木坂宏次朗-AT THE STILL POINT@ときの忘れもの(2015/07/10)

林光一郎


今日の夕方はときの忘れものにお邪魔した。現在開催中なのは木坂宏次朗氏の個展。案内のハガキにあった、夜の海の水平線を描いたような深い色の作品に妻ともども惹かれ、スケジュールを合わせて一緒に出掛けることにした。

ギャラリーで実際に作品を見てみるとハガキで見たものとはかなり印象が違う。作品の表面にはベニヤ板のような凸凹が見え、その凸凹の線ごとに少しずつ色が違う。近づいてみるとその細密なテクスチャに目が行くが、少し離れてみるとまるで点描のように個々の線の印象が消え、ただ暗い海と空が仄かに光る様子が広がる。

今日は作家さんが在廊でいろいろお話を伺うことができた。この作品はテンペラで描かれたそう。テンペラと言うと細密画や古典画というイメージがあったのでどうしてこういう抽象画でテンペラを、と伺うと、自分の思う色のイメージがテンペラでしか出せなかったから、とのこと。作品は石膏を何層も塗り重ねてつるつるに磨いた後、面相筆でテンペラを何度も塗り重ねるという方法で作成したもの。木目のように見えたものは筆のタッチだったのだ。何年と言う膨大な時間をかけて少しずつ塗り重ねていき、「これは違う」というところは石膏面まで削って塗り直し。なので作品の前に立つとその製作にかけた時間や思いがよみがえってきて苦しくなるんですよ、というお話にちょっと言葉を失った。命を削って作品を作るというのはこういうことか。

この絵のイメージは煉獄で、他人が祈ってくれることでそこから抜け出て天国に行けるのを待つ場所、ということを何度も考え、灼熱地獄ではなくこのようなイメージになったのだとか。

久しぶりに芸術の凄味を感じることができた時間。作者と話しながら作品を見るのってやっぱりいいな。

はやしこういちろう
*Luv Pop TYO (Pop U NYC跡地 )より転載

1_ReprosKojiro01_MG_7413_WRK_FIN_M
1. 木坂宏次朗 Kojiro KISAKA
Still Point
2010
卵テンペラ/木パネル、綿布、石膏
Egg tempera / wood panel, cotton, gypsum
48.0×110.0cm
Signed

2_ReprosKojiro04_MG_7433_WRK_FIN_M
2. 木坂宏次朗 Kojiro KISAKA
Purgatory
卵テンペラ/木パネル、綿布、石膏
Egg tempera / wood panel, cotton, gypsum
41.0×75.0cm
2013
Signed

3_ReprosKojiro08_MG_7446_WRK_GapWhite_FIN_M
3. 木坂宏次朗 Kojiro KISAKA
Still Point ― 4 Segments
卵テンペラ/木パネル、綿布、石膏
Egg tempera / wood panel, cotton, gypsum
94.0×232.0cm(1枚94.0×58.0cm×4枚)
2009  Signed

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*画廊亭主敬白
林さんは私どもの画廊の直ぐ近くにお住まいなので、展覧会のたびに奥様と仲良くいらっしゃる。
亭主が好もしいと思うのは、
一に、奥様と必ずお二人で展覧会や音楽を楽しまれていること、
二つに、作家がいれば作家に、いないときは不肖この亭主に作品について質問し、それを(私たちの展覧会だけでなく)ちゃんとブログにご自分の言葉で感想を書いていること。
できるようでなかなかできません。
私たちが尊敬するコレクター、例えば笹沼俊樹さんが繰り返し強調している「常にいいものをきちんと見ること」「なぜいいか、なぜ感動したかを論理的に考え、自分の言葉でまとめること」を自然に(楽しげに)実践している素敵なカップルです。