森本悟郎のエッセイ その後・第23回

赤瀬川原平(1930~2012)とライカ同盟(3) 三重視


1996年はC・スクエア以外でも、12月に東京新宿のコニカプラザ(現コニカミノルタプラザ)で「本朝ヨリガスミ之展」を開催した。この展覧会タイトルは秋山さんが頼霞(ライカ)を「よりがすみ」と誤読したことにちなみ、赤瀬川さんが命名した。
ライカ同盟展成功により、2年後の1998年にもC・スクエアで展覧会を開こうということになった。撮影地は、中京大学の併設校・松阪大学(2005年三重中京大学に改称、2013年閉学)がある三重県に決めた。
ひとくちに三重県といっても広大である。そこでぼくは1997年3月、3泊4日で単身三重県下をロケハンした。ライカ同盟による第1回撮影は同年4月16日から4泊5日で、コースは名古屋~津~松阪~新宮(泊)~熊野~尾鷲~紀伊長島~南島~伊勢(泊)~二見浦~伊勢~松阪(泊)~名張~上野~関~四日市(泊)~桑名~長島~名古屋というものだった。
津では三重県立美術館で展覧会打合せ、往路の松阪では松阪大学を表敬訪問した。新宮では赤瀬川さんのアドバイスで、近日点を過ぎたばかりのヘール・ボップ彗星(1997年の大彗星)を目撃。伊勢の二見浦ではライカ同盟公認の従軍カメラマン・二塚一徹(かずあき)さんにより、展覧会ポスター用撮影。この写真はのちに「某国工作員の上陸記念みたいだ」とも評されたが、傑作だと思う。
18日は梅村学園理事長や松阪大学学長らにより、松阪市内の有名牛肉料理店で晩餐。宴たけなわというところでぼくの携帯電話が鳴った。秋山さんのご母堂、千代さん危篤の報せだった(4日後、22日に逝去)。秋山総督はひとまず戦線離脱。残る2日間は高梨家元と赤瀬川宗匠2人での撮影行となった。
第2回撮影は残暑厳しい8月下旬に単身家元が出陣。この時は三島由紀夫の『潮騒』の舞台、神島に渡ってもいる。第3回撮影は秋深い10月下旬に赤瀬川・秋山両小屋元連れ立っての撮影。家元に倣って答志島に渡る。どこかに赤瀬川さんが書いていたが、四日市では怪しい鍋料理屋で肝を冷やす体験をした。この家元対小屋元組の別行動は、その後も時々行われる。
写真展「ライカ同盟 三重視」はまず三重県立美術館でお披露目し(1998年4月11日~5月17日)、初日にはドイツ文学者の種村季弘さんをゲストにトークイベントを開いた。C・スクエアでは6月13日~7月11日に開催し、トークイベントのゲストは赤瀬川さんの美学校時代の教え子、渡辺和博氏だった。
「ライカ同盟 三重視」とは、ライカ同盟「三」人の眼がどう「重」なって「三重」を「視」たのかということ、そしてデュマの「三銃士」に懸けて、トリプル・ミーニングとなっている。「種村さんに褒められたよね。写真はともかくとして、タイトルはいいって」(『日本写真年鑑2015』座談会「追悼 赤瀬川原平」での高梨発言)。これを機に、展覧会名にも力をこめるようになった。
1997年は三重だけでなく、『文藝春秋』の仕事で大分も撮影している。赤瀬川さんが受けた「最後の晩餐」という仕事に乗っかって、口絵の仕事をライカ同盟が頂いたのである。突然シャッターが動かなくなった家元のライカを大分のカメラドクターがみごとに修理したり、東別府駅では乗り損ねそうになった列車を待たせたり、軍資金係の赤瀬川さんが恐る恐る「ライカ同盟様」で領収書をもらったり、豊後高田で大歓待されたり、と想い出はつきない。

01「ライカ同盟 三重視」ポスター「ライカ同盟 三重視」展ポスター
三重県立美術館版、C・スクエア版ともに同じデザイン。
黒・銀・金の3色刷。
背景は二見浦の夫婦岩。
撮影:二塚一徹


02 会場風景(C・スクエア)会場風景(C・スクエア第1会場)


03 ポスターにサインする(三重県立美術館)ポスターにサインするライカ同盟員(三重県立美術館にて)


04 トークイベント(三重県立美術館)トークイベント(三重県立美術館講堂)
左から毛利伊知郎学芸課長(現・館長)、赤瀬川原平、高梨豊、秋山祐徳太子、種村季弘


もりもと ごろう

森本悟郎 Goro MORIMOTO
1948年愛知県に生まれる。1971年武蔵野美術大学造形学部美術学科卒業。1972年同専攻科修了。小学校から大学までの教職を経て、1994年から2014年3月末日まで中京大学アートギャラリーキュレーター。展評、作品解説、作家論など多数。

●今日のお勧め作品は、磯辺行久です。
20160128_isobe_04_relief磯辺行久
「ワッペン」
1962年
レリーフ、木
28.1x40.4x4.6cm
サインあり


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