私の人形制作第60回 井桁裕子

指人形ワークショップ


先月お知らせを書かせて頂きましたが、6月7日(土)夜7時から、北千住の「リテラ言語技術教室」の主催で「自分の顔の指人形を作る」というワークショップを行いました。
場所は教室と同じ建物にあるカフェ・コバ・ガーデン。
美味しいお茶とお菓子、スタッフの皆さんの細やかなお心遣いで、和やかな集まりとなりました。

主催の「リテラ言語技術教室」とは、東京電機大学教授の石塚正英氏と三人の若い先生方の皆さんで運営されている一種の塾です。しかし、単なる学習塾ではありません。
「ことばの力は、考える力。」「子どもたちに 生きる力を」
これはサイトの中に書かれた案内文の中の言葉ですが、学校でも家庭でもなかなかできない大切な取り組みをされていると感じます。
http://www.litera-arts.com
ここでは大人も対象とした「千住アートメチエ文化教養講座」というのも開講しています。
上記のカフェを会場に、いろいろな分野の方々が講演をするものです。
石塚さんとの共通の友人Sさんから私の名前が出て、声をおかけ頂いたのでした。
そして結局、初の試みでワークショップをやってみようということになりました。
私も初めての事でしたが、気楽に行きましょう、と励まされました。
材料などもそろえて頂き、気が付けばあっというまに当日です。
顔だけとはいえ1時間一本勝負で作ってもらうなんて無謀な取り組みです。
しかしともかくやってみるしかありません。

カフェのテーブルには段ボールを敷いた上に新聞紙を敷くという気遣いがされ、お願いした通り写真撮影の準備もされていました。
参加者が到着したらまず資料用の顔写真を撮ってもらってプリントアウトし、それをもとに「指人形」制作に取り掛かるというわけです。7時開講なので、6時半くらいから徐々に皆さんが集まり始めました。
13人と聞いていましたが結局18人、うち3人は教室に通う小学生。椅子の数ぎりぎりの満員です。
メールアーティストでときの忘れものの常連でもあるNさんのお名前もありました。
時間がきて、いよいよ開講です。

資料写真のプリントができるまで私が自分の作品などをスライドショーで観せ、その後、カッターナイフでスタイロフォームを削り出す作業に入ります。
造形は石粉粘土を用意してあり、それを貼付けて行く芯をまずスタイロフォームで作るわけです。
指の入る所を空洞にするための芯なのですが、その説明が不十分だったので、皆さん迷いながらカッターを心細げに動かしています。
カフェの空間には全員の脳天から立ち上った目に見えないハテナマークが充満しました。

「そうか、これはあとで削り出しちゃうんですね!つまり、空間になる所を作っている」とオブザーバー参加の石塚さんがハタと気付いた感じで言ってくださり、空中ハテナマークの群れが無言でどよめきました。
「そ、そうですっ!これで造形するのではなく…え~と、ようするに指くらいの大きさでいいのですっ!」
ああ、作業の全体像をまず最初に説明しなくてはいけなかったのだ!!と私はこの段で衝撃的に気が付きました。口下手の私であればなおのこと、準備とはそういう説明の段取りを考えなくてはならなかったのです。
時間はどんどん過ぎて行きます。自分なら5分で悠々やってしまう作業なのに…。
私はカッターを持って、滞ってしまっている参加者の横に行き、「ハイッこのような感じです!」と秒速のスピードでさくさく削って回りました。
スタッフのKさんが、そろそろ粘土の作業に入った方がいいですよね、と声をかけてくれました。
私は内心の動揺を隠しつつ、そうですねっ!と笑顔で答えました。

顔は横顔から作り始めるのだと彫刻家ロダンが弟子のカミーユ・クローデルに教えた…などというエピソードを披露したのですが、やはり立体にするのは難しいらしく、あごの下の空間が無い人が多かったのでした。
横顔の写真をよく見て下さいね、と言いながら、また私はテーブルを回ってあごの無い作品を見つけては手出しをしました。
メールアーティストNさんの作品も首とあごがつながっています。
「いやこれはあごをもっと」と言いながら資料の写真を見ると、グッとあごを引いて写真に収まったNさんの横顔は、実際あごがなくなって写っていました。
「う~ん、これは…正しいですね。」「...そうでしょ」などと言っている間にも時計の針はどんどん進んで行きます。
女性の参加者が多く、「こんなにごつくないですよ」などと言いながら直していったのですが、謙遜というのか、美人に作る事を遠慮してしまうのが女性共通の現象なのでした。
3人の子ども達には、日頃から馴染んでいるスタッフのKさんが張り付いて面倒を見てくれていました。

怒濤のように(と感じていたのは私だけだと思いますが)作業時間は過ぎ去って、お茶の時間に。
アンケートを書いて頂き、質疑応答、まとめのお話をしてワークショップは終了です。
そして、乾燥機から出された生乾きの作品を手に、参加者の皆さんは笑顔で帰って行かれました。

終わっての感想では「無心になれて楽しかった」という声を多く頂きました。
こちらの至らなさなどに関係なく、豊かな創造力をそれぞれに発揮され、作ることそのものに熱中してくださったのでした。
思えば、参加された皆さんのほとんどは「粘土なんて小・中学校以来触ってない」とのことだったのです。
次回があればまた参加したいとおっしゃる方もあり、これはテーマそのものが持つ魅力だと思いました。
「次回があればもっとちゃんと…」という思いですが、こちらこそ暖かいスタッフの皆さんに支えられて実に貴重な経験をさせて頂いたワークショップだったのでした。

「アートメチエ」報告
http://www.litera-arts.com/kotolabo/art-metier/5438/
カフェ・コバ・ガーデン
http://www.cafekova.jp/

(いげたひろこ)

◆井桁裕子のエッセイ「私の人形制作」は毎月20日の更新です。
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