ルリユール-本を愛するひとつの形

 初めまして。私達はLes fragments de M(レ・フラグマン・ドゥ・エム)という四人組のユニットです。略してfrgm(フラグム)とも言います。このたび「ときの忘れもの」で、作品を紹介していただくことになりました。まずは、私達がどのような分野で活動をしているかについて、お話しします。

 「ルリユール」という言葉をご存知でしょうか。フランス語で「製本」。意味としては、書店で売られている、いわゆる機械製本も含める語ではありますが、一方で工芸としての製本を強く想起する言葉として、フランス語圏の国々では使われています。
 工芸としての製本とは、読書家・愛書家が自らの蔵書を製本家に依頼して、世界に一つの作品に仕立て直す、まずは大まかではありますが、このようにご説明しておきます。具体的には、山羊革やカーフ(仔牛革)などを表装材に用い、その上に革や他の素材による装飾を施していきます。かつては、金箔を用いて革の上に様々な紋様を施す表現が主流でした。そういった技法や歴史的な流れについては、次回以降お話していく予定です。

 フラグムは2011年10月、三人の製本家と一人の箔押し師が集まり、ルリユールをもっと多くの方々に知っていただき、より身近なものとして慈しんでもらうことを願い、活動を始めました。ヨーロッパを中心として千五百年近い伝統を持つルリユールですが、日本では明治期、機械製本という産業の一分野として西洋式製本が導入されたいきさつから、これが広まることはありませんでした。また製本にせよ箔押しにせよ、きわめて個人的で、孤独な作業であり、それを幅広く皆様にお伝えする場を持つことが難しくもありました。
 ユニットとしての活動開始から三年、まだまだ試行錯誤の日々が続いていますが、狭い世界に留まることなく、さらなる可能性を求めていきたいと思っています。 

 メンバーを簡単にご紹介します。私達の仕事は、実は作品からは窺い知れないほどの重労働。その力仕事を一途にこなす羽田野麻吏。見た目は剛胆、根は繊細な市田文子。一見大人の振るまい、内心反省することばかりの平まどか、以上が製本を生業としています。そして愛すべき末っ子、箔押しに奮闘する中村美奈子。性格は異なるものの、ルリユールを愛する気持ちは誰よりも強いこの四人を、何卒お引き立てのほど、よろしくお願い申し上げます。

(文・平まどか)
平(大)のコピー

●第1回紹介作品~平まどか制作
Taira 1Taira 4


Taira 3Taira 2
『山師トマ』
ジャン・コクトオ/河盛好蔵訳
出帆社/1976年
本文196ページ
図版16ページ

・2013年制作
・214x155x25mm
・総仔牛革装  
・パッセ・カルトン
・ヘビ等爬虫類革による嵌め込み 、仔牛革モザイク装飾
・手染め見返し
・タイトル箔押し:中村美奈子
・シュミーズ・スリップケース

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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本

*画廊亭主敬白
新連載「ルリユール 書物への偏愛」が始まります。
私たち画商は「商品としての美術品」を扱っています。品目は絵画(平面)、彫刻(立体)、写真という分類で説明することもあれば、「建築家による作品」などというちょっと他とは異なる分野のものも扱っています。
今日から始まったfrgmの皆さんの新連載は、ときの忘れものが今後「美術品としての書物」を扱うという宣言でもあります。上述の例にならうならば「造本作家」たちが、新たにときの忘れものの取り扱い作家に加わります。
タイトルに「書物への偏愛」とあるように、これからご紹介するのは、書物への愛に憑かれた4人の造本作家の作品です。
ご存知のように「美術品としての書物」を日本に知らしめたパイオニアは栃折久美子さんです。栃折さんの播いた種をさらに大きく実らせるために(私たち画商の言葉で言えば「市場」をつくるために)微力を尽くしたいと思っています。
frgmの皆さんには、ルリュールとは何か、歴史や技法などについてわかりやすく説明して欲しいとお願いしています。
毎回、紹介する彼女たちの作品はときの忘れもので「頒布」します(第一回は平まどかさんの作品です)。可能な限り実物を用意して、画廊でご覧になれるようにします。
「ご注文」による新作の制作も承ります。
作品の頒布価格や、新規注文のご予算等については遠慮なくお問い合わせください。再来年(2016年)の春頃、frgmの皆さんの作品展を開催の予定です。どうぞご期待ください。

*画廊亭主追伸
言葉というのは難しい。
例によっておっちょこちょいの(軽薄)亭主が栃折さんのことを「パイオニア」と書いたら、早速ある方から、無知もはなはだしい、ティニ・ミウラ女史をご存知ないのか、反町茂雄さんの偉大なお仕事をご存知か、丸善洋書部の力をご存知かと、ご指摘を受けました。
本好きの亭主はティニ・ミウラさんも反町茂雄さんも尊敬しておりますし、丸善さんにもお世話になっております。
同じように造本の魅力を一般の人たちに知らしめ、後輩たちを育てた栃折さんの功績はとても大きいと思い、「パイオニア」という言葉を使ったのですが、先人たちの業績をないがしろにしたと思われたとしたら謹んでお詫びします。亭主敬白は本文の蛇足みたいなものですので、どうぞ悪しからず。
若い4人の造本作家たちへの暖かいご支援を心よりお願いする次第です。

◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
 ・大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
 ・新連載frgmの皆さんによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
 ・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は毎月5日の更新です。
 ・笹沼俊樹のエッセイ「現代美術コレクターの独り言」は毎月8日の更新です。
 ・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は毎月11日の更新です。
 ・土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」は毎月13日の更新です。
 ・野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
 ・故・木村利三郎のエッセイ、70年代NYのアートシーンを活写した「ニューヨーク便り」は毎月17日に再録掲載します。
 ・井桁裕子のエッセイ「私の人形制作」は毎月20日の更新です。
 ・故・難波田龍起のエッセイ「絵画への道」は毎月23日に再録掲載します。
 ・小林美香のエッセイ「母さん目線の写真史」は毎月25日の更新です。
 ・「スタッフSの海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
 ・森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日に更新します。
 ・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
  同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」は終了しました。
  「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
 ・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」英文版とともに随時更新します。
 ・浜田宏司のエッセイ「展覧会ナナメ読み」は随時更新します。
 ・深野一朗のエッセイは随時更新します。
 ・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
 ・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイ他を随時更新します。
 ・故・針生一郎の「現代日本版画家群像」の再録掲載は終了しました。
 ・森下泰輔のエッセイ「私のAndy Warhol体験」は終了しました。
 ・ときの忘れものでは2014年からシリーズ企画「瀧口修造展」を開催し、関係する記事やテキストを「瀧口修造の世界」として紹介します。土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。

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