ときの忘れものでは2月5日[水]―2月22日[土]の会期で「西村多美子写真展―憧景」を開催します(会期中無休)。
六本木にある禪フォトギャラリーと共同企画で(ただし会期が異なります)、ときの忘れものでは『憧景』シリーズのヴィンテージ作品32点を展示します
40年前の撮影直後にプリントされたヴィンテージはほとんどがEd.1部の希少作品です。エディションについては出品リストに明示したのでご参照ください。

禪フォトギャラリーでは、『しきしま』シリーズからモダンプリント約10点を展示します。
いずれも西村多美子の若き日(1970~80年年代初頭)の旅の記録。
撮影地は1970年代初頭の北海道、東北への旅が中心で、北陸や関西、東京も含まれています。

西村さんという写真家の存在を知ったのは一昨年秋、亭主の新聞社時代からの友人・平嶋彰彦から送られてきた一冊の写真集によってでした。

<『憧景』(西村多美子、グラフィカ編集部)を送らせていただきました。
作者の西村さんは知る人ぞ知る『しきしま』という名作を1975年にだした方で、毎日新聞出版局クロニクル編集部で亡くなった西井一夫さんの仕事を手伝っていたことがあります。構成とデザインをした伊藤愼一君は毎日新聞社写真部の後輩。現在はフリーの写真家で、撮影のかたわら「グラフィカ編集部」を主宰しています。
私はこの写真集では伊藤君からたのまれて解説を書いています。
外側から編集の途中経過を眺めていたにすぎませんが、作者と編集者の試行錯誤と苦労におのずと共鳴するところがあり、仕上がった本にはわがことのように愛着があります。
ぜひご覧になってほしいとおもったしだいです。
平嶋彰彦>

西村多美子『憧景』 表紙西村多美子写真集『憧景』
2012年10月31日
グラフィカ 発行
27.7x22.8cm
142ページ
写真点数:88点
テキスト:西村多美子、平嶋彰彦
価格:4,725円(税込) ※送料別途250円

このブログで平嶋の手がけた仕事(宮本常一桑原甲子雄の写真集)についてはたびたび書いてきましたが、個人的な付き合いについては今まで書いたことはありません。
平嶋と亭主たち同期生60数名が竹橋の新聞社に入社したのは1969年の春。編集も広告、販売も全員が一ヶ月ほど本社で研修を受けました。そのとき知りあったのが写真部に配属された平嶋でした。
社員食堂で一緒に昼飯を食い、休み時間は一階にあった流水書房で過ごすのが日課でした。そのとき書店の本棚にあった「つげ義春」の漫画集を教えてくれたのが平嶋でした。
漫画にも、写真にも、ましてや美術にも全く関心のなかった亭主にとって「つげ義春」を知ったことは20代の一大事件でした。平嶋が九州に赴任したあと、東京本社勤務の亭主は日々神田の古本街を彷徨し、青林堂まで押し掛け「つげ義春」の漫画を漁ったのでした。

今思うと、亭主が画商の道に進んだのは、平嶋=つげ義春の影響もあったかも知れません。
余計なことばかり書いてしまいましたが、平嶋から送られてきた写真集『憧景』のあるページを開いて思わず目を疑いました。懐かしさと驚きで胸が高鳴りました。
nishimura_28
西村多美子 Tamiko NISHIMURA
出品番号28:
《大曲、秋田県》

(p.56-57)
1970年代初期
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:15.0×23.2cm
シートサイズ :25.3×30.8cm
Ed.1  サインあり

撮影は1970年代初頭とありますが、同じころ、亭主は現代版画センター(1974~1985)を設立し、版画のつまったカルトンケースを抱えて、全国を行商して歩いていました。
最も頻繁に訪れたのが、岩手県盛岡、福井県勝山、そして秋田県大曲でした。
コレクターで支援者だった町医者のFさんと高校教師のSさんが現代版画センターのためだけに「大曲画廊」という民家の土間を使った小ギャラリーをつくってくれたのでした。
上掲の写真に写っている大曲タクシーの社長さんには島州一の版画を買っていただきました。
大曲駅からこの雪道を幾度となく歩いたことでしょう。
この一枚の写真で、亭主は西村さんの個展開催を決め、写真の大コレクターでもある禪フォトのマーク・ピアソンさんに相談しました。
さすがピアソンさん、稀覯本である『しきしま』もコレクションしており、その写真を高く評価していました。
彼女のヴィンテージ・プリントを亭主が託されていることを知るや、ただちに禪フォトから『しきしま』を復刻することを提案されたのでした。

ときの忘れもので発表する『憧景』シリーズ32点はヴィンテージプリントです。
ほとんどが一部のみですので、出品リストを参照のうえ、お早めにご注文いただければ幸いです。

なお、リストに記載した部数(1部または2部)は撮影当時に制作されたヴィンテージプリントの部数です。後年に制作されたモダン・プリントが別に存在しますが、今回は出品していません。
ぜひたくさんの方に見ていただきコレクションしていただきたい展覧会です。
どうぞご来場ください。

西村多美子 Tamiko NISHIMURA
1948年東京に生まれる。東京写真専門学院(現東京ビジュアルアーツ)で写真を学ぶ。学生時代の1968年頃アングラ劇団「状況劇場」の写真を撮る。初めての撮影は「由比正雪」で、唐十郎や麿赤児、四谷シモンなどの怪優たちに目を見張ったという。卒業前に、復帰前の沖縄へ初めての一人旅へ出る。1969年卒業後はアルバイトや雑誌の仕事を行ない、原稿料が入るとカメラを持って旅に出掛けた。撮影地は圧倒的に北海道と東北が多いが、関東、北陸、関西と広範囲にもおよんでいる。1990年代からはヨーロッパ、キューバ、ベトナムなど海外を撮影している。

写真展
1975年 「港町」東京写真専門学院ギャラリー/東京
1980年 「町 東京編」銀座ニコンサロン /東京
1981年 「町 北国編」新宿ニコンサロン /東京
1982年 「舞人木花咲耶姫」小西六ギャラリー/東京
1983年 「音楽 指揮者大友直人」ミノルタフォトスペース/東京
1998年 「しきしま」Taka Ishii Gallery/東京
2000年 「(小尚)景」スタジオエビス/東京
2001年 「Vent calmoso ~熱い風~」東京写真文化館/東京
2004年 「短歌絶叫 福島泰樹」PLACE M/東京、
     「西村多美子写真展」I-GONG Gallery/韓国テジョン市
2005年 「熱い風」PLACE M
2009年 「しきしま」ギャラリー蒼穹社/東京
2012年 「憧景」ビリケンギャラリー/東京
2014年 同時開催「しきしま」禪フォトギャラリー/東京、
「憧景」ときの忘れもの/東京

写真集
『しきしま』 東京写真専門学院出版局 1973年
『熱い風』 蒼穹舎 2005年
『福島泰樹短歌絶叫』 鳥影社 2005年
『実存 1968-69状況劇場』 グラフィカ編集室 2011年
『憧景』 グラフィカ編集室 2012年
『しきしま』復刻本 禪フォト 2014年 

◆ときの忘れものは2014年2月5日[水]―2月22日[土]「西村多美子写真展―憧景」を開催します。
出品リストはホームページに掲載しました。
DM
本展は六本木の ZEN FOTO GALLERY との共同開催です(会期が異なりますので、ご注意ください)。
ときの忘れものの会期は2月5日[水]―2月22日[土]


第1会場 ZEN FOTO GALLERY
「西村多美子写真展―しきしま」
会期:2014年2月5日[水]―3月1日[土]
日・月・祝日休廊
第2会場 ときの忘れもの
「西村多美子写真展―憧景」
会期:2014年2月5日[水]―2月22日[土]
会期中無休

●イベントのご案内
2月8日[土]18時~20時にZEN FOTO GALLERYにて西村多美子さんを囲んでレセプションパーティーを開催します。お誘いあわせのうえご来場ください。

カタログのご案内
表紙『瀧口修造展 I』図録
2013年
ときの忘れもの 発行
図版:44点
英文併記
21.5x15.2cm
ハードカバー
76ページ
執筆:土渕信彦「瀧口修造―人と作品」
再録:瀧口修造「私も描く」「手が先き、先きが手」
価格:2,100円(税込)
※送料別途250円(お申し込みはコチラへ)。
ときの忘れものでは3月と12月にも瀧口修造展を開催します。このブログでは関係する記事やテキストを「瀧口修造の世界」として紹介します。土渕信彦のエッセイ「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。