本を巡る旅 - その3
マインツで生徒さん4人と待ち合わせ、ライプツィヒまで更に欲張った旅が続きます。大規模なストライキに見舞われワイマールでの1日が抜け落ち、アンナ・アマリア大公妃図書館などを見逃したのは残念でしたが、その日の夕食の皿に不意に残像が浮かぶほどの印刷機や活字を見たと思います。
私は二度目のマインツですが、前回気付かなかった聖ボニファティウスの銅像をマルクト広場で発見。
マルクト広場の聖ボニファティウス像
残念ながら手にした聖書の背は見えませんが、8世紀にイギリスからドイツに布教に来た聖ボニファティウスが所持していた本が、支持体を用いた現存最古の冊子体だという説がありますので、「此処におわす御方を何方と・・・」と生徒さんらに撮影を促し、早足でグーテンベルク博物館へ向かいます。言わずもがなのインキュナブラの数々の他、花ぎれや製本構造のモデルも充実しており、本日の記憶容量ギリギリまで見た後は、現在は州立のワイン販売所となっているエーベルバッハ修道院で締めくくりました。
「薔薇の名前」の書写室の撮影に使われた12世紀創立のシトー派修道院ですから、ホテルで飲むワイン選びに浮かれていても本の話題からは離れません。
42行聖書印刷体験を勝ち取り、披露する男性
綴じや花きれのモデル
マインツから小一時間のオッフェンバッハにあるクリングスポールは、1953年に設立された、主に20世紀以降の本とタイプフェイスに関する芸術・デザインの博物館です。
クリングスポール博物館 (オッフェンバッハ)
学芸員の方をご紹介いただき閉架資料を見せて頂くことになっており、挨拶が済み次第、全員持参の白手袋にマスク姿で待ち構えます。製本の一行だという事で、先ずはルリユールとアーティストブックをご用意して下さっていました。
ルリユールは背やコワフの形などの違いが興味深く、中には本文が羊皮紙に手書きというものもあり、皆で取り囲んで、一歩下がって眺めたかと思えば、本の間近に顔を寄せ頷き合い撮影しと、見入り我に返りを繰り返し、気が付けば開館時から早、昼時といった具合でした。ルリユールされたクラナッハプレスのハムレットには雀躍、手に取って隅々まで見ることができたのは格別の体験でした。
また、アーティストブックには、日本滞在中に制作された日本語を使った作品も数点あり、作者にとっての母語と、アルファベットでは無い外国語で組まれた紙面の両方を、並べて見る機会を得ました。
『Hamlet』Harry Graf Kessler, Eric Gill, Edward Johonston,
Edward Gordon Craig 1929年 Der Crannach Presse
(「タイポグラフィ 2つの潮流」展カタログより)
Heiko Michael Hartman,『Im Hochaus』Tokyo, 2011
(「Art & Métiers du Livre」308号より)
一冊一冊、それぞれの佇まいから、表紙を開く僅かの時間に感じる重さ、めくる頁のしなり具合、文字の黒味と余白の白さといったものなどに集中して、本そのものを文字通り体験することが出来たのは、よく知られたタイトル以外分からないドイツ語のお蔭です。
(文・羽田野麻吏)

●作品紹介~羽田野麻吏制作



『LE TEMPS DE LE DIRE』
ROBERT MARTEAU
銅版一葉: HECTOR SAUNIER
COMMUNE MAAESURE 1999年
限定100部のうち31番
・総山羊革装 足付き製本
・山羊革・仔牛革のモザイクと真鍮棒のデコール
・山羊革・仔牛革と染め紙の見返し
・天染め
・タイトル箔押し:芦沢博美
・函
・2001年制作
・315×136×12mm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本
◆ときの忘れものでは、frgmの皆さんによる展覧会「ルリユール 書物への偏愛」を今秋11月に開催します。
会期:2016年11月8日(火)~11月19日(土)
◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
マインツで生徒さん4人と待ち合わせ、ライプツィヒまで更に欲張った旅が続きます。大規模なストライキに見舞われワイマールでの1日が抜け落ち、アンナ・アマリア大公妃図書館などを見逃したのは残念でしたが、その日の夕食の皿に不意に残像が浮かぶほどの印刷機や活字を見たと思います。
私は二度目のマインツですが、前回気付かなかった聖ボニファティウスの銅像をマルクト広場で発見。

残念ながら手にした聖書の背は見えませんが、8世紀にイギリスからドイツに布教に来た聖ボニファティウスが所持していた本が、支持体を用いた現存最古の冊子体だという説がありますので、「此処におわす御方を何方と・・・」と生徒さんらに撮影を促し、早足でグーテンベルク博物館へ向かいます。言わずもがなのインキュナブラの数々の他、花ぎれや製本構造のモデルも充実しており、本日の記憶容量ギリギリまで見た後は、現在は州立のワイン販売所となっているエーベルバッハ修道院で締めくくりました。
「薔薇の名前」の書写室の撮影に使われた12世紀創立のシトー派修道院ですから、ホテルで飲むワイン選びに浮かれていても本の話題からは離れません。


マインツから小一時間のオッフェンバッハにあるクリングスポールは、1953年に設立された、主に20世紀以降の本とタイプフェイスに関する芸術・デザインの博物館です。

学芸員の方をご紹介いただき閉架資料を見せて頂くことになっており、挨拶が済み次第、全員持参の白手袋にマスク姿で待ち構えます。製本の一行だという事で、先ずはルリユールとアーティストブックをご用意して下さっていました。
ルリユールは背やコワフの形などの違いが興味深く、中には本文が羊皮紙に手書きというものもあり、皆で取り囲んで、一歩下がって眺めたかと思えば、本の間近に顔を寄せ頷き合い撮影しと、見入り我に返りを繰り返し、気が付けば開館時から早、昼時といった具合でした。ルリユールされたクラナッハプレスのハムレットには雀躍、手に取って隅々まで見ることができたのは格別の体験でした。
また、アーティストブックには、日本滞在中に制作された日本語を使った作品も数点あり、作者にとっての母語と、アルファベットでは無い外国語で組まれた紙面の両方を、並べて見る機会を得ました。

Edward Gordon Craig 1929年 Der Crannach Presse
(「タイポグラフィ 2つの潮流」展カタログより)

(「Art & Métiers du Livre」308号より)
一冊一冊、それぞれの佇まいから、表紙を開く僅かの時間に感じる重さ、めくる頁のしなり具合、文字の黒味と余白の白さといったものなどに集中して、本そのものを文字通り体験することが出来たのは、よく知られたタイトル以外分からないドイツ語のお蔭です。
(文・羽田野麻吏)

●作品紹介~羽田野麻吏制作



『LE TEMPS DE LE DIRE』
ROBERT MARTEAU
銅版一葉: HECTOR SAUNIER
COMMUNE MAAESURE 1999年
限定100部のうち31番
・総山羊革装 足付き製本
・山羊革・仔牛革のモザイクと真鍮棒のデコール
・山羊革・仔牛革と染め紙の見返し
・天染め
・タイトル箔押し:芦沢博美
・函
・2001年制作
・315×136×12mm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称

(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態





◆ときの忘れものでは、frgmの皆さんによる展覧会「ルリユール 書物への偏愛」を今秋11月に開催します。
会期:2016年11月8日(火)~11月19日(土)
◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
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