新連載と企画展のお知らせ
「アートブックラウンジ Vol.01“版画挿入本の世界”」


《綿貫さん
いつもお世話になっております。
原稿依頼のメール拝見しました。
長文ブログを書くのが苦手な私に、ときの忘れものブログの連載メンバーに加われとの事。
身に余る光栄ではありますが、わたしの拙筆な文章を「エッセイ」なる読み物として、ときの忘れもの豪華執筆陣と肩を並べてリリースするのは気が引けるので、ご依頼の件遠慮させていただこうかと……。
ただ、せっかくの機会ですので、ディレクターとして担当させていただいた展示構成や今後の展示の参考になりそうな情報を定期的にレポートさせていただきますので、こちらは新人スタッフの研修資料として情報共有していただくと共に、ブログに掲載していただいても構いません、どうぞご活用ください。(2012年02月16日 浜田宏司の展覧会ナナメ読み No.1「ジョナス・メカス写真展」から抜粋)》

上記の文章は、ときの忘れもの“ギャラリーブログ”の豪華執筆陣に紛れて2012年にスタートした「浜田宏司の展覧会ナナメ読み」という不定期連載の初回の書き出しから引用した文章です。偶然にも連載が始まったのが四年前の二月の中旬と、この新しい連載の掲載時期と重なるので、ブログを管理するギャラリーとしては、筆の進まない筆者に向けて、心機一転/新装開店と新たな場所を提供したという趣向でしょうか。
不定期ブログのスタートから、もう四年。まだ四年。感覚的には後者の方ですが、改めて取り上げた題材を読み返すと、「えっ、この展覧会2011年の東日本大震災の前じゃなかったっけ?」とだいぶ前に関わったと思い込んでいた企画展が、実はわずか4年前に開催されていたという現実と記憶との距離に違和感を感じたりしています。
この四年間で個人的に変わったことといえば、自身で運営するギャラリースペース“Gallery CAUTION”が神宮前から日本橋/大伝馬町に移動した事くらいで、日々の展示や海外でのプロジェクトのペースは多くもなく少なくもなく、特段変化はないように思います。そんな、変化のない日々を送っていた昨年末、日本橋のギャラリーにときの忘れもの亭主がふらりと来廊され、「来年から、うちの画廊で定期的に古書店企画を開催する。ついては、新たにアートブックに特化したブログを連載しなさい。」との指令が下りました。いや、誤解のないようフォローしておきますが、執筆を依頼頂いた時の口調や話の切り出しは、「指令」的なものではなく、もちろんもっとソフトなものでした。ただ、長年のお付き合いさせていただいた経験の中から、本能的に『「お受けしたらタイヘンナコトニナルかもしれない」とはいえ「お断りすると別の意味でタイヘンナコトニナルと思う」』と、危険信号を察知したのですが、どちらを選んでも「タイヘンナコトニナル」のであれば、ポジティブに大変になる結果を選んだ方が正解かと思い連載をお受けした次第です(「タイヘンナコト」に関してはご想像にお任せします)。 当初は月一で、個人的にコレクションしているアーティストブックや美術書を紹介する連載の予定でしたが、約二週間後には、予想どおり思わぬ方向に話が膨らんで、12本のブログ連載の他にブログの内容と連動した企画展を年4回”お手伝い”させていただく事が決定しました。このブログはその第一回目の企画展を紹介する内容となっています。

さて、ブログ/企画展のタイトル「アートブックラウンジ」ですが、私が韓国のアートフェアの特別展として実施された企画タイトルです。
ご存知の通り大規模なアートフェアは、世界各国から画商が集結し、出展ギャラリーが推薦する美術作品を展示販売する見本市です。ただ、韓国や台湾、そして先日訪問したシンガポールなど、アジアのアートフェアを実際に足を運んで視察した限り、開催国から出展している画廊の展示作品の多くは、ローカル色が強く自分が理解している現代美術の文脈からは乖離しているように感じることが多々ありました(※ここでの感慨は、私個人が抱いた印象であり、全く別の価値観があることを前提としています)。 現地のギャラリースタッフに「なぜこの作品を出品しているのか?」と、作品の見どころや作品コンセプトを尋ねても、「インパクトがあるから」、「可愛いモチーフの作品で、自国では人気(よく売れている)の作家だから」など、ほとんどの場合抽象的な回答が返ってくるだけで、作品のコンセプトやアートヒストリーにおけるポジショニングなどロジカルな回答が帰ってくることは大手の画廊を除いてごく稀です。
「なぜ、アジアの新興国における現代美術市場には、作品を語る上でロジカルな言葉が存在しないのか?」
そもそも、東アジア圏において美術作品なるものに国際的な視点から市場価値が生まれアートマーケットなるものが誕生したのがここ十数年間の出来事です(アカデミックな視点を除く)。もちろん、それ以前からも韓国の李禹煥やナムジュンパイク、中国のアイウエイウエイ、蔡國強など、今では国際的なアートマーケットで評価されている作家もいますが、その多くは自国ではなく海外で活動し評価されてきた作家たちです。
「アートブックラウンジ」は、そんなローカル色の強いカオスティックなマーケットを読み解くためのツールとして企画された展覧会です。百年近い現代美術の歴史のタイムラインを引き、重要な作家や展覧会、作品を紹介する本の表紙のパネルをカテゴリーごとに展示し、実際にその書籍を手にとってアートに対する理解を深めるための入り口となることを目標としました。2010年に開催されたDAEGU ARTFAIRの特別展として開催され、その後釜山のギャラリーと、ART BUSAN2015の特別展として実施され高い評価を得ました。

1DAEGU ARTFAIR 2010の特別展


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AART BUSAN 2015にて


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そして、最初の話に戻って、綿貫さんからの「“本”をテーマにした展覧会を企画しなさい」という特命のもと、今年3月からときの忘れものを会場にして、新たな企画として実施する運びとなりました。
さて、企画を組み立てるにあたって、欧米の現代美術がリアルタイムで紹介されてきた日本のアートマーケットに対して以前実施したタイムラインの展示は釈迦に説法、必要ないかと思い、違う方向性とコンセプトの展覧会を提案させていただきました。今までのコアなアートファン以外に、まだアートをコレクションしたことのないコレクタービギナーやそれこそアートに関心のなかった領域にまで足を運んでいただくようなテーマ設定を心がけます。企画に関しては、従来通りのときの忘れものならではのカテゴリー(建築家の作品など)に加えて、今までにときの忘れものが扱っていないアート以外のジャンルをテーマにした選書と作品をご覧いただく予定です。単に美術作品を鑑賞するだけではなく、関連書籍を通じて作品に対する理解を深めることが可能な場を提供したいと考えています。

第一回目の企画は「アートブックラウンジ Vol.01“版画挿入本の世界”」と題した展覧会を開催します。
アンディ・ウォーホルジャスパー・ジョーンズ李禹煥文承根靉嘔大沢昌助ジョナス・メカス磯崎新サム・フランシス、フランチェスコ・クレメンテ、パウル・クレー、大竹伸朗、ほか合計20名以上の作家の版画作品が挿入された書籍をご展示販売いたします。
版画挿入本に関しては、ときの忘れものの前身でもある版元現代版画センターが日本においてはパイオニアでありこの画廊が誇るべきアイデンティティーでもあると考えています。展覧会を通じて画廊の歴史を俯瞰しつつ、初心者でも比較的手が届きやすい価格帯のエディション作品をコレクションする機会を提供します。どうぞ、ご期待ください。
浜田宏司(「アートブックラウンジ展キュレイター/Gallery CAUTIONディレクター)

「アートブックラウンジ Vol.01“版画挿入本の世界”」
会期:2016年3月9日[水]~3月17日[木] ※日・月・祝日は休廊

201603アートブックラウンジ_01
今回より日・月・祝日は休廊しますので、実質7日間の会期です。

●今日のお勧め作品は、磯崎新です。
20160220_isozaki_drawing2磯崎新
「ザ・パラディアム(NY)」
1995年
ペン、紙
Image size: 42.0x56.0cm
Sheet size: 46.0x72.1cm
サインあり


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●ときの忘れものは2016年3月より日曜、月曜、祝日は休廊します。
従来企画展開催中は無休で営業していましたが、今後は企画展を開催中でも、日曜、月曜、祝日は休廊します。