福井の荒井さんから「リサさんが亡くなった」という電話をいただきました。
ニューヨーク在住の木村利三郎先生はお一人暮らしでしたが、大正13年(1924年)生まれなので今年は90歳のはず。

亭主の生まれて初めての海外旅行は1983年のウォーホルとのエディション契約のためのNY行でした。
このときホテルではなく、ずっと利三郎先生のアパートに泊めていただきました。
その後も社長、長男、次男、友人のお嬢さんという5人でニューヨークに旅行した折にも何から何までお世話になったものでした。

初めて利三郎先生にお会いしたのは1974年春でした。
たまたま日本での初個展のために帰国されたのですが、ちょうど亭主の「現代版画センター」創立時期と重なります。版画の普及を目指して本格的版元をいかにしてつくるかと模索していたその渦中に飛び込んでこられたのが利三郎先生でした。
利三郎先生は私たちの最良の教師でした。
ご自身、師範学校を出て教師となり、法政大学では谷川徹三に学びます。戦後民主主義の最も輝いていた時期に、労働者の街・川崎で版画の頒布活動をしていました。
30歳で画家を志し、1964年40歳のときに渡米します。版画で生きていく過程で学んだアメリカの版元のシステム、契約、流通等々について私たちに懇切丁寧に教えてくださいました。
いま家の事情で資料を探せないのですが、現代版画センターの機関誌『画譜』第1号(だったと思う)にドイツの版画頒布組織について寄稿してくださったのも利三郎先生でした。

現代版画センターが、曲がりなりにも現代版画の版元として機能し、10年間に700点以上のエディションを生み出すことができたのは、創立時の利三郎先生の教えによるところ大でした。
私たちだけでなく、たくさんの方がお世話になっています。その一端は荒井由泰さんのエッセイ「マイコレクション物語」第3回にも描かれています。

死去の報を聞き、利三郎先生からの手紙を読み返しながら思い出したことがあります。
亭主は、まったくの畑違いの新聞社務めから画商となりました。今まで多くの作家のエディションをし(もちろん利三郎先生もその一人)、数え切れないほどの展覧会のカタログやパンフレットを制作してきました。
今回あらためて気づいたのですが、亭主が初めて手がけたカタログが利三郎先生の個展のためのものだったのです。
このときは随分資金も潤沢にあったので、かなり凝ったデザインにし、利三郎先生をあっちこっちに連れまわして、NYの雰囲気を出そうとたくさんのポートレートを撮影しました。
kimura01
1974年7月にフマ画廊(東京・銀座)で開催された木村利三郎展のカタログ表紙
撮影場所は新宿西口の地下道

kimura03
テキストは久保貞次郎先生にお願いしました。

kimura04木村利三郎
"City 34."
1974年 シルクスクリーン
49.6×64.6cm Signed

"City 189."
1974年 シルクスクリーン
65.6×49.8cm Signed

kimura05"City 156."
1974年 シルクスクリーン
68.5×52.6cm Signed

"City 133."
1974年 シルクスクリーン
68.2×53.4cm Signed

kimura02
木村利三郎略歴
撮影場所は中野刑務所の塀の前

------------------------------------------
二回目の個展のカタログもやはり私たちが制作しました。
kimura06
1978年4月20日 
現代版画センター発行
木村利三郎版画カタログ

kimura07
テキストはやはり久保貞次郎先生。

kimura08
木村利三郎"City 303-A"
1975年
シルクスクリーン・エッチング
44.5×31.0cm  Ed.30
Signed

kimura09
木村利三郎"City 311"
1975年
シルクスクリーン
65.5×51.0cm  Ed.50
Signed

kimura10
木村利三郎"City 340"
1976年
シルクスクリーン
62.0×50.0cm  Ed.50

kimura11
木村利三郎"City 338"
1977年
シルクスクリーン
63.5×50.0cm Ed.50
Signed

-----------------------------------------
都市の崩壊と再生、そして宇宙をテーマに描き続けた半世紀でした。
その作品は、ニューヨーク近代美術館、ブルックリン美術館、ミネソタ美術館、オクラホマアートセンター、コロンビア美術館、IBM本社、東京国立近代美術館、町田市立国際版画美術館、栃木県立美術館、東京藝術大学 ほかに収蔵されています。

謹んでご冥福をお祈りいたします。
リサさん、ありがとう。

■追記
葬儀の日程はコチラをお読みください。