木村利三郎 ■ ニューヨーク便り2(1979年)
「アートフェアーと或るコレクターの話」
三月八日から十二日までニューヨークコロシアムで、第一回アートエクスポが開かれた。
時間は午前十一時から夜の十時まで。出店の数は百五十、アメリカとヨーロッパ全域、ソ聨からも一店でていた。スイス・バーゼルのアートフェアーは有名だがアメリカでは数年前から開かれているワシントンと今回からのニューヨークとの二つがある。
あの大きなコロシアムの二階全部をつかっていて、各店は間口4~5m、奥行2~3mの小さなものだが壁一パイに作品を並べている。
二つとか三つ分を合わせて使用している画廊もあり、版画作家がデモンストレイションしているのや、額縁屋、プレス機会社、ポスター専門店、二つ三つ作家自身が店を開き個展をしているのもあった。浮世絵ありますと下手な日本語で書いたビラを店頭にはっている画廊もあった。日本の画廊は一つも出店しておらず、多分買い専門かも知れない。入場料4$、会場の各地にバーやホットドッグ屋、コーヒー屋が出していた。どのくらいの取引きがあったのか知らないが、通路を歩くのにほねがおれるくらいだ。受付でもらった番号をたよりに、友人の店をさがした。友人と30分程度雑談しているあいだに、プライスリストとアドレスを希望する客が7~8人いた。田舎から来た画廊主、アートコレクター、デイラー、といった人達だ。ヨーロッパの国々のはそれぞれ個性的だが、アメリカは総体的に明るい色彩にみちていたが変化にとぼしい。ピーター・マックスの油彩があったり、ヘンリー・ムアのブロンズや小品のリトが並べてあった。ブロンズは高さ20cmぐらいで1万2千$、リトは4百$から6百$ぐらい。
現代版画センターも出店したらどうかと思った。日本の作家はすべてデリケートだし、うまいし、あの静かな暗い感じのする、センターエディション群はニギヤカなウェスト絵画群の中においたらきっとうけるのではないかと思った。それ程まったくお祭りそのもののにぎやかしさだった。
先月古い楽器や刀、つば、のコレクターである友人のパーティに出掛けていった。何度か訪ねた家だったが、その日、壁にかかっている二枚の未だ見たことのない絵があった。「ほほう、クニヨシだなあ。」と遠くから思ったが近づいてみると違っている。しばらくながめていたら友人が、その作家が来ているから紹介しようといって一人の老人の前につれて行った。この日のパーティで唯一人の東洋人だった。日系一世で80才になるというU氏だ。日本語と英語をまぜながら長い時間話をきいた。北川民次氏がニューヨークに滞在していた当時、同じようにアート・スティユデントリーグに通っていたと云う。絵では食えないので額縁屋を開き、ロックフェラー家に出入りを許されたり、古道具店を開いたりして成功した。その当時クニヨシはリーグの先生をしていた。U氏の作品がクニヨシによく似ているのがそれでわかった。クニヨシは額縁がなかなか買えず、U氏がクニヨシの作品と交換して額装していたのだという。それがなんと60点もあつまってしまった。未整理のドロウイングは数えきれない程あり、その他浮世絵、刀剣、つば、など戦後日本からアメリカ人が持ち帰ったものを買いあつめ、誰にも見せずにしまっておいた。
アパートを買いフロリダで冬を過し、今自分で持っている金は死ぬまでどのように使っても使いきれないといいながら、次のパークバネットのオークションに刀剣百五十本を売りに出すという、一億円に近い金らしい。なぜかというと、去年の秋、FBIだといって入って来た二人組にホールドアップされ50本近い刀を真昼間に持ちだされてしまった。よいものだけえらんで持って行ったのは多分、自分の家で毎月やっている刀剣に関するゼミに参加している誰かの知人であろうといっていた。それから人間不信感はますますつのったらしい。或る時日本の博物館に名刀を一振り寄贈したいと申し出たら身元を調べられ、その刀も疑われて以後日本はキライになったといった。病的なコレクターなのか、コレクターが病的なのか。
刀剣やつばより版画は日常性があるから、版画コレクターにはこんなタイプの人はいない。アートフェアーのようにお祭り気分の方がよい。あまり深刻がって作品をつくったり、病的に版画をあつめたりすると、息がつづかなくなる。
版画センターも時には息をぬいておまつりでもやるとよい。
(つづく)
(きむら りさぶろう)
『版画センターニュース No.48』所収
1979年7月1日 現代版画センター発行
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●去る5月17日ニューヨークで死去した木村利三郎先生への追悼の心をこめて「第25回 瑛九展 瑛九と久保貞次郎」に久保貞次郎旧蔵作品を出品しています。

木村利三郎
「離島」
水彩
19.5×27.5cm
Signed

木村利三郎
「City」シリーズより
1970年
シルクスクリーン
22.0×27.0cm
Ed.20 Signed

木村利三郎
「Manhattan A」
銅版
12.5×17.0cm
Ed.50 Signed
*画廊亭主敬白
先日のブログで木村利三郎先生の訃報(5月17日死去)をお伝えしました。お別れ式が6月7日に横須賀のセレモニーホール衣笠で執り行われました。私たちはあいにく出張で参列できませんでしたが、久保貞次郎先生の教え子でリサさんとも親交のあった秀坂さんたちが出席し、当日の写真を送ってきてくださいました(秀坂さんありがとう)。
地元の代議士小泉進次郎さんも参列されたようです。


■木村利三郎
1924年 横須賀市生まれ
1947年 神奈川師範(現横浜国立大学)卒
1954年 法政大学哲学科卒
1964年 渡米
2014年 5月17日ニューヨークの自宅にて死去(享年89)。
【主な個展】
1969ロングアイランド大学(ニューヨーク)、ダウンタウン画廊((ハワイ)、1973ギンペル画廊(ニューヨーク)、1974日動画廊(東京、名古屋、大阪)、フマ画廊(東京)、1977ミュンヘン【ドイツ】、1978有隣堂ギャラリー(横浜)、1978名古屋日動画廊、平安画廊(京都)、フランクフェデラ画廊(ニューヨーク)、1981ストライプハウス(東京)、1982ミュンヘンインターナショナル画廊(ドイツ)、1987有隣堂ギャラリー、1991日本大使館(ワシントン)、1992ARTRAギャラリー(ニューヨーク)、1995有隣堂ギャラリー、1999仙台市民ギャラリー、1987,1995,2008川越画廊個展
【コレクション】
オクラホマアートセンター、ニューヨーク近代美術館、ブルックリン美術館、ミネソタ美術館、IBM本社、東京国立近代美術館、町田市立国際版画美術館、コロンビア美術館、東京芸術大学 ほか
◆ときの忘れものは2014年6月11日[水]―6月28日[土]「第25回 瑛九展 瑛九と久保貞次郎」を開催しています(*会期中無休)。

大コレクター久保貞次郎は瑛九の良き理解者であり、瑛九は久保の良き助言者でした。
遺された久保コレクションを中心に、瑛九と時代を共にし、久保が支持した作家たちー北川民次、オノサト・トシノブ、桂ゆき、磯辺行久、靉嘔、瀧口修造、駒井哲郎、細江英公、泉茂、池田満寿夫らの油彩、水彩、オブジェ、写真、フォトデッサン、版画などを出品します。
また5月17日に死去した木村利三郎の作品を追悼の心をこめて特別展示します。
◆宇都宮の栃木県立美術館で、「真岡発:瑛九と前衛画家たち展―久保貞次郎と宇佐美コレクションを中心に」が6月22日[日]まで開催されています。
展示風景はユーチューブでご覧になれます。
「アートフェアーと或るコレクターの話」
三月八日から十二日までニューヨークコロシアムで、第一回アートエクスポが開かれた。
時間は午前十一時から夜の十時まで。出店の数は百五十、アメリカとヨーロッパ全域、ソ聨からも一店でていた。スイス・バーゼルのアートフェアーは有名だがアメリカでは数年前から開かれているワシントンと今回からのニューヨークとの二つがある。
あの大きなコロシアムの二階全部をつかっていて、各店は間口4~5m、奥行2~3mの小さなものだが壁一パイに作品を並べている。
二つとか三つ分を合わせて使用している画廊もあり、版画作家がデモンストレイションしているのや、額縁屋、プレス機会社、ポスター専門店、二つ三つ作家自身が店を開き個展をしているのもあった。浮世絵ありますと下手な日本語で書いたビラを店頭にはっている画廊もあった。日本の画廊は一つも出店しておらず、多分買い専門かも知れない。入場料4$、会場の各地にバーやホットドッグ屋、コーヒー屋が出していた。どのくらいの取引きがあったのか知らないが、通路を歩くのにほねがおれるくらいだ。受付でもらった番号をたよりに、友人の店をさがした。友人と30分程度雑談しているあいだに、プライスリストとアドレスを希望する客が7~8人いた。田舎から来た画廊主、アートコレクター、デイラー、といった人達だ。ヨーロッパの国々のはそれぞれ個性的だが、アメリカは総体的に明るい色彩にみちていたが変化にとぼしい。ピーター・マックスの油彩があったり、ヘンリー・ムアのブロンズや小品のリトが並べてあった。ブロンズは高さ20cmぐらいで1万2千$、リトは4百$から6百$ぐらい。
現代版画センターも出店したらどうかと思った。日本の作家はすべてデリケートだし、うまいし、あの静かな暗い感じのする、センターエディション群はニギヤカなウェスト絵画群の中においたらきっとうけるのではないかと思った。それ程まったくお祭りそのもののにぎやかしさだった。
先月古い楽器や刀、つば、のコレクターである友人のパーティに出掛けていった。何度か訪ねた家だったが、その日、壁にかかっている二枚の未だ見たことのない絵があった。「ほほう、クニヨシだなあ。」と遠くから思ったが近づいてみると違っている。しばらくながめていたら友人が、その作家が来ているから紹介しようといって一人の老人の前につれて行った。この日のパーティで唯一人の東洋人だった。日系一世で80才になるというU氏だ。日本語と英語をまぜながら長い時間話をきいた。北川民次氏がニューヨークに滞在していた当時、同じようにアート・スティユデントリーグに通っていたと云う。絵では食えないので額縁屋を開き、ロックフェラー家に出入りを許されたり、古道具店を開いたりして成功した。その当時クニヨシはリーグの先生をしていた。U氏の作品がクニヨシによく似ているのがそれでわかった。クニヨシは額縁がなかなか買えず、U氏がクニヨシの作品と交換して額装していたのだという。それがなんと60点もあつまってしまった。未整理のドロウイングは数えきれない程あり、その他浮世絵、刀剣、つば、など戦後日本からアメリカ人が持ち帰ったものを買いあつめ、誰にも見せずにしまっておいた。
アパートを買いフロリダで冬を過し、今自分で持っている金は死ぬまでどのように使っても使いきれないといいながら、次のパークバネットのオークションに刀剣百五十本を売りに出すという、一億円に近い金らしい。なぜかというと、去年の秋、FBIだといって入って来た二人組にホールドアップされ50本近い刀を真昼間に持ちだされてしまった。よいものだけえらんで持って行ったのは多分、自分の家で毎月やっている刀剣に関するゼミに参加している誰かの知人であろうといっていた。それから人間不信感はますますつのったらしい。或る時日本の博物館に名刀を一振り寄贈したいと申し出たら身元を調べられ、その刀も疑われて以後日本はキライになったといった。病的なコレクターなのか、コレクターが病的なのか。
刀剣やつばより版画は日常性があるから、版画コレクターにはこんなタイプの人はいない。アートフェアーのようにお祭り気分の方がよい。あまり深刻がって作品をつくったり、病的に版画をあつめたりすると、息がつづかなくなる。
版画センターも時には息をぬいておまつりでもやるとよい。
(つづく)
(きむら りさぶろう)
『版画センターニュース No.48』所収
1979年7月1日 現代版画センター発行
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●去る5月17日ニューヨークで死去した木村利三郎先生への追悼の心をこめて「第25回 瑛九展 瑛九と久保貞次郎」に久保貞次郎旧蔵作品を出品しています。

木村利三郎
「離島」
水彩
19.5×27.5cm
Signed

木村利三郎
「City」シリーズより
1970年
シルクスクリーン
22.0×27.0cm
Ed.20 Signed

木村利三郎
「Manhattan A」
銅版
12.5×17.0cm
Ed.50 Signed
*画廊亭主敬白
先日のブログで木村利三郎先生の訃報(5月17日死去)をお伝えしました。お別れ式が6月7日に横須賀のセレモニーホール衣笠で執り行われました。私たちはあいにく出張で参列できませんでしたが、久保貞次郎先生の教え子でリサさんとも親交のあった秀坂さんたちが出席し、当日の写真を送ってきてくださいました(秀坂さんありがとう)。
地元の代議士小泉進次郎さんも参列されたようです。


■木村利三郎
1924年 横須賀市生まれ
1947年 神奈川師範(現横浜国立大学)卒
1954年 法政大学哲学科卒
1964年 渡米
2014年 5月17日ニューヨークの自宅にて死去(享年89)。
【主な個展】
1969ロングアイランド大学(ニューヨーク)、ダウンタウン画廊((ハワイ)、1973ギンペル画廊(ニューヨーク)、1974日動画廊(東京、名古屋、大阪)、フマ画廊(東京)、1977ミュンヘン【ドイツ】、1978有隣堂ギャラリー(横浜)、1978名古屋日動画廊、平安画廊(京都)、フランクフェデラ画廊(ニューヨーク)、1981ストライプハウス(東京)、1982ミュンヘンインターナショナル画廊(ドイツ)、1987有隣堂ギャラリー、1991日本大使館(ワシントン)、1992ARTRAギャラリー(ニューヨーク)、1995有隣堂ギャラリー、1999仙台市民ギャラリー、1987,1995,2008川越画廊個展
【コレクション】
オクラホマアートセンター、ニューヨーク近代美術館、ブルックリン美術館、ミネソタ美術館、IBM本社、東京国立近代美術館、町田市立国際版画美術館、コロンビア美術館、東京芸術大学 ほか
◆ときの忘れものは2014年6月11日[水]―6月28日[土]「第25回 瑛九展 瑛九と久保貞次郎」を開催しています(*会期中無休)。

大コレクター久保貞次郎は瑛九の良き理解者であり、瑛九は久保の良き助言者でした。
遺された久保コレクションを中心に、瑛九と時代を共にし、久保が支持した作家たちー北川民次、オノサト・トシノブ、桂ゆき、磯辺行久、靉嘔、瀧口修造、駒井哲郎、細江英公、泉茂、池田満寿夫らの油彩、水彩、オブジェ、写真、フォトデッサン、版画などを出品します。
また5月17日に死去した木村利三郎の作品を追悼の心をこめて特別展示します。
◆宇都宮の栃木県立美術館で、「真岡発:瑛九と前衛画家たち展―久保貞次郎と宇佐美コレクションを中心に」が6月22日[日]まで開催されています。
展示風景はユーチューブでご覧になれます。
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