年の瀬を迎えると貧乏性の社長は資金繰りに苦労した頃のことを夢にまで見てうなされる(らしい)。
まだ新幹線が岡山までしか行っていない頃の話です。
その年の12月は25日を過ぎてもボーナスどころか給料も払えなかった。
スタッフたちになけなしの数万円づつを手渡し、「ちょっと稼いでくるから待ってろ」と言いおいてカルトンケースに版画をぎっしり詰め込んで助手のH君と広島に向かった。
財布には片道の旅費だけ、それも岡山からの特急料金に足りず、普通列車に乗り込むために岡山駅のホームを必死に駆けた。
広島のL画廊さんが年末恒例の現代版画センターの出張オークションを企画してくれ、地元のお客様を集めてくださった。夕方から始まったセリは岡鹿之助、池田満寿夫などが好評で、当時としては破格の100万円を超す落札結果だった。手数料をL画廊さんに支払っても残りで「年は越せる」(ほっ)。
予約した宿は当時一番安かった法華クラブで確か一泊朝食付で2,000円前後だった(チェックアウトしての後払い)。
しかし財布は空っぽ、それを知っているのは助手のH君だけである。
その夜、オークションの好成績に気をよくしたL画廊のご主人が広島の高級レストランに私たちを招待してくれ、瀬戸内海のアワビのステーキをご馳走してくれた。美味しかったですねえ。
ところが亭主の財布が空なのを知っているH君は、かわいそうに一口も食べられない。売上げは100万円あっても、お客からの集金は未だだし、それをホテル代を払う前に頂けるかどうかもわからない。繊細な神経のH君は無銭宿泊でたたき出されるとでも思ったらしい。当時はカードなんて存在しない。
翌朝9時過ぎ、亭主とH君は何食わぬ顔をしてL画廊に出発の挨拶に赴いた。昨夜のH君の蒼い顔に気付いたのかどうか、ご主人は開いたばかりの銀行に行って売上げ全額を用意し、現金で手渡してくれたのだった。
嬉しかったですねえ。
金に苦労したことは数々あれど、あのときの心細さと現金をいただいたときのこみ上げる嬉しさは今でも思い出す。

行商の次の行き先は村上水軍の根拠地、因島でした。
島の国民宿舎を会場に数人の会員が集まってくれて頒布会を開いてくださった。
売上げはたいしたことはなかったのですが、財布は広島で頂いた札束で膨らんでいる。
やっと安心したんでしょう、その夜のアルマイトの食器に盛られた粗末な食事を、H君、食うわ食うわ、よほど腹が減っていたんでしょうね。

広島のL画廊さんはもうありませんが、そのときの番頭さんが独立して「ギャラリーたむら」というとても素晴らしい画廊をやっています。
お付き合いはもう40年になりますが、来年2月には、北郷悟先生の彫刻展を予定しており、亭主もお手伝いしています。

あれから40年、相変わらずの貧乏画廊ではありますが、スタッフの皆に給料遅配することもなく、今年も何とか越せそうです。
それもこれもお客様のご贔屓があったればこそ、心より感謝する次第です。

さて昨日の画廊はまさに戦場のごときありさま。
先日のS氏コレクションを落札された方への発送作業で足の踏み場もない。
さらに16日から始まる「野口琢郎展」に備えて、強力助っ人浜田さんの指示で壁面を黒く塗り替える作業が入り、てんやわんやでした。
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京都の野口さんからはようやく新作群が到着しました。
出品リストもホームページにアップしました。
16日からの展示、どうぞご期待ください。
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◆ときの忘れものは2014年12月16日[火]―12月27日[土]「野口琢郎展」を開催します(*会期中無休)。
案内状600ときの忘れものでは、2012年の個展に続き、2回目となる作品展を開催します。新作を中心に、大作の〈Landscape〉など約12点をご覧いただきます。
家業である京都西陣の箔屋に代々伝わる伝統的な引箔制作の技法を用いながら、漆と箔を駆使した新たな美術表現に取り組む野口琢郎ですが、最近はソウル、シンガポールのアートフェアに参加し、またNHK海外向け放送で紹介されるなど、国際的な舞台での活躍が増えています。
様々な風景の断片をコラージュするように制作する〈Landscape〉シリーズや、花火をモチーフにしたシリーズ、海と空、夜明けや星空などの風景を題材に、希望の光を感じられる「美しさ」を作品に表現しています。