駒井哲郎の珍しい木版画については、以前第27回第28回のブログでご紹介しました。
駒井哲郎「木版 手彩」駒井哲郎「木版」

ご紹介した2点は恩師・久保貞次郎先生からいったん亭主が預かり、再び久保先生にお返しした後、20数年後に巡り巡って再び亭主のもとに来た作品でした。
ブログに書いた通り、これが駒井哲郎作品だと言われても直ぐには反応できない程の異色の作品ですが、追跡調査の結果、2点の木版画が、河田清史編『象とさるとバラモンとーインドの昔話―』のために制作された挿画らしいというところまではわかりました。

しかし、2点は印刷された同書の装画は同一ではありません。
亭主が入手した2作品には絵の周囲に飾縁があり、サイズも大きく挿絵というより、版画作品として堂々と完成しています。
忙しさに紛れ、それ以上の追跡はできなかったのですが、何となく釈然としなかった・・・・

ところが先日、亭主のブログを読まれた静岡のNさんが、1949年(昭和24)の第17回日本版画協会展の出品目録のコピーを送ってくださいました。
あの2作品が日本版画協会展に出品された可能性が大であるという重要な資料です。
20130131_17回日本版画協会展

日本版画協会の出品歴について、従来の文献には、「銅版画」のことしか書いてありませんでした。例えば東京都美術館1980年回顧展図録の第17回日本版画協会展の出品記録には、「森にて」「港にて」「花を持つ裸像」「アダムとイブ」「化粧」「部屋」と6点の作品名がありますが、木版についての記載はありません。

私も不勉強で、当時の日本版画協会展に「出版関係版画」というジャンルがあったことなど全く知りませんでした。
Nさんから送っていただいた同目録(コピー)の左ページ下段の駒井哲郎の項を転記してみましょう。

河田清著 インド昔ばなし象とさるとバラモント挿画
口絵「像とあり」 木
「さるとドラ」   銅
「易者の息子カンガダーラ」 木
「名君ハータム」 銅
猿少年  木
「ズレタコノタンとハーヤ・バンド」 銅版


誤植などはありますが、河田清史編『象とさるとバラモンとーインドの昔話―』の挿画として6点(木版3点、銅版3点)を出品されたことがわかります。
亭主が入手した木版画2点が、第17回日本版画協会展に出品されたそのものかどうかはわかりませんが、「版画作品」として駒井先生がこの作品を制作発表されたことは間違いないと思います。

そこで思い出したのが、昨秋刊行されたばかりの『日本版画協会史 1931-2012』、山本鼎、戸張孤雁らの日本創作版画協会から日本版画協会までを一本の流れとしてまとめた労作ですが、その56ページに件の「出版関係版画」のことが記述されています。
どうやらこの年だけの特別陳列だったらしい。
600600

特別陳列:加地春彦遺作30点。「出版関係版画」出版刊行物表紙、装丁、挿絵、カット等の版画作品28点。文部省編集こくご読本挿絵3点。観光ポスター試作6点。〔目録〕

駒井先生についてはまだまだ調べることがありそうです。
貴重な資料を送ってくださったNさんに心より感謝します。
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駒井哲郎の銅版作品をご紹介します。
DSCF5833_2 駒井コミック600
駒井哲郎
コミックI
1958年 銅版
17.5×9.8cm
Ed.10 サインあり
*レゾネNo.93

駒井「平原」
駒井哲郎
「平原」
1971年 銅版
21.7×20.6cm
Ed.30(5/30) signed
*レゾネNo.286

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