<1981年の初夏のことだった。日曜日の午後、私は小田急線成城学園前駅に立っていた。駅近くにある緑蔭小舎という画廊で開かれていた銅版画家の長谷川潔の展覧会が目当てである。私は大学に入学して上京したばかり、小田急線に乗るのも初めてだった。よく晴れた暑い日で、地図を片手に探し当てた画廊は、閑静な住宅街の中にある落ち着いた洋館だった。
中に入ると、初夏の爽やかな風が気持ちよく吹き抜けた。当時の私はその画廊で会った品のいい婦人が柳田國男の長男、柳田為正氏夫人の柳田冨美子さんであることも、その場所にかつて柳田國男が住んでいたことも知らなかった。あとになって「ああ、あの時の」と思い当たったのだが、文献以外によって柳田の面影に触れたのは興味深い体験だった。生涯をかけて日本の民俗について考え続けた柳田が、実生活においては洋館に住んでいたということが、私にとっては小さな衝撃だったのだ。>
(以下略)
*佐谷眞木人「成城の洋館」より
~~~~~~~~
*画廊亭主敬白
先日、中上光雄先生の葬儀の折、予約した飛行機が雪で欠航になり、慌てて新幹線で福井に向かいました。
車中で読む本を忘れたと社長が東京駅の本屋で雑誌を買ったのですが、ついでにレジに置いてあった講談社のPR誌『本』2月号をいただいて車内でページをくくると、「成城の洋館」というタイトルが目に飛び込んできました。
佐谷眞木人さん(恵泉女学園大学教授)の文章を読んで驚くとともに、30数年前の初夏の展覧会の記憶がまざまざと胸に蘇りました。
佐谷さんの記憶違いか誤記か、このときの「長谷川潔版画展」が緑蔭小舎で開かれたのは1983(昭和58)年6月18日~7月10日のことでした。
舎主の柳田冨美子さんに頼まれて亭主が企画をお手伝いし、展示作品は全て現代版画センターが提供しました。一点も売れず、でも柳田さんが「私、好きだから」といって数点をご自分のコレクションにと買いとってくださった。
柳田さんにはこの年にオープンしたGAギャラリーのオープニングで亭主が中上陽子さんを紹介し、数年後柳田さんも勝山の中上邸イソザキホールを訪ねたのでした。
1983年
東京・GAギャラリーにて
「磯崎新展」オープニング、
左から中上陽子、柳田冨美子、亭主
それから22年後、大番頭の尾立が入社直後のまだ右も左もわからない頃、柳田さんの本をつくることになり、数年かけて編集したのが柳田冨美子著『緑蔭小舎と作家たち』でした(2009年刊)。
柳田冨美子『緑蔭小舎と作家たち』
発行日:2009年11月3日
発行:ときの忘れもの
編集:尾立麗子・秋葉恵美・綿貫不二夫
デザイン:ディスハウス
26.3×19.0cm 159頁
*非売品、限定500部刊行
成城の町にひっそりと存在した画廊の歴史は思いのほか多くの反響があり(感想1、感想2)、柳田さんにも喜んでいただきました。
偶然目にした雑誌ですが、何か不思議な縁を感じたのでした。
●今日のお勧め作品は長谷川潔です。
長谷川潔
「水浴」
色鉛筆、紙
22.0x12.0cm
スタンプサインあり

長谷川潔
「窓からの眺め
(シャトー・ド・ヴェヌヴェルの窓)」
1941年 銅版
29.0x21.5cm
Ed.50 サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆福井県立美術館では2月8日まで『福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み―中上光雄・陽子コレクションによる―』が開催されています。ときの忘れものが編集を担当したカタログと、同展記念の特別頒布作品(オノサト・トシノブ、吉原英雄、靉嘔)のご案内はコチラをご覧ください。
◆1月24日~25日に開催した「現代美術と磯崎建築~北陸の冬を楽しむツアー」には各地から15名が参加されました。参加された皆さんの体験記をお読みください。
石原輝雄さんの体験記
浜田宏司さんの体験記
酒井実通男さんの体験記
◆福井県勝山の磯崎新設計「中上邸イソザキホール」については亭主の回想「台所なんか要りませんから」をお読みください。
中に入ると、初夏の爽やかな風が気持ちよく吹き抜けた。当時の私はその画廊で会った品のいい婦人が柳田國男の長男、柳田為正氏夫人の柳田冨美子さんであることも、その場所にかつて柳田國男が住んでいたことも知らなかった。あとになって「ああ、あの時の」と思い当たったのだが、文献以外によって柳田の面影に触れたのは興味深い体験だった。生涯をかけて日本の民俗について考え続けた柳田が、実生活においては洋館に住んでいたということが、私にとっては小さな衝撃だったのだ。>
(以下略)
*佐谷眞木人「成城の洋館」より
~~~~~~~~
*画廊亭主敬白
先日、中上光雄先生の葬儀の折、予約した飛行機が雪で欠航になり、慌てて新幹線で福井に向かいました。
車中で読む本を忘れたと社長が東京駅の本屋で雑誌を買ったのですが、ついでにレジに置いてあった講談社のPR誌『本』2月号をいただいて車内でページをくくると、「成城の洋館」というタイトルが目に飛び込んできました。
佐谷眞木人さん(恵泉女学園大学教授)の文章を読んで驚くとともに、30数年前の初夏の展覧会の記憶がまざまざと胸に蘇りました。
佐谷さんの記憶違いか誤記か、このときの「長谷川潔版画展」が緑蔭小舎で開かれたのは1983(昭和58)年6月18日~7月10日のことでした。
舎主の柳田冨美子さんに頼まれて亭主が企画をお手伝いし、展示作品は全て現代版画センターが提供しました。一点も売れず、でも柳田さんが「私、好きだから」といって数点をご自分のコレクションにと買いとってくださった。
柳田さんにはこの年にオープンしたGAギャラリーのオープニングで亭主が中上陽子さんを紹介し、数年後柳田さんも勝山の中上邸イソザキホールを訪ねたのでした。

東京・GAギャラリーにて
「磯崎新展」オープニング、
左から中上陽子、柳田冨美子、亭主
それから22年後、大番頭の尾立が入社直後のまだ右も左もわからない頃、柳田さんの本をつくることになり、数年かけて編集したのが柳田冨美子著『緑蔭小舎と作家たち』でした(2009年刊)。

発行日:2009年11月3日
発行:ときの忘れもの
編集:尾立麗子・秋葉恵美・綿貫不二夫
デザイン:ディスハウス
26.3×19.0cm 159頁
*非売品、限定500部刊行
成城の町にひっそりと存在した画廊の歴史は思いのほか多くの反響があり(感想1、感想2)、柳田さんにも喜んでいただきました。
偶然目にした雑誌ですが、何か不思議な縁を感じたのでした。
●今日のお勧め作品は長谷川潔です。

「水浴」
色鉛筆、紙
22.0x12.0cm
スタンプサインあり

長谷川潔
「窓からの眺め
(シャトー・ド・ヴェヌヴェルの窓)」
1941年 銅版
29.0x21.5cm
Ed.50 サインあり
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◆福井県立美術館では2月8日まで『福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み―中上光雄・陽子コレクションによる―』が開催されています。ときの忘れものが編集を担当したカタログと、同展記念の特別頒布作品(オノサト・トシノブ、吉原英雄、靉嘔)のご案内はコチラをご覧ください。
◆1月24日~25日に開催した「現代美術と磯崎建築~北陸の冬を楽しむツアー」には各地から15名が参加されました。参加された皆さんの体験記をお読みください。
石原輝雄さんの体験記
浜田宏司さんの体験記
酒井実通男さんの体験記
◆福井県勝山の磯崎新設計「中上邸イソザキホール」については亭主の回想「台所なんか要りませんから」をお読みください。
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