秋のセール 彩りの一枚」は一昨日終了しました。
いつもより点数をぐっと絞り、今までご紹介する機会の無かった作品を出品しましたがいかがでしたでしょうか。
おかげさまで瑛九など高額な作品はほとんで売れ、夏枯れの飢えをちょっぴり癒され、社長の顔も少し晴れやかであります。
お買い上げいただいたお客様には心より御礼申し上げます。

画商というのはいつも資金繰りに追われ、それでも「買い続けなければならない」という宿命を負っています。
買わなければいい作品は集まらない、いい作品のないところには客は寄り付かない。
過剰な在庫は破綻を招きますが、リスクを負わないブローカー的商いだけでは必然的に「売り絵」志向になってきてしまいます。
自分ではいいと確信していても何年経っても売れない在庫の山に溜め息をつく。
ならばと思い切ってダンピングすれば売れるかというと美術品というのはそういうものでもない。
いい作品というのは誕生したときには鬼っ子扱いされ、気がついたときには手が届かなくなっている、近年の草間彌生が好例ですね。
画商の力は何を持っているか、それを売る顧客をつかんでいるか、在庫と販売力にあるわけですがそれを両方自在にできるのは稀です。

こんなことを書いたのは、セールと同時期に出展したソウルのKIAF/12で「画商」という商売についてあらためて考え、日ごろの自分達を反省する材料をいっぱいいただいたからです。

今年のKIAFには20ヵ国を超える国々から180店の画廊が出展しました。
この国の数だけ見てもKIAFの底力がわかります。
私たちは新参の3回目の出展で親しい韓国の画廊があるわけでもありません。まあおのぼりさんですね。
かつての、初日に全点売れてしまい二日目から売るものがなくなったなどという盛時のことは全く知りません。
今年は皆さんの話を聞く限りでは全体として低調だったようですが、出展画廊の多様さ、作品の質、来場者の数、客の「買う気」、いずれも日本国内のあまたのアートフェアとは格段にレベルが違いました。
総額何億円もの在庫作品をわざわざ運んで日本のアートフェアに出展する海外の画商さんがいるでしょうか。いまや日本のアートマーケットは世界から置いてきぼりをくってしまった。
多額な経費(ブース代、輸送費、滞在費)をかけても「売れる」と思えばたとえ地の果てだろうと行くのが画商です。
日本のアートフェアに海外の画商が出展しないのは、日本では「売れない」、世界のコレクターが集まってこないと見切られてしまったからです。
ある人が「IMAGO ART GALLERYが出したモランディとフォンタナを見るだけで十二分に来た甲斐があった」と述懐していましたが、そういう「とんでもないレベルの画商」と駆け出しの画廊が同じ平面で競い合う、それこそが真のアートフェアなのだと痛感しました。
それが実現したのは「買う客」がいるからです。

昨年私たちは写真をメインに押し立てて出展しました。ところがこの分野ばかりはまだ日本が先を行っているようで(といっても日本のフォトフェアも苦戦のようですが)、韓国での写真市場は未成熟で、反応もほとんど無くあわや惨敗というところでしたが、サブで持っていった安藤忠雄と草間彌生の版画が思いがけずたくさん売れて何とかしのぐことができました。

その総括を踏まえて、今年は自分達の一番得意なものを持って行こうと、磯崎新安藤忠雄、つまり「建築家の版画、ドローイング」をメインに展示しました。
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初日のときの忘れもののブース

結果は磯崎新、安藤忠雄、草間彌生、君島彩子宮脇愛子作品がそれぞれ複数売れ、会場で決めかねていたお客様から帰国後に追加注文があり野口琢郎作品も売れました。
毎朝開場前に前日売れた作品を架け替えるのが日課で、新参者としてはありがたい成果でした。

KIAFに挑戦するときに、出展歴豊富な先輩画商さんから「韓国はタブロー(本画)志向で版画は売れない」と聞かされていました。
私たち自身もバブル崩壊後の日本の「版画大暴落」(現在進行中)を経験していて、扱う作品の幅を油彩や写真に大きく転換しつつあるので、さもありなんと深く考えもせず納得していました。

今年のKIAFの各ブースの出品内容は先日の新澤のレポート(9月17日.18日)でご覧になったと思いますが、あれは全体のほんの一部でして、まして趣味嗜好が全く異なる超新人のセレクションなので、亭主としては憤懣やるかたない(笑)。

怪我の痛さでカメラどころじゃなかったので、同行していただいた強力助っ人・浜田さん撮影のスナップもお借りして出品されていた版画をご紹介しましょう。
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1983年亭主がエディションしたウォーホル「KIKU」3点セットを韓国の画廊が出品、何とセット価格約900万円(!)。

会場を見渡せば、いま流行のダミアン・ハースはじめ、リー・ウーファン、ウォーホル、トム・ウエッセルマン、サム・フランシス、ミロ、ピカソ、ステラ、クリスト、メル・ラモス、バザレリ、ル・コルビュジエ、ロバート・インディアナ、シャガール、チリダ、ソル・ルイット、リキテンシュタインそして草間彌生などの版画が多数出品されており、高いものは数万ドル単位の価格がつけられ、しかも売れていました。
もちろん若い作家のタブローや立体作品、デジタル処理による映像作品も多数出品されていますが、これら版画作品の占める割合が日本のアートフェアと大きく違うのは明らかでしょう。
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うかつなことですが、会場を見渡して亭主ははっと気づいたのでした。
「版画大暴落」ではなく「日本の版画の大暴落」なのだと。
決して版画が売れないのではなく、世界の市場で闘える質の高い版画を近年の日本は生み出してこなかったのではないか。
浮世絵を持ち出すまでもなく、恩地孝四郎、棟方志功は今でも世界の市場で存分に闘っています。

1966年第33回ヴェニス・ビエンナーレのコミッショナー久保貞次郎は池田満寿夫らを日本代表として送り込みます。いわば国家代表です。池田はこれをステップにシンデレラボーイの階段を駆け上がっていきます。
同じ会場に、呼ばれもしないのにNYから草間彌生が乗り込みいわばゲリラ出品しプラスチックのミラーボール1500個を芝生に敷き詰め(その制作費はフォンタナから借金し、どうやら踏み倒してしまったらしい)、一個1200リラで販売しようとしたがビエンナーレ当局から「神聖な会場でとんでもない」と禁止されます。

あれから半世紀、いまやアートフェアの会場を制覇しているのは草間彌生であり、池田の版画を見つけるは困難です。

もっと書きたいことがあるのですが、読む皆さんの苦痛を考え、この辺で止めますが、1970年代の版画の時代に美術業界に入り育てられた亭主は近年の「版画」の苦戦をもどかしい思いで見つめ、背に腹は代えられぬと版画からの撤退さえ考えたこともあります。

今年のKIAFで少し展望がもててきました。
おかげさまでこの数年、ネットによる海外の顧客が飛躍的に増えてきました。草間彌生や瑛九の顧客は海外の方が多いくらいです。
また今春、久しぶりにエディションした光嶋裕介さんの銅版画集が完売という嬉しい出来事もありました。
来年、亭主は密かに世界で戦える日本の版画を引っさげてのKIAF挑戦を考えています。