森本悟郎のエッセイ その後・第16回

東松照明(1930~2012) (1)作家、名古屋に帰る


東松さんは名古屋出身でありながら、名古屋で作品に接する機会の少ないことがぼくにはずっと気になっていた。C・スクエア開設前にはそれでも数回個展が行われている(1981年から93年までに4回)。しかし開設後の1994年以後、「インターフェイス」「キャラクターP」「さくら」ほか刺激的な展覧会が各地で展開される一方、名古屋の美術館もギャラリーもわれ関せずといった感じだった。そこで全く私的な願望、「この作家の個展を名古屋で観たい」というところから企画を立ちあげた(もっともこれは東松展に限らず、多くのC・スクエアでの展覧会に当てはまる動機ではあるが)。

東松照明(撮影:瀬戸正人)東松照明(撮影:瀬戸正人)


まず手紙で展覧会を開催したいという希望を伝え、次いで1999年9月7日、C・スクエア運営委員の写真家・高梨豊さんと千葉県長生郡一宮町に作家を訪ね、改めて出展を要請した。東松さんは快諾され、ひさびさの名古屋での展覧会が楽しみとのことに安堵した。
ぼくが訪問したころ東松さんは千葉と長崎を往き来していたが、それは居を完全に長崎へ移す直前だった。そして東松さんが長崎を拠点と定めたことによって、長崎に関わる新・近作でまとめようと、展覧会の方針も決まった。
出品作品を決めるため、そのときも高梨さんと一緒に長崎の東松さんを訪ねた。自宅マンションから15分ほど歩いた先の、ビルのワンフロアが仕事場だった。何室あるのか判らないが、応接室、キッチン、パソコンの並ぶスタジオ、作品保管室、ビューイングルーム、そしてたぶん暗室も、といった具合。ビューイングルームには事前にお願いしてあった長崎の新・近作写真が大量に用意されていた。「2人で好きなように選んで」といって作家は仕事場へ消えた。ぼくは高梨さんと長時間かけて何百枚かのすべてを点検し、89点を選んだ(東松さんによれば、うち49点が未発表)。作品のテーマごとによるまとまり、壁面の形状と長さを考慮して選んだ数である。東松さんはぼくたちの選んだ作品を前に、「八月の光」という美しい展覧会名をつけた。

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C・スクエア第45回企画「東松照明展 八月の光」は2001年6月18日から7月14日までの会期で開催。展覧会リーフレットには詩人の吉増剛造さんが「東松照明の光源─────」と題したステキな文章(詩)を寄せて下さった。初日のオープニングには東松さんの母校、愛知大学の同窓生が大挙して詰めかけ、中京大学の一隅はさながら愛知大学同窓会の様相を呈していた。

そののち名古屋では、C・スクエアでの個展から5年後の2006年に愛知県美術館で「愛知曼陀羅―東松照明の原風景」展が、10年後の2011年に名古屋市美術館で「写真家・東松照明 全仕事」展が開催された。後者が開催されたとき、作家は入院加療中だった。
もりもと ごろう

森本悟郎 Goro MORIMOTO
1948年愛知県に生まれる。1971年武蔵野美術大学造形学部美術学科卒業。1972年同専攻科修了。小学校から大学までの教職を経て、1994年から2014年3月末日まで中京大学アートギャラリーキュレーター。展評、作品解説、作家論など多数。

●今日のお勧め作品は、秋葉シスイです。
20150728_akiba_18_next10秋葉シスイ
「次の嵐を用意している」(10)
2014年
カンバスに油彩
91.0×73.0cm(F30号)
サインあり


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