<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第13回

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音楽にあわせて足を踏みならし、全身でリズムをとって踊っている男。部屋の隅にジュークボックスが見える。音楽はそこから流れている。何の曲なのか気になる。

男の服装はTシャツに、裾の開いたベルボトムのジーンズ。ヒップハンガーの腰には太いベルトをしている。履物はスニーカーではなくてヒールの付いた革靴だ。どんなダンスを踊っているのか、両足のかかとが持ち上がり、膝が曲がり腰が上下する。だれのほうも見ずに、踊っている自分だけを感じている。

戸口から差し込む光が強いのに驚く。日没までまだだいぶ間がありそうなまぶしい光だ。そんなに早い時間から無心に踊っていることの魅惑。床はリノリューム張りだが、光の反射で模様が白く飛んでいる。彼はその光を凝視しつつ、全身を動かしている。スパークする床の白さが、夜に踊るのとはちがう興奮に彼を引き込んでいるのだ。ぼさぼさの頭と首に巻いたセーター。体はだいぶ熱くなっている。汗もかいているだろう。

ふいに、ジュークボックスのメタリックな光に目がとまった。床の照り返しがメタル部分を輝かせている。ほかに金属的なものが何もない店内で、このぎらっとした光は印象的だ。都会ではないと一目でわかる洗練されていないインテリア。部屋だけならば、のどかな雰囲気すらあるのに、踊る男とこのメタリックな光の組合わせが狂気的な空気をもたらしている。いまこのときしか大切にしたいものはないという、極限まで突き詰められた意識。男の視線のちょうと真下に、光の玉のようなものが見えてくる。

この写真を見るたびに、狂ったように踊る男の存在を確認するだろう。Tシャツにベルボトムのジーンズという格好で、鋭い光を背中に受けながら、両腕を細かく振り革靴を踏みならして、彼は永遠にここで踊りつづけているのだ。

大竹昭子(おおたけあきこ)

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●紹介作品データ:
森山大道
「沖縄」
1974年撮影(2013年プリント)
インクジェット・プリント
100.0x133.0cm
オープンエディション

森山大道 Daido MORIYAMA(1938-)
1938年大阪府に生まれる。商業デザイナーを経て、写真家岩宮武二、細江英公らに師事する。1964年フリーランスの写真家として活動を開始する。『現代の眼』に「I am a king・通行人」を発表。1965年『カメラ毎日』に『ヨコスカ』を発表。以降写真雑誌などで作品を発表し続ける。1967年「にっぽん劇場」で第11回日本写真批評家協会新人賞を受賞。1968年多木浩二、中平卓馬らによる先鋭的な写真同人誌『プロヴォーグ』に参加し、ハイコントラストや粗粒子画面の作風を展開(~1970年)。1972年写真集『写真よさようなら』発刊。1982年写真集『光と影』発刊。1999年個展(サンフランシスコ近代美術館/アメリカ)開催。2003年写真集『新宿』により第44回毎日芸術賞受賞。島根、北海道、川崎で大規模な回顧展が開催される。2007年「ハワイ」を発表。2008年写真集『北海道』を発刊する。
公式サイト:http://www.moriyamadaido.com/
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●展覧会のお知らせ
沖縄県立博物館・美術館で森山大道さんの写真展「終わらない旅 北/南」が開催されています。上掲の作品も出品されています。

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会期:2014年1月23日[木]~3月23日[日]
会場:沖縄県立博物館・美術館
時間:9:00~18:00(金・土は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
料金:一般800円/高校・大学生500円/小・中学生300円

沖縄県立博物館・美術館では、2012年から2013年にかけてロンドンの国立現代美術館テート・モダンにおいて巨匠ウイリアム・クラインとの大規模な展覧会を開催し、国際的な注目を集める森山大道(1938-)の個展「森山大道 終わらない旅 北/南」を開催いたします。
森山は1938年に大阪府池田町に生まれ、グラフィックデザイナーを経て,写真家岩宮武二,細江英公らに師事したのち、1964年フリーランスの写真家となりました。1967年『カメラ毎日』に発表した《にっぽん劇場》などで日本写真批評家協会新人賞を受賞し、一躍時代の寵児となります。1968-69年には多木浩二,中平卓馬らによる先鋭的な写真同人誌『プロヴォーグ』に参加し,<アレ・ブレ・ボケ>と形容される荒々しい写真表現は、多くの模倣者を生み、さらに極限まで写真表現を突き詰めた問題作『写真よさようなら』(1972年)など,発表する写真集はどれも注目を集めました。
本展では50年にわたり現代写真に圧倒的な影響力を発揮した森山大道の写真の魅力と共に、最新作の「2013沖縄」と、40年前に撮影された「1974沖縄」の対比やそれら南の写真群と北の北海道の写真群の対比など、50年間一貫して路上のスナップ・ショットにこだわり続けた写真群は「写真とは何か?」という根源的な問いを私たちに投げかけます。(同館HPより転載)

◆大竹昭子さんのエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
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カタログのご案内
表紙『瀧口修造展 I』図録
2013年
ときの忘れもの 発行
図版:44点
英文併記
21.5x15.2cm
ハードカバー
76ページ
執筆:土渕信彦「瀧口修造―人と作品」
再録:瀧口修造「私も描く」「手が先き、先きが手」
価格:2,100円(税込)
※送料別途250円(お申し込みはコチラへ)。
ときの忘れものでは3月と12月にも瀧口修造展を開催します。このブログでは関係する記事やテキストを「瀧口修造の世界」として紹介します。土渕信彦のエッセイ「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。