亭主は閉所恐怖症である。
加えて重度の高所恐怖症である。はしごなんて2mも登ったらくらくらする。
さらに地下恐怖症ときている。
飲み屋やレストランに入るときも地下というだけで敬遠してしまう。
高層ビルのレストランなんて考えただけでも足が震えて、おちおち料理も楽しめない。
そのおかげでずいぶん損をしている(に違いない)。
そういえば少年時代は一人で映画館に入るのが(閉じ込められるのが)怖かった。

なぜそんなことを書いたかというと、過日神奈川県立近代美術館の水沢勉さんがfacebook
で、大阪の国立国際美術館の展覧会に触れたコメントを見つけ、とても嬉しかったからです。

高層と地下は美術品を鑑賞する場所ではないという頑迷な「主義者」のぼくは、(いざというとき人間も作品とともに生きながらえることができるというのも美術館の重要なミッションではなかろうか)、この美術館に入るとすぐに出ること(「逃げる」こと)を頭のどこかで考えてしまう。
(水沢勉さんのfacebookより)

取り上げたフィオーナ・タンの個展「まなざしの詩学 Terminology」の展示が素晴らしく、「逃げる」どころか半日以上も恐怖の地下にいたという絶賛の評だったのですが、それはともかく、東京の森美術館や大阪の国立国際美術館はいい展覧会をしてくれるのですが、行くといつも地震(の揺れ)や洪水(で水没する)を想像してしまって居心地がよくありません。

そんなわけで、私たちの場所(画廊、事務所、住居)はいつも地べたに近い。
この青山3丁目の場所も引っ越してきてもう20数年になりますが、とても気に入っていて追い出されない限り動くつもりはありません。

しかし大家さんがいいといっても問題は亭主の歳で、いつまで現役で「画商」を続けられるか。
実は本日、亭主は70歳を迎えました
学生時代やサラリーマンの同期の連中はほとんどが完全リタイアしていて優雅な年金生活だというのに、亭主は毎朝社長と仲良く出勤し、日々資金繰りに頭を悩ませ、さて今月はどなたにあの作品を売りつけようかと思案しています。

幸い、番頭の尾立以下、若いスタッフたちの成長は目覚しく、今では通常業務のほとんどを「丸投げ」しています。
このブログも亭主の書いた日のアクセスは激減し(今日も少ないだろうなあ)、スタッフSのブログはいまや人気上位です。
昔は、亭主の自慢は「記憶力」「電卓」「実務処理」だったのですが、いまや見る影も無い。何をしても若い人のスピードと正確さに敵わないと気付いた(しぶしぶ認めた)のはメール発信でのミスの頻発からでした。
中でもある作家宛のメール(それも画料支払いに関する重要な文面)を一字違いの顧客に送ってしまったときは青くなりました。
こりゃあいかん、スタッフに任せてこちらはチェックだけにした方がいい、と潔く見切りをつけました。
おかげさまでミスは減りましたが、スタッフたちの仕事量は激増し、いつ反乱が起きるかと不安で夜も眠れない(というのは嘘で亭主の取り柄はいつでもどこでも熟睡できることです)。
今年88歳になられたN先生につい手紙で愚痴ったら、
「50,60花なら蕾
70,80働きざかり
90になって迎えが来たら
100まで待て と追い返せ」
とお返事をいただきました。
実務を手放してみると、「考える時間」が増え、あれもしたいこれも面白いんじゃあないかと取らぬ狸の妄想が膨らみ、あと3年ほどは予定が組めそうです。
妄想は豊かなのですが、耳が遠くなり、お客様の言うことを聞き取れないことがしばしばとなり、ご迷惑をおかけしています。
盟友の石田了一さんからは「補聴器をつけなさい」と厳命されました。
そんな情けない亭主ではありますが、引き続きご愛顧のほどお願い申し上げます。

●HPトップページの下段の「作品紹介」は月に一度、更新しています。毎回技法やテーマ、ジャンルを決めて紹介しているのですが、今月のラインナップはちょっと別の工夫をしました。お気づきになりましたか。

●本日のお勧めは舟越桂のちょっと珍しい版画作品です
『舟越桂全版画1987-2002』(2003年、青幻舎)の36頁、37頁に掲載されている作品の試刷りです。
北からの音 ステート1_舟越桂
「北からの音 ステート1」
1990年
ソープグランド/アクアチント
44.5x35.5cm
Ed.TPB(試刷り)
サインあり


北からの音 ステート1_2_舟越桂
「北からの音 ステート2」
1990年
ソープグランド/アクアチント
44.5x35.5cm
Ed.TPB(試刷り)
サインあり


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