な亭主もイタリア美術の魅力にすっかりほれ込んでしまいました。

ときの忘れものコレクションから戸村茂樹作品をご紹介します。
晩夏IV_600
戸村茂樹
「晩夏IV」
インク・紙
19.0x13.5cm サインあり

DSCF9531_600
戸村茂樹
「MORIOKA 冬 III」
1994年 ドライポイント
イメージサイズ:14.5x22.2cm
シートサイズ:27.0x39.5cm
Ed.30 サインあり

水面に映るIII_600
戸村茂樹
「水面に映る III」
1999年 ドライポイント
イメージサイズ:14.5x14.4cm
シートサイズ:40.0x26.7cm
Ed.40 サインあり

水面に映るIV_600
戸村茂樹
「水面に映る IV」
1999年 ドライポイント
イメージサイズ:14.5x14.4cm
シートサイズ:40.0x27.0cm
Ed.40 サインあり

■戸村 茂樹/Shigeki Tomura
1951(昭和26)八戸市生まれ。岩手大学特設美術科卒業。1973年から75年にかけて国画会展に出品。その後84年から版画制作に専念し、85年岩手県優秀美術選奨受賞作家展(萬鉄五郎記念美術館)、87年版画「期待の新人作家」大賞展買上賞。また、89年、91年、第6回、7回ウッジ国際小版画展(ポーランド)で名誉メダル賞を連続受賞。98年第2回ブラティスラヴァ国際エクスリブリストリエンナーレグランプリ(スロバキア)を受賞するなど海外においても多数の受賞を重ねる。ロシア、イギリス、ドイツ、アメリカなど、海外での作品発表も多い。
盛岡市在住。風景描写の中に、現実には見えないが確実に存在しているものを、自然の時の移ろいや空気感に託して、一本一本丹念に線に刻み込んで描く。
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