<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第44回

(画像をクリックすると拡大します)
ベッドの上に女性が寝転がっている。
全裸で、男物のような黒い靴下だけを履いて……。
床にはジーンズが脱ぎ捨てられているが、下着は落ちていない。
ジーンズとまとめて一緒に脱いでしまったのか。それとも最初から着けてなかったとか?
夏のあいだ彼女の肌はむきだして、最小限のエリアだけが小さな「布切れ」で覆われていた。
太陽はその肌を印画紙にして布切れを転写した。
フォトグラムの手法で白く焼き付けられた布のかたち。
皮膚がむきだしだと、外界の変化が直に感じとれる。
着衣状態よりも感覚は鋭敏になり、野性が目覚めてくる。
衣装を欠いた裸体から、本来あるべき動物的な裸体に移行する過程を経て、
彼女の体はこの夏無敵の身体へと発展した。
だが、彼女に野性を与えた夏がいま去ろうとしている。
夏は別れに悩まない。ぐずぐずと引き伸さない。
去ると決めたら即実行、振り向いたらもういない、
それが夏というヤツだ。
彼女はその非情さをよく解っている。
からだは夏の側に残しつつも、気持は秋にむけて準備している。
皮膚に焼きつけられたビキニのシルエットが夏の余韻ならば、
足先を覆っている黒いソックスは秋への心得だ。
ベッドの上空には、いままさにバトンを渡して立ち去ろうとする夏の潔さが漂っている。
それに対抗するには、全裸から一気に靴下の極へと走らなくてはならない。
大竹昭子(おおたけあきこ)
~~~~
●紹介作品データ:
五味彬
「PLAYBOY 91-06-05」
1991 printed in 2009
Gelatin Silver Print
26.2x20.5cm サインあり
■五味彬 Akira GOMI
1953年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。77年渡仏し、ローレンス・サックマン、ミッシェル・ベルトンに師事する。83年帰国後、ファッション誌『流行通信』『エル・ジャポン』などを中心に活躍。93年日本初のCD-ROM写真集『YELLOWS』を発表。その後、『YELLOWS2.0』『AMERICANS』『YELLOWS3.0』など00年までに14タイトルを発表。バンタンデザイン研究所で写真Webデザインを教える。97年東京都写真美術館で《アウグスト・ザンダーと五味彬》展。99年《YELLOWS RESTART》を発表。
97年DIGITALOGUE Gallery Tokyo(東京・原宿)で個展《YELLOWS Contemporary Girls Psycho Sexual》。2008年キャノンギャラリー(銀座、名古屋、梅田を巡回)にて個展《YELLOWS Return To Classic》、ときの忘れものにて個展《五味彬写真展 Yellows 1.0》。09年GALLERY COSMOSで元アシスタントたちとのグループ展《Family Plots》。
◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
◆ときの忘れものは「アール・デコの作家~バルビエ、エルテ、ラブルール、カッサンドル展」を開催しています。
会期:2016年9月1日[木]~9月10日[土] *日曜、月曜、祝日休廊

1910年代半ばから1930年代にかけてヨーロッパおよびアメリカを中心に一世を風靡したアール・デコ(仏: Art Déco)を代表する4人の作品約15点をご覧いただきます。
本日は出品作の中からラブルール(Jean=Emile LABOUREUR、1877~1943)をご紹介します。
ラブルール
《軍隊の通過》
1900年
木版
22.9×30.0cm
Ed.60
Signed
ラブルールの初期を飾る木版画です。バルビエと同じナント出身で、1911年から銅版画を始める。キュビストたちの影響を受け、エッチングによる繊細な線描により1920年代の都市生活や自然を描いた。新時代のホテルやカフェ、レストラン、モダンなファッションの女たち、デパートで買い物をする人、といったさりげない日常の都市風景を描き、そのさりげなさが多くの人々に愛されたが、それゆえに美術史の上では長く忘れ去られていました。

(画像をクリックすると拡大します)
ベッドの上に女性が寝転がっている。
全裸で、男物のような黒い靴下だけを履いて……。
床にはジーンズが脱ぎ捨てられているが、下着は落ちていない。
ジーンズとまとめて一緒に脱いでしまったのか。それとも最初から着けてなかったとか?
夏のあいだ彼女の肌はむきだして、最小限のエリアだけが小さな「布切れ」で覆われていた。
太陽はその肌を印画紙にして布切れを転写した。
フォトグラムの手法で白く焼き付けられた布のかたち。
皮膚がむきだしだと、外界の変化が直に感じとれる。
着衣状態よりも感覚は鋭敏になり、野性が目覚めてくる。
衣装を欠いた裸体から、本来あるべき動物的な裸体に移行する過程を経て、
彼女の体はこの夏無敵の身体へと発展した。
だが、彼女に野性を与えた夏がいま去ろうとしている。
夏は別れに悩まない。ぐずぐずと引き伸さない。
去ると決めたら即実行、振り向いたらもういない、
それが夏というヤツだ。
彼女はその非情さをよく解っている。
からだは夏の側に残しつつも、気持は秋にむけて準備している。
皮膚に焼きつけられたビキニのシルエットが夏の余韻ならば、
足先を覆っている黒いソックスは秋への心得だ。
ベッドの上空には、いままさにバトンを渡して立ち去ろうとする夏の潔さが漂っている。
それに対抗するには、全裸から一気に靴下の極へと走らなくてはならない。
大竹昭子(おおたけあきこ)
~~~~
●紹介作品データ:
五味彬
「PLAYBOY 91-06-05」
1991 printed in 2009
Gelatin Silver Print
26.2x20.5cm サインあり
■五味彬 Akira GOMI
1953年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。77年渡仏し、ローレンス・サックマン、ミッシェル・ベルトンに師事する。83年帰国後、ファッション誌『流行通信』『エル・ジャポン』などを中心に活躍。93年日本初のCD-ROM写真集『YELLOWS』を発表。その後、『YELLOWS2.0』『AMERICANS』『YELLOWS3.0』など00年までに14タイトルを発表。バンタンデザイン研究所で写真Webデザインを教える。97年東京都写真美術館で《アウグスト・ザンダーと五味彬》展。99年《YELLOWS RESTART》を発表。
97年DIGITALOGUE Gallery Tokyo(東京・原宿)で個展《YELLOWS Contemporary Girls Psycho Sexual》。2008年キャノンギャラリー(銀座、名古屋、梅田を巡回)にて個展《YELLOWS Return To Classic》、ときの忘れものにて個展《五味彬写真展 Yellows 1.0》。09年GALLERY COSMOSで元アシスタントたちとのグループ展《Family Plots》。
◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
◆ときの忘れものは「アール・デコの作家~バルビエ、エルテ、ラブルール、カッサンドル展」を開催しています。
会期:2016年9月1日[木]~9月10日[土] *日曜、月曜、祝日休廊

1910年代半ばから1930年代にかけてヨーロッパおよびアメリカを中心に一世を風靡したアール・デコ(仏: Art Déco)を代表する4人の作品約15点をご覧いただきます。
本日は出品作の中からラブルール(Jean=Emile LABOUREUR、1877~1943)をご紹介します。

《軍隊の通過》
1900年
木版
22.9×30.0cm
Ed.60
Signed
ラブルールの初期を飾る木版画です。バルビエと同じナント出身で、1911年から銅版画を始める。キュビストたちの影響を受け、エッチングによる繊細な線描により1920年代の都市生活や自然を描いた。新時代のホテルやカフェ、レストラン、モダンなファッションの女たち、デパートで買い物をする人、といったさりげない日常の都市風景を描き、そのさりげなさが多くの人々に愛されたが、それゆえに美術史の上では長く忘れ去られていました。
コメント