<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第26回

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象が大きいことはよく知っている。しかし、これほど巨大に見えたことは、かつてあっただろうか。ホンモノを目の前にしたときよりもはるかに大きく、畏怖の念を抱かせるほどだ。
動物園で見ればあの巨体ぶりは微笑ましく、愉快な気持ちにすらさせる。だが、この写真を見て微笑む人はいないだろう。大きさが重量感に結びつき、恐怖をかきたてる。短いあの脚に全体重を乗せて踏みつけられるさまを想像し、身震いする。
その理由のひとつは、象のすぐ上に並んでいる豆電球の列だと思われる。お尻のところで縦に下り、体を半ば囲っている。この光のラインが狭いところに無理矢理押し込まれているような気持ちにさせる。体格の大きな子が小学校の小さな椅子に恐縮して座っているような雰囲気がにじみでている。
カメラが水平ではなく左に傾いていることも重要だ。計算してそうなったのではなく、とっさに斜めに構えた感じがするが、その傾斜が象の体を前のめりにし、重量感を強調している。なんだかとても危なっかしく、ぎりぎりの感じがして怖い。
いや、ぎりぎり感を強調しているもっと大きな要素は床に置かれた円形の台だろう。足を二本載せるのが精一杯という狭さだ。そこに二本足で立って全身を支える。曲芸が成立するのはそのためだが、サーカスで見せられれば「お見事!」と拍手喝采するのに、この写真ではその気にならない。惨い仕打ちをしているように思えて不憫でたまらない。
それらすべてを象徴しているのは、象の背にかけられた房付きの巨大なケープである。たるんでドレープができている。だいたい凹凸のあるものに照明が当たるとおどろおどろしくなるが、このドレープも光と影が交錯してホラーな気配を発している。ずっしりと重そうで、重い体がさらに重たくなっているのも気になる。
宿命は「背負う」と表現されるが、この布は象にとってまさに宿命そのものではないか。要らないものを背中に載せられ、意味不明な動作をさせられている。これを宿命と呼ばずになんと言おう。
はじめは気づかなかったが、象の鼻の横には人影が潜んでいる。棒のようなもので象の足の動きを調教しているようだ。手先以外は黒いシルエットになり、耳と首筋の一部だけが見えている。
この人影を見いだしたとたんに、象の話につづきが生まれた。調教師の首に当たる一条の光が彼の急所をさらしている。象は寡黙にただ耐えているだけではない。いつか巨体に秘められたエネルギーが爆発するときがくるだろう。その直感にびくっとする。
大竹昭子(おおたけあきこ)
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●紹介作品データ:
猪瀬光
「DOGRA MAGRA」
1986年撮影(2015年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:39.1x24.34cm
シートサイズ:50.8x40.6cm
Ed.8
サインあり
■猪瀬光 Kou INOSE(1960-)
1960年埼玉県生まれ。大阪芸術大学在学中に井上青龍に写真を学び、そのキャリアをスタートさせる。多くの熱烈なファンを持つ猪瀬だが、一枚一枚のプリントに究極のこだわりを見せるが故に発表の機会は少ない。1枚のプリントを仕上げるのに1ヶ月を費やし、極限にまで集中し焼き上げられた写真には、驚くべき密度と強度が存在する。1993年に東川町国際写真フェスティバル新人作家賞。写真集にデジャ=ヴュ「第11号特集 猪瀬光」(1993)、『INOSE Kou VISIONS of JAPAN』(1998)。個展に2001年Space Kobo & Tomo『猪瀬光写真展』。グループ展に2004年水戸芸術館での『孤独な惑星 - lonely planet』。 現在、最も展覧会の開催が熱望されている作家のひとりである。
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●展覧会のお知らせ
銀座のAKIO NAGASAWAで猪瀬光写真展「THE COMPLETE WORKS」が開催されます。
会期:第1期/DOGRA MAGRA 2015年3月6日[金]~3月29日[日]
第2期/PHANTASMAGORIA 2015年4月1日[水]~4月19日[日]
会場:AKIO NAGASAWA
〒104-0061 東京都中央区銀座4-9-5 銀昭ビル6F
Tel. 03-6264-3670
時間:11:00~19:00
月・火休廊
※初日3月6日(金)19時よりオープニング・レセプションが開催されます。
一枚一枚のプリントに究極のこだわりを見せるが故に発表の機会が少ない猪瀬光。
極限にまで集中し焼き上げられたそのプリントには驚くべき密度と強度が充満しています。
本展では代表作『DOGRA MAGRA』、新作『PHANTASMAGORIA』と会期を二期に分け猪瀬光の全貌に迫ります。会期に併せ作品集『COMPLETE WORKS』(月曜社)、ポートフォリオ『DOGRA MAGRA』&『PHANTASMAGORIA』(AkioNagasawaPublishing)も刊行致します。(同展HPより転載)
●写真集刊行のご案内
『猪瀬光全作品』
2015年3月
月曜社 発行
260ページ
B5版上製(横長)、クロス装
収録作品140点
テキスト:猪瀬光
別刷テキスト:森山大道
価格:9,000円
●本日と明日は休廊です。
◆ジョサイア・コンドルの設計、国の名勝に指定されている旧古河庭園・大谷美術館で開催されている「石山修武銅版画展 窓の内、窓の外」は本日が最終日です。
石山修武
5. 《GAYAの記憶 3》
2014年 銅版
15.0x15.0cm
シートサイズ28.0x25.3cm
Ed.7 Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

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象が大きいことはよく知っている。しかし、これほど巨大に見えたことは、かつてあっただろうか。ホンモノを目の前にしたときよりもはるかに大きく、畏怖の念を抱かせるほどだ。
動物園で見ればあの巨体ぶりは微笑ましく、愉快な気持ちにすらさせる。だが、この写真を見て微笑む人はいないだろう。大きさが重量感に結びつき、恐怖をかきたてる。短いあの脚に全体重を乗せて踏みつけられるさまを想像し、身震いする。
その理由のひとつは、象のすぐ上に並んでいる豆電球の列だと思われる。お尻のところで縦に下り、体を半ば囲っている。この光のラインが狭いところに無理矢理押し込まれているような気持ちにさせる。体格の大きな子が小学校の小さな椅子に恐縮して座っているような雰囲気がにじみでている。
カメラが水平ではなく左に傾いていることも重要だ。計算してそうなったのではなく、とっさに斜めに構えた感じがするが、その傾斜が象の体を前のめりにし、重量感を強調している。なんだかとても危なっかしく、ぎりぎりの感じがして怖い。
いや、ぎりぎり感を強調しているもっと大きな要素は床に置かれた円形の台だろう。足を二本載せるのが精一杯という狭さだ。そこに二本足で立って全身を支える。曲芸が成立するのはそのためだが、サーカスで見せられれば「お見事!」と拍手喝采するのに、この写真ではその気にならない。惨い仕打ちをしているように思えて不憫でたまらない。
それらすべてを象徴しているのは、象の背にかけられた房付きの巨大なケープである。たるんでドレープができている。だいたい凹凸のあるものに照明が当たるとおどろおどろしくなるが、このドレープも光と影が交錯してホラーな気配を発している。ずっしりと重そうで、重い体がさらに重たくなっているのも気になる。
宿命は「背負う」と表現されるが、この布は象にとってまさに宿命そのものではないか。要らないものを背中に載せられ、意味不明な動作をさせられている。これを宿命と呼ばずになんと言おう。
はじめは気づかなかったが、象の鼻の横には人影が潜んでいる。棒のようなもので象の足の動きを調教しているようだ。手先以外は黒いシルエットになり、耳と首筋の一部だけが見えている。
この人影を見いだしたとたんに、象の話につづきが生まれた。調教師の首に当たる一条の光が彼の急所をさらしている。象は寡黙にただ耐えているだけではない。いつか巨体に秘められたエネルギーが爆発するときがくるだろう。その直感にびくっとする。
大竹昭子(おおたけあきこ)
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●紹介作品データ:
猪瀬光
「DOGRA MAGRA」
1986年撮影(2015年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:39.1x24.34cm
シートサイズ:50.8x40.6cm
Ed.8
サインあり
■猪瀬光 Kou INOSE(1960-)
1960年埼玉県生まれ。大阪芸術大学在学中に井上青龍に写真を学び、そのキャリアをスタートさせる。多くの熱烈なファンを持つ猪瀬だが、一枚一枚のプリントに究極のこだわりを見せるが故に発表の機会は少ない。1枚のプリントを仕上げるのに1ヶ月を費やし、極限にまで集中し焼き上げられた写真には、驚くべき密度と強度が存在する。1993年に東川町国際写真フェスティバル新人作家賞。写真集にデジャ=ヴュ「第11号特集 猪瀬光」(1993)、『INOSE Kou VISIONS of JAPAN』(1998)。個展に2001年Space Kobo & Tomo『猪瀬光写真展』。グループ展に2004年水戸芸術館での『孤独な惑星 - lonely planet』。 現在、最も展覧会の開催が熱望されている作家のひとりである。
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●展覧会のお知らせ
銀座のAKIO NAGASAWAで猪瀬光写真展「THE COMPLETE WORKS」が開催されます。
会期:第1期/DOGRA MAGRA 2015年3月6日[金]~3月29日[日]
第2期/PHANTASMAGORIA 2015年4月1日[水]~4月19日[日]
会場:AKIO NAGASAWA
〒104-0061 東京都中央区銀座4-9-5 銀昭ビル6F
Tel. 03-6264-3670
時間:11:00~19:00
月・火休廊
※初日3月6日(金)19時よりオープニング・レセプションが開催されます。
一枚一枚のプリントに究極のこだわりを見せるが故に発表の機会が少ない猪瀬光。
極限にまで集中し焼き上げられたそのプリントには驚くべき密度と強度が充満しています。
本展では代表作『DOGRA MAGRA』、新作『PHANTASMAGORIA』と会期を二期に分け猪瀬光の全貌に迫ります。会期に併せ作品集『COMPLETE WORKS』(月曜社)、ポートフォリオ『DOGRA MAGRA』&『PHANTASMAGORIA』(AkioNagasawaPublishing)も刊行致します。(同展HPより転載)
●写真集刊行のご案内
『猪瀬光全作品』
2015年3月
月曜社 発行
260ページ
B5版上製(横長)、クロス装
収録作品140点
テキスト:猪瀬光
別刷テキスト:森山大道
価格:9,000円
●本日と明日は休廊です。
◆ジョサイア・コンドルの設計、国の名勝に指定されている旧古河庭園・大谷美術館で開催されている「石山修武銅版画展 窓の内、窓の外」は本日が最終日です。

5. 《GAYAの記憶 3》
2014年 銅版
15.0x15.0cm
シートサイズ28.0x25.3cm
Ed.7 Signed
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