『ジョナス・メカス ノート、対話、映画』前書き
ジョナス・メカス
わたしはこれまでとても幸運な人生を送ってきた。神々からわたしは長く、かなり健康な生命を授かった。それでもわたしがとくにありがたく思うのは、じつに多くの良い友人たちに恵まれたこと、そして、わたしの良い友人たちの多くは日本にいる。
今からおよそ30 年ほど前、わたしは初めて日本各地を訪ねる旅をした。
それ以来わたしは幾度も日本に出かけ、北の果てから南の端まで旅をして、新たな友人の数も増した。そしてきみたち、わたしの良い日本人の友人たちは、これまでの長い年月、たくさんの美しい贈り物を送りつづけ、わたしはそれを一つ残らず大切に手許に残してきた。そのお返しに、わたしはきみたちにささやかな贈り物、わたしの映画、わたしの詩、わたしの文章を送りつづけた。
友人からの心のこもった贈り物を大切にとっておくことは、遠い距離、長い時間を隔てても友情を保ち、失くさない一つの方法だろう。なにかしら捜しものをしているときにふと手紙や絵はがき、本や小さいけれども特別な贈り物など、きみたち、わたしの日本の友人たちが送ってくれたものが目につくと、どんな時でもうれしくなり、その一時を祝いたくなる。たちまちきみたち一人ひとりの顔、声、匂い、そしてきみたちが連れて行ってくれた日本のさまざまなところの思い出が胸に溢れる。
というわけで、木下哲夫くんから手紙が届いてもさして驚きはしなかったけれども、やはりとてもうれしかった。手紙によると、かれもこの長い年月わたしと同じことをしてきた、わたしがかれと日本の友人たちに送った手紙や文章はすべてとってあり、それらをまとめたものを、せりか書房が出版してくれることになったという。
さて、ここに集められたいくつもの文章は、どれも思い出であり、わたしの人生の一部である。わたしは今、よそにいる。けれども、これらの文章は今でもわたしにちがいない。わたしは今のわたしであり、以前のわたしでもある。文章は蛇の脱ぐ皮のようなもの……しかし一度人生を注がれ、生命の光に当たったものは、いつまでもそれを内に保ち、輝きを放ちつづけ
る。それは本であれ、映画であれ、友人たちとのおしゃべりであれ、花びらのひとひらであれ、変わりはない。
これまでの長い年月の間にきみたちから受けとった贈り物を手にとり、目にするのがわたしにとって大きな喜びであり幸せであるのと同じように、この本がきみたちの心に喜びをもたらすように願っている。この淡い色合いの、桜を刺繡したハンカチ、きみたちのだれかが京都で汗を拭くようにと手渡してくれたハンカチをつい先日見つけたときのように、この本のページ
を繰るときに、そう、わたしたちは時と空間を超えて、束の間一つに結ばれるだろう。
2012 年9月
ジョナス・メカス
(翻訳:木下哲夫)
●メカスファン待望の著書『ジョナス・メカス ノート、対話、映画』が刊行されます。

著者:ジョナス・メカス
訳:木下哲夫、編:森國次郎
A5判 336ページ
せりか書房 4,935円(税込み)
1949年、肌寒いニューヨーク港に難民として降り立ったジョナス・メカス。入手したボレックスでニューヨークを、友人たちを、自らを撮り続けてきたメカスが語る、リトアニアへの想い、日記映画とニューヨークのアヴァンギャルド、フィルム・アーカイヴスの誕生…「ここに集められた文章は、どれも思い出であり、わたしの人生の一部である」。
主要作品のメカス自身による解説とコメンタリーを収録。
『ジョナス・メカス ノート、対話、映画』はときの忘れもので取り扱っています(送料250円)。
先着50名様には、サイン入りメカスさんから日本の皆さんへのメッセージカードをおつけします。どうぞメールにてお申し込みください。
刊行を記念して、ときの忘れものでは『ジョナス・メカス ノート、対話、映画』出版記念展を開催します。
会期=2012年12月6日[木]―12月8日[土]
3日間という短い会期ですがメカスさんの写真・版画作品の展示の他、映画上映会、吉増剛造ギャラリートークを開催します。
●先にご案内のイベント日程が変更になりました。
12月6日(木)17時より上映会:映画「リトアニアへの旅の追憶」(1972年 87分)
1949年、故郷からナチスに追われアメリカに亡命したジョナス・メカスが
27年ぶりに訪れた故郷リトアニアでの母、友人たちとの再会、そして風景。
メカスは自在なカメラワークとたおやかな感受性でそれらの全てをみず
みずしい映像と言葉で一つの作品にまとめ上げた。
この感動的な映像叙事詩はメカス自身の代表作であるばかりでなく、アメ
リカ・インディペンデント映画の不朽の名作として広く愛され続けている。
12月7日(金)17時より上映会:映画「ファクトリーの時代」(1999年 63分)
1999年ウィーンで開催されたアンディ・ウォーホルの
展覧会で、講演を行う代わりに送ったビデオ。
「ファクトリー」について語るメカスの映像が中心。
日本語字幕(翻訳:木下哲夫)。
12月8日(土)18時よりギャラリートーク:吉増剛造 (詩人)×木下哲夫 (本書の翻訳者)
要予約/参加費各1,000円、三日通し券2,000円
メールにてお申し込みください。
E-mail: info@tokinowasuremono.com

ジョナス・メカスさん(左)
2005年10月ときの忘れものの個展オープニングにて。

ときの忘れものにて、亭主とジョナス・メカスさん

青山のとんかつ屋さんにて、右から木下哲夫さん、ジョナスメカスさん、尾立麗子

ときの忘れもので写真作品にサインを入れるジョナス・メカスさん

ときの忘れものにてジョナス・メカスさん
"Peter Beard and John enacting a Hollywood "fight".
Montauk, Aug. 1972"
1972年 (Printed in 1999)
Type-Cプリント
イメージサイズ:49.0x32.3cm
シートサイズ :50.7x40.6cm
Ed.10
サインあり
"John and Anthony were very bad that day in the car,
Lee had to put them on the roadside, we later picked
them up. Montauk, August 1972."
1972年 (Printed in 1999)
Type-Cプリント
イメージサイズ:49.0x32.4cm
シートサイズ :50.6x40.7cm
Ed.10
サインあり
"Anthony and John pretending they are Mick Jagger,
prancing to a Rolling Stones record. Montauk, 1972"
1972年 (Printed in 1999)
Type-Cプリント
イメージサイズ:49.0x32.3cm
シートサイズ :50.7x40.6cm
Ed.10
サインあり
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■ジョナス・メカス Jonas MEKAS
1922年リトアニア生まれ。ソ連次いでナチス・ドイツがリトアニアを占領。強制収容所に送られるが、45年収容所を脱走、難民キャンプを転々とし、49年アメリカに亡命。16ミリカメラで自分の周りの日常を日記のように撮り始める。65年『営倉』がヴェネツィア映画祭で最優秀賞受賞。83年初来日。89年NYにアンソロジー・フィルム・アーカイヴズを設立。2005年ときの忘れものの個展のために4度目の来日。
ジョナス・メカス
わたしはこれまでとても幸運な人生を送ってきた。神々からわたしは長く、かなり健康な生命を授かった。それでもわたしがとくにありがたく思うのは、じつに多くの良い友人たちに恵まれたこと、そして、わたしの良い友人たちの多くは日本にいる。
今からおよそ30 年ほど前、わたしは初めて日本各地を訪ねる旅をした。
それ以来わたしは幾度も日本に出かけ、北の果てから南の端まで旅をして、新たな友人の数も増した。そしてきみたち、わたしの良い日本人の友人たちは、これまでの長い年月、たくさんの美しい贈り物を送りつづけ、わたしはそれを一つ残らず大切に手許に残してきた。そのお返しに、わたしはきみたちにささやかな贈り物、わたしの映画、わたしの詩、わたしの文章を送りつづけた。
友人からの心のこもった贈り物を大切にとっておくことは、遠い距離、長い時間を隔てても友情を保ち、失くさない一つの方法だろう。なにかしら捜しものをしているときにふと手紙や絵はがき、本や小さいけれども特別な贈り物など、きみたち、わたしの日本の友人たちが送ってくれたものが目につくと、どんな時でもうれしくなり、その一時を祝いたくなる。たちまちきみたち一人ひとりの顔、声、匂い、そしてきみたちが連れて行ってくれた日本のさまざまなところの思い出が胸に溢れる。
というわけで、木下哲夫くんから手紙が届いてもさして驚きはしなかったけれども、やはりとてもうれしかった。手紙によると、かれもこの長い年月わたしと同じことをしてきた、わたしがかれと日本の友人たちに送った手紙や文章はすべてとってあり、それらをまとめたものを、せりか書房が出版してくれることになったという。
さて、ここに集められたいくつもの文章は、どれも思い出であり、わたしの人生の一部である。わたしは今、よそにいる。けれども、これらの文章は今でもわたしにちがいない。わたしは今のわたしであり、以前のわたしでもある。文章は蛇の脱ぐ皮のようなもの……しかし一度人生を注がれ、生命の光に当たったものは、いつまでもそれを内に保ち、輝きを放ちつづけ
る。それは本であれ、映画であれ、友人たちとのおしゃべりであれ、花びらのひとひらであれ、変わりはない。
これまでの長い年月の間にきみたちから受けとった贈り物を手にとり、目にするのがわたしにとって大きな喜びであり幸せであるのと同じように、この本がきみたちの心に喜びをもたらすように願っている。この淡い色合いの、桜を刺繡したハンカチ、きみたちのだれかが京都で汗を拭くようにと手渡してくれたハンカチをつい先日見つけたときのように、この本のページ
を繰るときに、そう、わたしたちは時と空間を超えて、束の間一つに結ばれるだろう。
2012 年9月
ジョナス・メカス
(翻訳:木下哲夫)
●メカスファン待望の著書『ジョナス・メカス ノート、対話、映画』が刊行されます。

著者:ジョナス・メカス
訳:木下哲夫、編:森國次郎
A5判 336ページ
せりか書房 4,935円(税込み)
1949年、肌寒いニューヨーク港に難民として降り立ったジョナス・メカス。入手したボレックスでニューヨークを、友人たちを、自らを撮り続けてきたメカスが語る、リトアニアへの想い、日記映画とニューヨークのアヴァンギャルド、フィルム・アーカイヴスの誕生…「ここに集められた文章は、どれも思い出であり、わたしの人生の一部である」。
主要作品のメカス自身による解説とコメンタリーを収録。
『ジョナス・メカス ノート、対話、映画』はときの忘れもので取り扱っています(送料250円)。
先着50名様には、サイン入りメカスさんから日本の皆さんへのメッセージカードをおつけします。どうぞメールにてお申し込みください。
刊行を記念して、ときの忘れものでは『ジョナス・メカス ノート、対話、映画』出版記念展を開催します。
会期=2012年12月6日[木]―12月8日[土]
3日間という短い会期ですがメカスさんの写真・版画作品の展示の他、映画上映会、吉増剛造ギャラリートークを開催します。
●先にご案内のイベント日程が変更になりました。
12月6日(木)17時より上映会:映画「リトアニアへの旅の追憶」(1972年 87分)
1949年、故郷からナチスに追われアメリカに亡命したジョナス・メカスが
27年ぶりに訪れた故郷リトアニアでの母、友人たちとの再会、そして風景。
メカスは自在なカメラワークとたおやかな感受性でそれらの全てをみず
みずしい映像と言葉で一つの作品にまとめ上げた。
この感動的な映像叙事詩はメカス自身の代表作であるばかりでなく、アメ
リカ・インディペンデント映画の不朽の名作として広く愛され続けている。
12月7日(金)17時より上映会:映画「ファクトリーの時代」(1999年 63分)
1999年ウィーンで開催されたアンディ・ウォーホルの
展覧会で、講演を行う代わりに送ったビデオ。
「ファクトリー」について語るメカスの映像が中心。
日本語字幕(翻訳:木下哲夫)。
12月8日(土)18時よりギャラリートーク:吉増剛造 (詩人)×木下哲夫 (本書の翻訳者)
要予約/参加費各1,000円、三日通し券2,000円
メールにてお申し込みください。
E-mail: info@tokinowasuremono.com

ジョナス・メカスさん(左)
2005年10月ときの忘れものの個展オープニングにて。

ときの忘れものにて、亭主とジョナス・メカスさん

青山のとんかつ屋さんにて、右から木下哲夫さん、ジョナスメカスさん、尾立麗子

ときの忘れもので写真作品にサインを入れるジョナス・メカスさん

ときの忘れものにてジョナス・メカスさん

Montauk, Aug. 1972"
1972年 (Printed in 1999)
Type-Cプリント
イメージサイズ:49.0x32.3cm
シートサイズ :50.7x40.6cm
Ed.10
サインあり

Lee had to put them on the roadside, we later picked
them up. Montauk, August 1972."
1972年 (Printed in 1999)
Type-Cプリント
イメージサイズ:49.0x32.4cm
シートサイズ :50.6x40.7cm
Ed.10
サインあり

prancing to a Rolling Stones record. Montauk, 1972"
1972年 (Printed in 1999)
Type-Cプリント
イメージサイズ:49.0x32.3cm
シートサイズ :50.7x40.6cm
Ed.10
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
■ジョナス・メカス Jonas MEKAS
1922年リトアニア生まれ。ソ連次いでナチス・ドイツがリトアニアを占領。強制収容所に送られるが、45年収容所を脱走、難民キャンプを転々とし、49年アメリカに亡命。16ミリカメラで自分の周りの日常を日記のように撮り始める。65年『営倉』がヴェネツィア映画祭で最優秀賞受賞。83年初来日。89年NYにアンソロジー・フィルム・アーカイヴズを設立。2005年ときの忘れものの個展のために4度目の来日。
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