スタッフSの「葉栗剛展」葉栗剛さんと森本悟郎さんによるギャラリートーク・レポート
スタッフSこと新澤です。
先週の5月17日土曜日に、現在ときの忘れもので「葉栗剛展」を開催中の彫刻家の葉栗剛さんと森本悟郎さんによるギャラリートークが開催されました。
ときの忘れものが扱った中でも最大級の作品に見下ろされる中、森本さん曰く葉栗先生の「解剖」が行われました。
左から着彩担当の長崎美希さん、木彫作家の葉栗剛さん、森本悟郎さん。
今回のギャラリートークでは森本さんが大量の作品画像をご用意してくださり、年代別に表示される作品を追いながら葉栗さんに語っていただく、という形で進行しました。
大学の修了制作(石膏の人体像)
そもそも何故彫刻という道に入ったのか、という所から始まったのですが、元々もの作りが好きだったことに加え、お父上が木材に関わる職人のような仕事をなさっていたということで、木に親しみやすいというイメージから木彫に関わるようになり、大学の段階でごく素直に彫刻を専攻するに至ったそうです。
入学された愛知芸大ではその後大学院に進まれたそうですが、何か特別なことをしたワケではなく、むしろ雇ったモデルを無駄にしないために何かやれと、あまり乗り気ではなかった人体彫刻をやらされたそうですが、それが今日の作品制作に繋がっている辺り、人生どう転ぶか分からないものです。
この頃から木彫作品を制作されていたそうですがご本人曰く「発表には耐えられない」ものが多く、自然とそれ以外の作品を提出、出展されていたそうで。

神戸の具象展に出展したアルミによる作品(卒業1年目に制作、2年目に出展)。
制作時に腕部の取り付けに問題があり、急遽溶接で応急処置をした所、結果的に評価が高くなったとか。
野外展となるとやはり木彫は難しいらしく、以前は木彫作品を作る傍ら、野外展開催時には木彫で得たアイデアをアルミなどの材質に転用して制作を行なっていたそうです。

初期の木彫作品。モチーフは「喜怒哀楽」。

野外展用のアルミによる作品。
上記と同じ「喜怒哀楽」がモチーフになっている。

1990年の時点では、人体のディフォルメ具合が大人しいという点で他とは少々異質な木彫作品。
黒い部分は炭で出来ており、運ぶ際に服が汚れてしまい怒られたという会場関係者泣かせな作品だったそうです。
上掲以降は人間でありながら人間離れした作品を作りたいという思いから、人体彫刻でありながらもプロポーションが大きく変化していき、そこから中期作品とも言えるミュージシャンシリーズ、ヤンキーシリーズへと繋がっていきます。

1、2週間に1体というハイペースで作られていた作品。
大きさは大体1.3mほどで、何十もの数が作られた。

ミュージシャンシリーズ。
森本さん曰く「楽器を持った人物をモダンでポップ(通俗的)に造形したもので、陽気で明るい印象」(カタログ掲載文「葉栗剛の流儀」より)
この頃から台座を用いず、自立できる作品を作っていたそうですが、中々見る人に気付いてもらえず、自分から語ることも多かったとか。

中京大学のC・スクエアで展示されたヤンキーシリーズ。
人物彫刻もさることながら、付け合せ的な意味合いで作ったバイクを注目する人が多く、葉栗さんとしては不満だったようです。
何故ヤンキーを題材にしたのか? という質問には、葉栗さんも答えあぐねていました。本人にそういった人種と接点があったわけでなし、町で見かけても関わりは持ちたくない類ですが、興味はあったとのこと。
この頃は高校で美術教師をされていたので、自分の目には入らない学生の一面に興味を惹かれたのかな、などと勝手に思ってみたり。

ヤンキーシリーズより。
未だに短ランと長ランてあるのでしょうかね?
これらを経て、2008年辺りから制作され始めたのが、前述のヤンキーが成長したかのような刺青シリーズ。
その着彩の殆どはかつて葉栗さんの教え子で、本人も現在彫刻家として活動されている長崎美希さんの手によるものです。本職の人間が彫りこんだかのような出来ですが、ご本人(長崎さん)曰く刺青雑誌を参考にして独自に描き込んでいるそうです。

刺青シリーズ。
以前のヤンキーやミュージシャンには無かった「深刻さ」が感じられますが、葉栗さんとしては特に何かを意識してこうなったワケではないとのこと。


祭りシリーズ。
刺青シリーズから続き、現在も制作されている、ひょっとこ、天狗、般若の面を着けた、褌一丁で全身に刺青を施された男性像のシリーズ。

筋肉などの表現を練習するための作品。
モデルは興福寺の龍燈鬼(下記掲載)。


上記と同じく、筋肉の表現などを練習するために興福寺の金剛力士像(下記掲載)をモデルに作られた作品に、彫り物を施した練習作品。
後述のノリタケの森ギャラリーで開催された展覧会では、対となるもう一体(無着彩)も展示された。ちなみにあくまでも正面からの写真のみを資料として制作されているので、葉栗さんの作品の中では立体感に乏しい作品の一つとのこと。


本展覧会でも新作が公開されている、絵画から作り起こされたシリーズの中でも初期の一体、《仙人》曾我蕭白画「蝦蟇・鉄拐仙人図」より。
この頃からノミ跡が滑らかになり、服飾表現の密度が上がってきています。

曾我蕭白の「蝦蟇・鉄拐仙人図」

ノリタケの森ギャラリーでの展示風景。
前述したものだけではなく、胸像や戦国大名をモチーフにしたものなど、様々な作品があります。

ヤンキーシリーズは展示する度にバイクに乗ろうとする客が出るので、だったらそれを防止するために作品を乗せてしまおうということでこのような構成になったそうです。









最後に見せてもらったのは、延べ100枚以上の写真による、本展の新作「《史進》歌川国芳「通俗水滸伝豪傑百八人之一個 九紋竜史進」より」が木材の状態から着彩されて完成するまで。段階を踏んでの前後左右の写真は、まるで回転しながら作品が削りだされていくかのようで、見ていて大変面白かったです。来月のWEB展覧会では、こちらの写真を使って動画を作成する予定ですので、楽しみにお待ちください。












祭りシリーズと平行して、最近では上記のように浮世絵を立体化している葉栗さんですが、以前から女性をモチーフにした作品はあまり多くありません。ですが、新作の「《傘持美人》葛飾北斎「柳下傘持美人図」より」などもあり、その数は増えています。
最後に森本さんが新作の題材にどうかとスライドに展示したのは、なんと葛飾北斎の「蛸と海女」。確かに立体化されれば構成的に見ても興味深い作品です。
ギャラリートーク後のレセプションの最後、作家の秋山祐徳太子さんを中心に。
(しんざわゆう)
◆ときの忘れものは2014年5月14日[水]―5月31日[土]「葉栗剛展」を開催しています(*会期中無休)。
名古屋で活動をしている木彫作家・葉栗剛による彫刻展を開催します。本展では、2体の大作〈男気〉シリーズを中心に、9点の木彫作品をご覧いただきます。
その作品世界については森本悟郎さんのエッセイ「葉栗剛の流儀」をお読みください。
5月29日(木)、30日(金)、31日(土)は葉栗さんが在廊しておりますので、是非お出かけ下さい。
●カタログのご案内
『葉栗剛展』カタログ
ときの忘れもの 発行
2014年
25.7x18.3cm 16P
執筆:森本悟郎
本体価格864円(税込) 送料別途250円
スタッフSこと新澤です。
先週の5月17日土曜日に、現在ときの忘れもので「葉栗剛展」を開催中の彫刻家の葉栗剛さんと森本悟郎さんによるギャラリートークが開催されました。
ときの忘れものが扱った中でも最大級の作品に見下ろされる中、森本さん曰く葉栗先生の「解剖」が行われました。

今回のギャラリートークでは森本さんが大量の作品画像をご用意してくださり、年代別に表示される作品を追いながら葉栗さんに語っていただく、という形で進行しました。

そもそも何故彫刻という道に入ったのか、という所から始まったのですが、元々もの作りが好きだったことに加え、お父上が木材に関わる職人のような仕事をなさっていたということで、木に親しみやすいというイメージから木彫に関わるようになり、大学の段階でごく素直に彫刻を専攻するに至ったそうです。
入学された愛知芸大ではその後大学院に進まれたそうですが、何か特別なことをしたワケではなく、むしろ雇ったモデルを無駄にしないために何かやれと、あまり乗り気ではなかった人体彫刻をやらされたそうですが、それが今日の作品制作に繋がっている辺り、人生どう転ぶか分からないものです。
この頃から木彫作品を制作されていたそうですがご本人曰く「発表には耐えられない」ものが多く、自然とそれ以外の作品を提出、出展されていたそうで。

神戸の具象展に出展したアルミによる作品(卒業1年目に制作、2年目に出展)。
制作時に腕部の取り付けに問題があり、急遽溶接で応急処置をした所、結果的に評価が高くなったとか。
野外展となるとやはり木彫は難しいらしく、以前は木彫作品を作る傍ら、野外展開催時には木彫で得たアイデアをアルミなどの材質に転用して制作を行なっていたそうです。

初期の木彫作品。モチーフは「喜怒哀楽」。

野外展用のアルミによる作品。
上記と同じ「喜怒哀楽」がモチーフになっている。

1990年の時点では、人体のディフォルメ具合が大人しいという点で他とは少々異質な木彫作品。
黒い部分は炭で出来ており、運ぶ際に服が汚れてしまい怒られたという会場関係者泣かせな作品だったそうです。
上掲以降は人間でありながら人間離れした作品を作りたいという思いから、人体彫刻でありながらもプロポーションが大きく変化していき、そこから中期作品とも言えるミュージシャンシリーズ、ヤンキーシリーズへと繋がっていきます。

1、2週間に1体というハイペースで作られていた作品。
大きさは大体1.3mほどで、何十もの数が作られた。

ミュージシャンシリーズ。
森本さん曰く「楽器を持った人物をモダンでポップ(通俗的)に造形したもので、陽気で明るい印象」(カタログ掲載文「葉栗剛の流儀」より)
この頃から台座を用いず、自立できる作品を作っていたそうですが、中々見る人に気付いてもらえず、自分から語ることも多かったとか。

中京大学のC・スクエアで展示されたヤンキーシリーズ。
人物彫刻もさることながら、付け合せ的な意味合いで作ったバイクを注目する人が多く、葉栗さんとしては不満だったようです。
何故ヤンキーを題材にしたのか? という質問には、葉栗さんも答えあぐねていました。本人にそういった人種と接点があったわけでなし、町で見かけても関わりは持ちたくない類ですが、興味はあったとのこと。
この頃は高校で美術教師をされていたので、自分の目には入らない学生の一面に興味を惹かれたのかな、などと勝手に思ってみたり。

ヤンキーシリーズより。
未だに短ランと長ランてあるのでしょうかね?
これらを経て、2008年辺りから制作され始めたのが、前述のヤンキーが成長したかのような刺青シリーズ。
その着彩の殆どはかつて葉栗さんの教え子で、本人も現在彫刻家として活動されている長崎美希さんの手によるものです。本職の人間が彫りこんだかのような出来ですが、ご本人(長崎さん)曰く刺青雑誌を参考にして独自に描き込んでいるそうです。

刺青シリーズ。
以前のヤンキーやミュージシャンには無かった「深刻さ」が感じられますが、葉栗さんとしては特に何かを意識してこうなったワケではないとのこと。


祭りシリーズ。
刺青シリーズから続き、現在も制作されている、ひょっとこ、天狗、般若の面を着けた、褌一丁で全身に刺青を施された男性像のシリーズ。

筋肉などの表現を練習するための作品。
モデルは興福寺の龍燈鬼(下記掲載)。


上記と同じく、筋肉の表現などを練習するために興福寺の金剛力士像(下記掲載)をモデルに作られた作品に、彫り物を施した練習作品。
後述のノリタケの森ギャラリーで開催された展覧会では、対となるもう一体(無着彩)も展示された。ちなみにあくまでも正面からの写真のみを資料として制作されているので、葉栗さんの作品の中では立体感に乏しい作品の一つとのこと。


本展覧会でも新作が公開されている、絵画から作り起こされたシリーズの中でも初期の一体、《仙人》曾我蕭白画「蝦蟇・鉄拐仙人図」より。
この頃からノミ跡が滑らかになり、服飾表現の密度が上がってきています。

曾我蕭白の「蝦蟇・鉄拐仙人図」

ノリタケの森ギャラリーでの展示風景。
前述したものだけではなく、胸像や戦国大名をモチーフにしたものなど、様々な作品があります。

ヤンキーシリーズは展示する度にバイクに乗ろうとする客が出るので、だったらそれを防止するために作品を乗せてしまおうということでこのような構成になったそうです。






















祭りシリーズと平行して、最近では上記のように浮世絵を立体化している葉栗さんですが、以前から女性をモチーフにした作品はあまり多くありません。ですが、新作の「《傘持美人》葛飾北斎「柳下傘持美人図」より」などもあり、その数は増えています。
最後に森本さんが新作の題材にどうかとスライドに展示したのは、なんと葛飾北斎の「蛸と海女」。確かに立体化されれば構成的に見ても興味深い作品です。

(しんざわゆう)
◆ときの忘れものは2014年5月14日[水]―5月31日[土]「葉栗剛展」を開催しています(*会期中無休)。

その作品世界については森本悟郎さんのエッセイ「葉栗剛の流儀」をお読みください。
5月29日(木)、30日(金)、31日(土)は葉栗さんが在廊しておりますので、是非お出かけ下さい。
●カタログのご案内

ときの忘れもの 発行
2014年
25.7x18.3cm 16P
執筆:森本悟郎
本体価格864円(税込) 送料別途250円
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