「読書生活、若干の感傷」
ルリユールを生業としている者の多くは、好きな作家とそれに対する一家言を持っているのではないかと思う。昨今は、ただ本というモノ作りが好きで始めるという若い人も増えているので、時に好きな作家を熱く語る若い女性などに出くわすとそれだけで感動し、互いの好みは違っていても、思いがけず同志に出会った時のようにこちらの言葉にも熱が入る。
前置きが長くなってしまったが、今回はルリユール自体から少し離れての話。ジム・ジャームシュの初期の映画で「パーマネント・バケーション」という作品がある。ニューヨーク大学の卒業制作で、かつ商業映画としても上映されたという。未見だったこの映画を今年初頭に観たところ、主人公の少年・少女の愛読書がロートレアモンの「マルドロールの歌」。少年が朗読する一節が美しく、というのではないが、心の琴線に触れる。遥かに遠くなってしまった私の十代、音楽の趣味で知り合った、学校以外の少し年長の友人が少なからずおり、彼等の当時「絶対持つべき本」がこの「マルドロールの歌」だった。それから四十年ほどの月日が経ち、断片的にしか読んでいなかったこの本を、通して読んでみようと思ったのは何の迷いなのか。
”LES CHANTS DE MALDOROR”
COMTE DE LAUTREAMONT (ISIDORE DUCASSE)
EDITIONS APOLLO ファクシミリ版 1984年
読み始めて、果たして読了できるか不安になったのもつかの間、意外なくらいにのめり込んで読んでしまった。十代の青少年が持つ将来に対してのおぼろげな不安、自分の心身を持てあまし、身の置き場所を探し求める年頃の、言葉で表現することが出来る者ならば当然行くべき方向として、今になるとこの「悪の世界」が理解出来るのだ。若い身に起こる、どう整理して良いか判らないもやもやとした気持ちを、言葉にして吐きだしていく。それは独りよがりであり、稚拙な表現の数々ではあるが、その時点で表現者の救いになったのだということが、今では感じられる。
同上
「第四の歌」ルネ・マグリット挿画より
同じ象徴主義の、また同じ若い詩人というなら、ランボーが当然挙げられるだろう。勿論のことロートレアモンは、ランボーの天才に比ぶべくもない。しかし、出生証明書と死亡証明書、若干の書簡、写真もわずかに一枚残すのみで、24歳で逝った若い詩人-自死と推測されているが、それさえ定かでないという-が、その謎と相まって、私の心の片隅に存在し続けることは間違いない。
(文:平まどか)

●作品紹介~羽田野麻吏制作



『4CHANSONS 4CANCIONES』
RAFAEL ALBERTI
JOEL LEICK 挿画
ROULEAU LIBRE 1993年
限定18部のうち3番
・2006年制作
・総山羊革二重装 足付き平綴じ製本
・山羊革に豚革と染め紙のモザイク
・豚革・染め和紙の見返し
・タイトル箔押し:山崎曜、函タイトル箔押し:中村美奈子
・夫婦函
・320x153x16mm
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本
●今日のお勧め作品は、戸村茂樹です。
戸村茂樹
「自然 夏・13」
2013年
ドライポイント
イメージサイズ:14.5x9.7cm
シートサイズ:28.2x19.4cm
Ed.24
サインあり
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◆frgmの皆さんによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
ルリユールを生業としている者の多くは、好きな作家とそれに対する一家言を持っているのではないかと思う。昨今は、ただ本というモノ作りが好きで始めるという若い人も増えているので、時に好きな作家を熱く語る若い女性などに出くわすとそれだけで感動し、互いの好みは違っていても、思いがけず同志に出会った時のようにこちらの言葉にも熱が入る。
前置きが長くなってしまったが、今回はルリユール自体から少し離れての話。ジム・ジャームシュの初期の映画で「パーマネント・バケーション」という作品がある。ニューヨーク大学の卒業制作で、かつ商業映画としても上映されたという。未見だったこの映画を今年初頭に観たところ、主人公の少年・少女の愛読書がロートレアモンの「マルドロールの歌」。少年が朗読する一節が美しく、というのではないが、心の琴線に触れる。遥かに遠くなってしまった私の十代、音楽の趣味で知り合った、学校以外の少し年長の友人が少なからずおり、彼等の当時「絶対持つべき本」がこの「マルドロールの歌」だった。それから四十年ほどの月日が経ち、断片的にしか読んでいなかったこの本を、通して読んでみようと思ったのは何の迷いなのか。

COMTE DE LAUTREAMONT (ISIDORE DUCASSE)
EDITIONS APOLLO ファクシミリ版 1984年
読み始めて、果たして読了できるか不安になったのもつかの間、意外なくらいにのめり込んで読んでしまった。十代の青少年が持つ将来に対してのおぼろげな不安、自分の心身を持てあまし、身の置き場所を探し求める年頃の、言葉で表現することが出来る者ならば当然行くべき方向として、今になるとこの「悪の世界」が理解出来るのだ。若い身に起こる、どう整理して良いか判らないもやもやとした気持ちを、言葉にして吐きだしていく。それは独りよがりであり、稚拙な表現の数々ではあるが、その時点で表現者の救いになったのだということが、今では感じられる。

「第四の歌」ルネ・マグリット挿画より
同じ象徴主義の、また同じ若い詩人というなら、ランボーが当然挙げられるだろう。勿論のことロートレアモンは、ランボーの天才に比ぶべくもない。しかし、出生証明書と死亡証明書、若干の書簡、写真もわずかに一枚残すのみで、24歳で逝った若い詩人-自死と推測されているが、それさえ定かでないという-が、その謎と相まって、私の心の片隅に存在し続けることは間違いない。
(文:平まどか)

●作品紹介~羽田野麻吏制作



『4CHANSONS 4CANCIONES』
RAFAEL ALBERTI
JOEL LEICK 挿画
ROULEAU LIBRE 1993年
限定18部のうち3番
・2006年制作
・総山羊革二重装 足付き平綴じ製本
・山羊革に豚革と染め紙のモザイク
・豚革・染め和紙の見返し
・タイトル箔押し:山崎曜、函タイトル箔押し:中村美奈子
・夫婦函
・320x153x16mm
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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称

(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態





●今日のお勧め作品は、戸村茂樹です。

「自然 夏・13」
2013年
ドライポイント
イメージサイズ:14.5x9.7cm
シートサイズ:28.2x19.4cm
Ed.24
サインあり
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◆frgmの皆さんによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
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