松本竣介と瑛九

ただいま開催中の松本竣介展、お客さまに「竣介展はうちでは初めてです」というと、「えっ、そうなんですか」と驚かれる。
同世代の瑛九については、毎年展覧会をしているので長い間には竣介展もやったことがあるのではと思われるらしい。
光栄な誤解ではありますが、竣介の展覧会を開くのは実に困難極まりない。
1974年に美術界に入ってから亭主が知る画廊での竣介展(つまり売り物がある)は、南天子画廊、不忍画廊、MORIOKA第一画廊の三つくらいしか思い浮かばない。

松本竣介36歳、瑛九48歳、ともに若死にですが、どこが違うのか。
画商の立場から言うと、一人の画家が市場で評価されるには、流通する作品量がある程度必要です。どんなに優れた作品を遺そうとも、市場に流通する作品がなければ、若い世代のコレクターが出てこない。そういう点から考えると、竣介と瑛九では圧倒的に作品量が違います。
貧乏画廊の典型たるときの忘れものでさえ倉庫をのぞけば、瑛九なら直ぐにいくつかの作品を見つけることができます。ちょっとご紹介しましょうか。
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右が瑛九の油彩「林」
(左はル・コルビュジエ)

瑛九「声」
瑛九「声」
1937年頃
コラージュ
29.5x47.0cm

瑛九眠りの理由F
瑛九「眠りの理由」より
1936年 フォトデッサン

今回は資料無しで書き飛ばしますので、少々荒っぽい数字になります。
亭主の記憶によれば、瑛九の油彩は確認できるだけで約600点、水彩素描はおそらく1000点ではきかないでしょう。版画(銅版、リトグラフ、木版)は約500種類(それぞれ数部から数十部刷っていますので作品総数は数千点になります、詳しくはコチラを参照)。近年評価の高騰しているフォトデッサン・コラージュ類は2000点以上(推定)あると思われます。
ざっと足しただけでも4000点以上、版画の刷り部数を加えればマックス1万点前後の作品が遺されている。
美術館に収まってしまった作品を除いても、市場で瑛九を入手しようと思えばいつでも誰でも可能です。画商が瑛九展を開こうと思えばそう困難なことではない。

しからば竣介はどうか。
遺された油彩は二百数十点といわれています。他には素描作品があるだけですが、それも数は限定されるでしょう。
版画は確認されているのは今回出品している孔版画作品ただ一種類のみ。
それ以外に作品はありません。
市場にめったに出ない作品を集め展覧会を開くの瑛九の何倍、何十倍も難しいことなのです。
過去、竣介展を開催し、作品を世に広めた南天子画廊、不忍画廊、MORIOKA第一画廊の大先輩画商たちに深甚なる敬意を表する所以です。

世田谷美術館での「生誕100年 松本竣介展」とあわせ、どうぞ今回の展覧会、お見逃しなきよう。
そしてぜひ希少な竣介作品をコレクションに加えてください。

●前期(12月29日まで)出品作品
竣介11) 松本竣介
《古代建築》
紙にインク、水彩
イメージサイズ:16.9x11.8cm
シートサイズ:20.3x14.0cm

松本2番2) 松本竣介
《建物》(裏面にペン画あり)
※「松本竣介素描」(1977年 株式会社綜合工房)口絵掲載、「アサヒグラフ別冊1983 秋」(朝日新聞社)81ページ所収
紙にインク、鉛筆、色鉛筆
イメージサイズ:26.8x36.2cm
シートサイズ:28.0x36.8cm

02_裏2) 松本竣介
《建物》裏面
紙にペン

055) 松本竣介
《婦人像》(裏面に鉛筆画あり)
※「松本竣介没後50年展―人と街の風景―」(1997年 南天画廊)図録18ページ所収
1942年頃
紙に鉛筆
イメージサイズ:25.9x20.9cm
シートサイズ:26.6x21.7cm

05_裏5) 松本竣介
《婦人像》裏面
紙に鉛筆

066) 松本竣介
《作品》
紙にインク、鉛筆
イメージサイズ:43.5x57.0cm
シートサイズ:45.2x59.0cm

077) 松本竣介
《作品》(裏面にペン画あり)
1943年頃
紙にインク、鉛筆
イメージサイズ:25.7x20.3cm
シートサイズ:27.0x22.2cm

07_裏7) 松本竣介
《作品》裏面
紙にペン

099) 松本竣介
《裸婦 II》
紙にインク
イメージサイズ:10.8x13.8cm
シートサイズ:12.0x16.6cm
サインあり

1111) 松本竣介
《作品》
孔版画
イメージサイズ:17.4x13.0cm
シートサイズ:25.3x18.0cm

1414) 松本竣介
《描く人》(裏面にペン画あり)
紙にインク
イメージサイズ:16.0x10.9cm
シートサイズ:18.0x11.7cm

14_裏14) 松本竣介
《描く人》裏面
紙にペン

1515) 松本竣介
《作品》(裏面にペン画あり)
紙にインク
イメージサイズ:14.5x11.8cm
シートサイズ:19.1x15.5cm
印あり

15_裏15) 松本竣介
《作品》裏面
紙にペン

竣介1717) 松本竣介
《人物》
1946年頃
紙にインク、墨
イメージサイズ:31.6x23.1cm
シートサイズ:32.6x23.8cm

松本1919) 松本竣介
《人物》
※「松本竣介素描」(1977年 株式会社綜合工房)121ページ所収
1947年
紙にインク、筆、ペン
イメージサイズ:34.5x25.6cm
シートサイズ:39.0x27.6cm

竣介2222) 松本竣介
《建物》
※「没後50年 松本竣介展」(1998年 練馬区立美術館、他)図録142ページ所収
1937年 紙にインク
イメージサイズ:25.5x35.4cm
シートサイズ:26.8x36.5cm
サインあり


2323) 松本竣介
《作品》
※「松本竣介素描」(1977年 株式会社綜合工房)13ページ所収
紙に鉛筆
イメージサイズ:30.8×39.8cm
シートサイズ:32.3×41.3cm

2525) 松本竣介
《肖像 II》
紙にインク
イメージサイズ:16.8x14.3cm
シートサイズ:20.0x15.8cm

2626) 松本竣介
《作品》
紙にインク
イメージサイズ:12.8x17.5cm
シートサイズ:13.2x18.2cm

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◆ときの忘れものは、12月14日から新春1月にかけて素描作品30点による「松本竣介展」を開催します。
松本竣介展DM_600
前期:2012年12月14日[金]―12月29日[土]
※会期中無休
後期:2013年1月9日[水]―1月19日[土]
※会期中無休
『松本竣介展』図録
価格:800円(税込、送料無料)

執筆:植田実、16頁、図版30点、略歴
*お申し込みはコチラから。

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●ときの忘れものブログでは、植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」を連載中です。