毎日新聞に紹介されたおかげで殿敷侃さんのことを知る人や、初めてその名を聞く人などが来廊され、いつもと違う展覧会です。
殿敷さんは「版画家」ではありませんでしたが(1977年からの数年間、集中的に銅版画にとりくんだ)、その作品の完成度には皆さん目を瞠っています。
長谷川潔駒井哲郎と比べても遜色ありませんね」とまでおっしゃる方もいる、嬉しい限りです。

某月某日、駒井コレクターのSさんがぶらりと来廊。
Sさん「ヤフオクで駒井さんのレイエ版が出ている
亭主「そりゃあ珍しいや、ぜひ落としなさいよ」
Sさん「ボクはヤフオクやってないから・・・」
亭主「お任せください、かわりに落としましょう。落札金額の1割だけ手数料ください」

てなことがありまして、Sさんの代理でヤフオクに挑戦、「買うのが大好き」な亭主は意欲満々、場合によってはン十万円も覚悟して締め切り日に臨んだのですが、競る人も少なく、21,000円であっさり落札しました。少し拍子抜け。

レイエ(rayer)とはフランス語で「線を引く、削除する」の意味。版画用語で、限定部数の刷りが完了した後に、原版に廃棄の処置をほどこすことです。
銅版画の場合は、通常、版面上の一隅に、1本あるいは2本の斜線を刻み込む方法がとられます。

駒井先生は原版の多くはそのまま保存して、レイエ処理することはほとんどありませんでした。
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駒井哲郎 
<人それを呼んで反歌という>より
「PL11 腐刻画」
1966 エッチング
27.0×16.4cm
Ed.60
*2本の斜線で廃版処理されたもの

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用紙の下部に「L.1 2/2 1981.8」と鉛筆で記載されています。
1981年には既に駒井先生は亡くなられているので、この作品はおそらく廃版処理された原版の所有者が、2枚を刷ったということなのでしょう。
「腐刻画」ほどの名作を(たとえ廃版処理されていようと)僅か2万数千円で入手したSさんのよろこぶまいことか。
駒井作品を大事な商売としている亭主としては果たして喜んでいいのやら・・・・複雑な心境であります。

●『殿敷侃 遺作展』カタログのご案内
Tonoshiki表紙600『殿敷侃 遺作展』カタログ
2013年
ときの忘れもの 発行
15ページ
25.6x18.1cm
執筆:濱本聰
図版:21点
価格:800円(税込)
※送料別途250円

2013年8月開催の「殿敷侃 遺作展」のカタログです。
広島で生まれた殿敷侃は、被爆体験をもとにヒロシマにまつわる遺品や記憶を細密極まる点描で描き、後に古タイヤなどの廃品で会場を埋めつくすというインスタレーションで現代社会の不条理に対して批判的・挑発的なメッセージを発信し、1992年50歳で亡くなりました。
このブログでは「殿敷侃の遺したもの」を記録するため「久保エディション第4回~殿敷侃」はじめ、濱本聰(下関市立美術館)さん、山田博規さん(広島県はつかいち美術ギャラリー)、友利香さん、土屋公雄さん、西田考作さん、池上ちかこさんらに寄稿(再録も含む)していただきました。

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