私の人形制作第70回 井桁裕子
Reality of a doll and a sculpture -Visiting Ichimatsu doll studio-


それが「人形」であるということ・1

先日、ご縁あって市松人形の人形師さんの工房にお邪魔させて戴きました。
市松人形は頭、上半身、手足が桐塑でできていて、表面は膠で練った胡粉で仕上げられています。
腰から下や二の腕は布で作られています。
私がお会いした方は頭を作られていて人形師としてお名前の出る立場ですが、手足など他の部分は別の職人さんたちが作って納品に来られるとのことでした。

やはり古くから産業としてあるものなので、一つずつのパーツは時間をかけず量産ができるように工夫されています。

素朴にそっけないくらいに作られた体、だからこそと言うべきか、綺麗な着物を着せられてきちんとしている様子に不思議な存在感が漂うのでした。

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省略した形なのに生命観があるのが人形らしさなのだという気がしますが、かつて見世物興行などで流行した精密な描写で肉体の表現に迫る「生き人形」も人形と呼ばれるものです。
リアルな人形と彫刻とはどう違うのか、という疑問を含んだ感想が聞かれます。
彫刻と明確に違うのは、人形については、それが人と実際に触れ合ったり、かなり感情的に密着してくるものだということです。
よく「人形は恐い」と言う人がいますが、彫刻に対して恐いと感じる人はいません。
市松さんの本物の髪をつけたその頭をなでながら、恐さと魅力は紙一重の差だと感じます。
蝋人形などは、私はあまり好みではないけれど、あれも彫刻のように昇華されてしまわないところに訴えてくる何かがあります。
リアリティを感じさせることと「リアルである」ことが、違うものだということを思います。
何かを再現するために現実にこだわってリアルを追いかけると、それは違うものになって行くのです。

以前、リアルさを追及しようとすると出会う「不気味の谷」について書きましたが、それはロボット工学の最先端で生まれた認識でした。

リアルな表現が、リアリティではなくむしろ違和感へと向かう。
彫刻はどうなのでしょうか。
日本女子大に高村光太郎が制作した胸像があります。
同大学で教えていらっしゃる藤木直美先生から、この日本女子大の創立者・成瀬仁蔵校長の肖像について興味深い話をお聞きし、資料を貸していただきました。
(次号へ続く。)



先月もお知らせいたしましたが、来る5月1日はいよいよ「狂童女の戀」です。
人形・ユトロちゃんは衣装も新しくなり、映画からライブの舞台へということで、大変楽しみです。
私はこれまで、あまり「人形作家」とは自称できずにいました。
なんだか変にこだわったことばかりやっていて、職業的な意味の感じられる「作家」などと名乗れない気がしていたのです。
しかし、よく判らないながらも人形ということでやってきて本当に良かったとつくづく思います。

15日に初めて全員揃っての通し稽古となりました。
淡野弓子さんの歌と武久源造さんのピアノ演奏をこのように身近な場所から聴けるのは貴重なことです。そして坂本長利さんの魅力的な語りをゆっくり間近で聞き、実に嬉しく思いました。
そして黒谷都さんの、あのもみじのような可愛らしい手がどういう凄い魔法を使っているのか、私はいまだに夢を見ているようにしか思えません。
たった一日の公演ですが、ご都合がよろしければどうぞお越し下さい。

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こちらで公演についてのご紹介があります。
*ムジカポエティカ
http://www.musicapoetica.jp
*大野幸空間研究所・ウェブサイト
http://kooono.com/サイト/days/エントリー/2015/3/20_狂童女の戀.html

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「狂童女の戀」<人形・歌・朗読の夕べ> ユトロとともに 

チケット:一般(自由席)4000円/学生(自由席)2500円
会場:三鷹市芸術文化センター「星のホール」にて/開場18:30、開演19:00~

ご予約:
菊田音楽事務所 T&F 042-394-0543
ムジカポエティカ yumiko@musicapoetica.jp

<三鷹市芸術文化センター>
〒181-0012 東京都三鷹市上連雀6-12-14
Phone: 0422-47-5122 (チケットカウンター)
Phone: 0422-47-9100(施設受付・事務局)
JR三鷹駅南口4・5番バスのりばから3つ目「八幡前・芸術文化センター」下車すぐ。
または6・7番のりばから「八幡前」下車1分。または徒歩約15分(三鷹駅より1.2km)。
http://mitaka.jpn.org/access.php

(いげたひろこ)