
建築家の大野幸さんによるプロデュースで、出演は富田牧子さん(チェロ)と木田いずみさん(歌)。
この日のために富田さんが選ばれた作品を傍らに、素晴らしい時間をご提供いただきました。

以下はコンサート当日、運悪く本業の仕事が入ってしまった大野さんより寄せられたメッセージです。
「プロデューサー」という恥ずかしい肩書きを綿貫さんから拝命してしまった大野です。何かあった時には全て私の責任ということでございます。ですが、建築設計の仕事で止むを得ず出張することになりコンサート当日に「不在」という無責任なことになりました。わたしがその場に居ても居なくても、今日のこのコンサートの大成功は間違いないのですが、富田牧子さん、木田いずみさんの演奏を楽しむことが叶わず残念でなりません。今日は選ばれた数少ないお客様が、親密な距離で、贅沢な時間を存分に味わっていただけることと存じます。エジプトから御盛会をお祈り申し上げます。
このコンサートシリーズは、不定期ではありますが年に4回くらいのペースで継続して行く所存です。今後ともよろしくお願いいたします。
おおの こう@エジプト・カイロ

実際の演奏はバッハで始まりバッハで終わったコンサートですが、その間に挟まれた曲は1曲を除いて、いずれも20世紀に作曲されたものでした。
J.S.バッハ(1685-1750)
・無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 (ca.1720)より
プレリュード
アルマンド
クーラント
G.クルターク(1926-)
・信仰・・・(1998)
尾高惇忠(1944-)
・独奏チェロのための〈瞑想〉(1982)
O.ラッスス(1532-1594)
・まなこは見ず (1577) [歌+チェロ]
J.ケージ(1912-1992)
・4分33秒 (1952)
G.クルターク
・ジョン・ケージへのオマージュ~ためらいがちな言葉 (1987/ 91)
G.リゲティ(1923-2006)
・無伴奏チェロソナタより カプリッチョ (1953)
J.S.バッハ
・無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 より
サラバンド
メヌエット
ジーグ
今回富田さんには弦の材質の異なるチェロを2丁ご用意いただき、演奏前にその違いも説明していただきました。
音楽はサッパリなスタッフSですが、こうして違いを説明を聞いた上で耳を傾けていると、何やら違いが分かるような気分に…。

まぁ自分の音楽理解度は置いておくとして、今回のプログラムで異彩を放っていたのはやはりジョン・ケージの「4分33秒」でした。ときの忘れものでも"Fontana Mix"を取り扱っている作曲家の作品の中でも特に有名な一曲ですが、演奏者は聴衆を集める装置に過ぎず、集まった聴衆や周囲の環境が発する音を曲とみなすという発想はやはり感心させられました。今回のコンサートでは事前に富田さんが曲について説明したこともあり、来場者も17人と少人数だったので静かなものでしたが、例えばこれがもっと大がかりなホールで、来場者も演奏内容を知らなかったら、あちこちから騒めきが聞こえ、時には野次すら飛び交ったりするものか、などと想像して過ごすのも楽しい4分半でした。

楽譜の体こそとっていますが、中には何も記されていません。
最後に、演奏者である富田牧子さんがご自分のfacebookに掲載した文章をご紹介します。
今年は、長年温めていたアイデアを実現できるコンサートを計画しています。バッハと現代曲いろいろ織り交ぜた、リラックスしたコンサート。まさかソロで実現可能になるとは考えていませんでしたが。
ハンガリー出身で、3歳違いの友人であった二人のジェルジュ。
初めてリゲティの無伴奏ソナタを聴いて、いいな、と惹かれたのはハンガリー留学中でした。もう14、5年前になるのか・・・。リゲティのバースデーコンサートがブダペストのリスト音楽院の大ホールで行われました(でも2003年ではなかった気がするから、80歳になる前の記念コンサートだったのだろうか。覚えていません)。舞台上の作曲家は大きくてユーモアと温かみのある人でした。無伴奏ソナタはすぐ楽譜を購入したものの、弾いたのは日本に帰って数年経ってからでした。一楽章の歌うようなディアローゴは魅惑的でしたが、二楽章の無窮動ばりのカプリッチョでは指使いを考えるのが一苦労でした。
クルタークの音楽を初めて聴いたのもブダペストでした。パリからアンサンブルアンテルコンタンポラン(先日亡くなったピエール・ブーレーズが作った現代音楽を演奏するアンサンブル(室内オーケストラ))のメンバーが来て、クルタークの「遊び」などを次から次へと演奏してくれました。繊細で知的なアンサンブルに飢えていた私は、彼らの洗練されて自在で自然な響きに衝撃を受けました。帰国して、チェロ独奏曲を初めて弾いたのは6年前。弦楽四重奏でも弾きましたが、なかなか私自身が自由になれず、イメージに身体が追いつかず、作曲家に恐れを抱いて近づけない、そんな体験でした。
今、久しぶりに二人のジェルジュにお会いして(笑)、遊びのある音楽にとても親近感を抱いています。懐かしい気持ちです。
http://tomitamakiko.seesaa.net/category/21512595-1.html
(20160114 富田牧子さんのfacebookより)

ときの忘れものは、大野さんがコメントに書かれたように、今後も年に4回ほどの頻度でコンサートを予定しております。次回の告知を楽しみにしていただければ幸いです。
(しんざわ ゆう)

■富田牧子(チェロ奏者) Makiko TOMITA, Cellist
東京芸術大学在学中にリサイタルを行い、室内楽奏者として活動を始める。ソロだけでなく室内楽(特に弦楽四重奏)でヨーロッパ各地の音楽祭や講習会に参加。大学院修士課程修了後、ハンガリー・ブダペストに2年間留学、バルトーク弦楽四重奏団チェロ奏者ラースロー・メズー氏に師事。NHK-FM「名曲リサイタル」、ORF(オーストリア放送)の公開録音に出演。2003年以降、ソロリサイタルのほか、弦楽四重奏団メンバーとしての活動を経て、様々な楽器との組み合わせによる「充実した内容の音楽を間近で味わうコンサート」の企画・制作・演奏を続けている。バロックと現代両方の楽器にガット(羊腸)弦を用い、時代に合った奏法を学び直し、より深い音楽と楽器の理解を探求中。自然体の音楽と室内楽の楽しさを広める活動をライフワークとし、国内外で共感の輪が広がりつつある。
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■大野 幸(建築家) Ko OONO, Architect
本籍広島。1987年早稲田大学理工学部建築学科卒業。1989年同修士課程修了、同年「磯崎新アトリエ」に参加。「Arata Isozaki 1960/1990 Architecture(世界巡回展)」「エジプト文明史博物館展示計画」「有時庵」「奈義町現代美術館」「シェイク・サウド邸」などを担当。2001年「大野幸空間研究所」設立後、「テサロニキ・メガロン・コンサートホール」を磯崎新と協働。2012年「設計対話」設立メンバーとなり、中国を起点としアジア全域に業務を拡大。現在「イソザキ・アオキ アンド アソシエイツ」に参加し「エジプト日本科学技術大学(アレキサンドリア)」が進行中。ピリオド楽器でバッハのカンタータ演奏などに参加しているヴァイオリニスト。
●今日のお勧め作品は、代表作である「4分33秒」が演奏されたジョン・ケージです。

"Fontana Mix(Light Grey)"
1982年
シルクスクリーン、紙、フィルム3枚組
56.7x76.5cm
Ed.97
サインあり
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