長年にわたり「具体」の顕彰に尽力されてきた河﨑晃一さんに「浮田要三展」に寄せて原稿をご執筆いただきました。
今日から3回に分けて掲載いたします。

「浮田要三展に寄せて」~1

河﨑晃一
(甲南女子大学文学部メディア表現学科教授)


浮田要三のいろとかたち
赤、濃紺、青、黄、ピンク・・・色彩のシンプルな選択による作品は、浮田が楽しみながらかたちと色を置いていった痕跡である。支持体となる布にコーヒー豆の袋などに使われるドンゴロスを用いて、それを切ったり、折り曲げたり屈託のない表現が作品を見る側の受け皿を広げていってくれる。ドンゴロスには、たっぷりと油絵の具が塗られている。それらは描かれたものではなく、切り絵のように色付けられたドンゴロスのコラージュである。重みを感じさせる素材はさまざまな表情を見せてくれる。素材が主人公となる作品は、とかくマンネリ化した作風になりやすいが、浮田の作品にはそれがない。一つ一つの作品と対話できる可能性が潜んでいるように思う。
 そのような一般的な作品への視線を批判するように「最近、ボクは絵画的な要素(点・線・色彩・構成など)をそれ程重要視しておりません。」(注1)と浮田は、否定する。絵画的な判定を「思考的に力が薄らぎます」(注2)とその正体を考えることではなく、感じることではないかという。「感性への想い」から自身の存在を見出そうとしている。絵は理屈や説明ではないということなのだろうか。

浮田要三_チラシ出品No.2)
浮田要三
《チラシ》
2005年
アクリル彩、キャンバス
103.5×100.0cm
サインあり


浮田要三と『きりん』
 画家としての浮田要三(1924~2013)の活動は、具体美術協会時代の1955年から64年までと1983年から亡くなる2013年までの時期に分かれる。しかし、画家としてよりも浮田の純粋な心の基盤を支えたのは、児童雑誌『きりん』の編集者として活動したことであった。『きりん』は1948年2月大阪の尾崎書房から創刊された子どもの詩と絵の雑誌であった。その営業、編集実務を浮田ともうひとり星芳郎が担当、子どもから寄せられる詩の選者は、当時毎日新聞大阪本社に勤務していた井上靖、彼はまさしく『きりん』の生みの親であった。そして毎日小学生新聞で詩の選者を務めていた詩人の竹中郁が携わり、さらに足立巻一、坂本遼が加わり編集体制ができた。そこでの浮田の役割は、近畿一円の小学校を訪れ、国語の授業の副読本として勧め、時には子どもを集めて詩の朗読をしたという。1962年に廃刊となるまでの14年間に浮田が『きりん』から教えられた事柄は、浮田の生き様を示すものであった。

浮田要三_Please open出品No.3)
浮田要三
《Please Open》
2005年
油、アクリル彩、キャンバス、ドンゴロス
136.0×73.0cm
サインあり


 創刊号の表紙絵は、脇田和が手がけ、次にのちに具体美術協会の代表となる吉原治良に表紙絵を依頼したのは、3号目であった。編集者は、創刊当初から『きりん』とのなんらかの関わりを吉原に求めていたのである。この出会いが、浮田のその後の芸術観に大きな弾みを与えた。その後も表紙絵は、小磯良平、須田剋太、山崎隆夫らが手がけているが、子どもとの絵のかかわりに深く関わっていったのは吉原であった。この時点で浮田は、まだ絵画を手がけてはいない。編集者、販売営業マンとして東奔西走していたのである。そして毎月推薦されてくる子どもたちの絵を選び、それを表紙絵やカットとして使った。多く寄せられる詩とともに子どもたちの純粋な表現を見ることは、浮田の芸術観を形成し、芸術家でもない、芸術批評家でもない浮田要三を生み出した。
かわさき こういち

注釈
注1 「浮田要三小論(哲学的考察に於いて)」、『浮田要三の仕事』、浮田要三作品集編集委員会編、p,13
注2 同上 p,13

■河﨑晃一 Koichi KAWASAKI
1952年兵庫県芦屋市生まれ。甲南大学経済学部卒業。卒業後、染色家中野光雄氏に師事、80年から毎年植物染料で染めた布によるオブジェを発表。87年第4回吉原治良賞美術コンクール展優秀賞、第18回現代日本美術展大原美術館賞受賞。
『画・論長谷川三郎』の編集、甲南学園長谷川三郎ギャラリーや芦屋市立美術博物館の開設に携わり「小出楢重と芦屋展」「吉原治良展」「具体展」「阪神間モダニズム展」「震災と表現展」などを企画した。93年にはベネチアビエンナーレ「東洋への道」の具体の野外展再現、99年パリジュドポムの「具体展」、近年では、2015年にアメリカテキサス州ダラス美術館での「白髪一雄/元永定正展」を企画、海外での具体の紹介に協力。06年より2012年まで兵庫県立美術館に勤務されました。現在、甲南女子大学文学部メディア表現学科教授。

DSCF62422013年3月に開催した「GUTAI 具体 Gコレクションより」展ギャラリートークにて
河﨑晃一さん(左)と石山修武さん(右)


●作品集のご紹介
20150905130904_00001 のコピー『浮田要三の仕事』
2015年7月21日発行
発行所 りいぶる・とふん
編集人 浮田要三作品集編集委員会
制作人 浮田綾子、小崎唯
テキスト:浮田要三、貞久秀紀、加藤瑞穂、平井章一、井上明彦、おーなり由子
25.7×27.2cm
316ページ
全テキスト英訳
税込10,800円 ※別途送料250円


◆ときの忘れものでは2016年4月8日(金)~4月23日(土)まで「浮田要三展」を開催します(日・月・祝日休廊)。
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1954年に関西在住の若手作家を中心に結成された「具体(具体美術協会)」。1950年代にはまだパフォーマンスやインスタレーションといった表現が新奇の眼で見られるだけで、美術作品としての評価はなかなかされにくい時代でした。
しかし近年では国際的にも注目をあび、1950~70年代の日本のアートを再評価し検証する動きが活発です。2013年2月にニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催された「GUTAI」展は大反響を呼びました。
具体のリーダーであった吉原治良の「人の真似をするな」という言葉に象徴されるように、具体美術協会に参加した作家たちは従来の表現や素材を次々と否定して新しい美術表現を旺盛に展開していきました。
本展では「具体」に参加した浮田要三に焦点を当て、油彩作品をご覧いただきます。

●ときの忘れものは2016年3月より日曜、月曜、祝日は休廊します
従来企画展開催中は無休で営業していましたが、今後は企画展を開催中でも、日曜、月曜、祝日は休廊します。