具体」メンバーで高知在住の高﨑元尚先生からお便りをいただきました。、
昨年春にニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催された具体展が米国美術評論家連盟から表彰されたことを知らせるキューレターからの書簡のコピーも同封されていました。
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「グッゲンハイム具体展の招待日」
高崎元尚


2013年2月、グッゲンハイム美術館の展覧会「具体―すばらしい遊び場」出品者の一人として、ニューヨークへ行って参りました。グッゲンハイム美術館は、ソロモン・R・グッゲンハイム財団が設置、運営している美術館で、ヨーロッパをはじめ世界各地にも幾つかありますが、特にニューヨークのグッゲンハイムは、同じくニューヨークのモダンアートミュージアム(通称 MOMA)と共に現代美術のメッカとして知られています。

この美術館はフランク・ロイド・ライトのいわゆる有機的建築を代表するもので、美術館としては異色のデザインで知られています。タクシーでセントラルパークの東側をちょっと北に走ったところにその建物はありました。外観は、まいまい貝のようなふくらみをもった白で、美の殿堂として周りの建物とは一線を画しています。

憧れのグッゲンハイムに着きました。建物の内部は、ステインドグラス風の枠組みで支えられた透明ガラスの天井まで、巨大な円筒型の空洞になっています。空洞の側面は傾斜したスロープになっており、鑑賞者はこのスロープを登りながら壁の絵を見る仕組みになっているのですが、この日はその常道が通用しませんでした。元永定正の『水』が鑑賞者の足をくぎ付けにしてしまったからです。
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『水』は、色をつけた水を透明なヴィニールパイプに入れて、両端を引き上げるというコンセプトで生み出された作品です。元永はこの「実験」を1954年から繰り返し行っていましたが、1993年にヴェニスで制作した『水』が高い評価を受けました。そのことが今回の出品依頼につながったのですが、ニューヨーク留学の経験もある元永が、病床でオファーを受けたとき考えたのは、如何にしてグッゲンハイム美術館の大空間に最大級の「水」をからませるか、ということであったと思われます。

ヴィニールパイプは直径1メートル、長さはドームの直径、それが10本。フォルクスワーゲンを裏返したような水の塊がどれだけ重いか知りませんが、とにかく、パイプを縛ったワイヤーを、コンクリートの壁を壊して鉄骨に直結する大工事が行われていました。

日本ではあり得ないことです。キュレーター、ミン・ティアンポさんの権限の強さでしょうか。ミンさんは、元永の『水』を最大の目玉とするため、病室に通い詰め、打ち合せをしたそうです。残念ながら元永自身はグッゲンハイムの『水』を見ることはありませんでしたが、他のスロープに飾られた作品たちは、元永の新作(?)の出現によって、かなりの打撃を受けたと思います。

いみじくも、グッゲンハイム会員募集のチラシに2つの写真が載っていました。1つは殖民時代の必需品を思わせる、馬、荷車、家財道具、家など、ドーム中央の空間に、まるで宇宙空間にただよう廃棄物のように吊り下げたものですが、この場合スロープの展示はありません。もう1つはケリーの色鮮やかな幾何学的な抽象画の、スロープの壁面のみの展示で、下から見上げるとぐるり、教会のステインドグラスのように美しいが、個々の作品はあまり大きくなく、中央の空間には何もありません。

グッゲンハイムでの具体展では、これら2つの使い方が競合した感がありました。作品が大きいから、ライト方式(傾いているものが垂直に見える)がはたらきません。傾きが逆にどんどん大きくなり、やがてすべり落ちて大切な展示作品を壊すのではないかと恐怖を感じました。

やっと見つけた私の作品は、スロープの終点の6階にありました。碁盤目の私の「装置」があのスロープの混乱の中にあったら、私の芸術が壊れてしまうのではないかと心配しておりましたが、この部屋の床は完全な水平面で、静かで、広々として、奥まって、グッゲンハイムの床の間ではないかと思いました。
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以上で91歳になったへんくつ爺さんが、50年前の自分に会いに行った報告です。ここまで導いてくださった皆々様に、ありがとう、を申し上げます。

作品は宮城県立美術館に帰り、収蔵庫に眠っています。またの機会があったら見て下さい。

たかさきもとなお

●ときの忘れもので開催した「GUTAI 具体 Gコレクションより」に出品した高崎元尚作品をご紹介します。
高崎元尚2高﨑元尚
「装置」
1991年
厚紙、樹脂、合板、塗料
90.0x90.0x7.0cm
裏にサインと年記あり
具体についての高﨑先生の発言はこのブログでご紹介しましたのでお読みください。

●具体展受賞のお祝いに、昨日から具体コレクションを展示しています。6月7日(土)までの短い期間ですが、ご高覧いただければ幸いです。
具体左から前川強、元永定正吉原治良
外光があたっていますが、これは撮影のためわざとしたもので、実際の展示では外光はシャットアウトしています。
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高﨑元尚 Motonao TAKASAKI(1923-)
高知に生まれる。1949年東京美術学校(現・東京藝術大学)彫刻科卒業。1954年第4回モダンアート協会展で新人賞を受賞し、1957年同会会員となる。1970年退会。吉原治良、白髪一雄、元永定正の作品に共感し、1966年具体美術協会会員となる。1972年の解散まで参加。「モダンアート研究会」「現代美術の実験」等を主宰し、現代美術の振興に努め、1995年高知県文化賞を受賞。

■Motonao TAKASAKI(1923-)
Born in Kochi. Graduated from the Department of Sculpture, Tokyo Fine Arts School (presently, Tokyo National University of Fine Arts and Music) in 1949. Received the newcomer’s prize at the 4th Exhibition of the Modern Art Association of Japan in 1954, and became its member in 1957 (Withdrew in 1970). Became a member of Gutai in 1966, after sympathizing with works by Jiro YOSHIHARA, Kazuo SHIRAGA and Sadamasa MOTONAGA. Stayed until Gutai’s dissolution in 1972. Received the Kochi Prefecture Cultural Award in 1995 for promoting modern art by hosting groups such as the “Modern Art Laboratory” and the “Modern Art Experiment”.

表紙『具体 Gコレクションより』展図録
2013年 ときの忘れもの 発行
16ページ 25.6x18.1cm
執筆:石山修武、図版:15点
略歴:白髪一雄、吉原治良、松谷武判、上前智祐、堀尾貞治、高﨑元尚、鷲見康夫
価格:800円(税別)
※送料別途250円