亭主はリハビリ中心の日課が続いていますが、おかげさまでこのところ体調もよく、若い光嶋裕介さんの個展開催中ということもあり、連日深夜帰宅。
先月28日は、大阪から出ていらした倉方俊輔さんと光嶋さん、某雑誌の編集長たちと来年度の企画について会食しながらの打ち合せ。ここ数年、不景気で版元活動から遠ざかっていましたが、久しぶりのエディション企画が密かに進行しています。

30日は光嶋裕介展のギャラリートーク。
20160930アジカンと光嶋さん
展覧会に来廊されたアジカンの皆さんと光嶋裕介さん

20160930周防、光嶋、松家
ギャラリートークの二次会で
左から、周防正行さん、光嶋裕介さん、松家仁之さん
(写真は光嶋さんのtwitterより転載)

講師にお招きしたのは小説家・編集者として活躍中の松家仁之さん、満席で立ち見も出るほどの盛況でしたが、映画監督の周防正行さん、大竹昭子さん、植田実先生など参加メンバーも豪華で、打ち上げは近くの中華料理店でにぎやかに深夜まで続きました。近々スタッフSによるレポートを掲載します。

10月1日は二日酔いでふらふらしながら社長と水戸へ。磯崎新先生設計の水戸芸術館で始まった「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」展のオープニングに出席してきました。クリストのスピーチを通訳したのは柳正彦さん。彼は現代版画センターの最初期のスタッフでしたが、大学卒業後に渡米しクリストの信頼を得て、長年スタッフとしてクリストの壮大なアート活動を支えています。「クリストと私(仮題)」と題したエッセイの連載をお願いしています。乞うご期待。
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さて、お正月に美術評論家のヨシダ・ヨシエ先生がお亡くなりになったことは1月12日のブログでお伝えしました。
2008細江展ヨシダヨシエ四谷シモン
細江英公写真展―ガウディへの讃歌」オープニングにて
左から、岡部百合子、社長、四谷シモンさん、ヨシダ先生
2008年5月

アヴァンギャルドな青年、ヒッピーな中年、パンクな老人」(小沢節子さんの弔辞より)だったヨシダ先生の美術界における功績はいずれどなたかによってまとめられるでしょうが、ご自宅に遺された書籍文献に関して、三上豊編・著『ヨシダ・ヨシエへの手がかり』という冊子が私家版で刊行されましたので、ご紹介します。

三上豊編・著『ヨシダ・ヨシエへの手がかり』 のコピー
『ヨシダ・ヨシエへの手がかり』
2016年
三上豊 編集・発行
和光大学 三上研究室 発行
49ページ
21.0x14.8cm
*ご希望の方は和光大学三上研究室にお問合せください。


20161004_ヨシダヨシエ


目次(2p)

はじめに … 03
弔辞 小沢節子 … 04
ヨシダ・ヨシエ略年譜 … 06
UCLA「ヨシダ・ヨシエ文庫」リスト … 08
[図版構成]書庫と資料 … 34
国立新美術館に寄贈した資料の一部と他について … 42

はじめに(3p)
 この冊子は、2016年1月4日に亡くなった評論家ヨシダ・ヨシエの旧蔵資料に関するものである。
 埼玉県鶴ケ島市の自宅に残された蔵書、作品、資料の扱いについて、告別式のおりご遺族から参列者に対し問いかけがなされ、筆者は整理の方向を提案させていただいた。すでに数年前からカリフォルニア大学ロサンゼルス校(以下UCLA)から「ヨシダ・ヨシエ文庫」設立にともなう話しが進行しており(その経緯と資料については8ページ参照)、私を含め画商、古籍商は、UCLAの作業の後に回ることになった。残された自宅は、数年前から無人となり、倉庫のような状態で、そもそもヨシダ氏が生前のときから、整理はほとんどなされていないとのご遺族の話しがある一方、問えばすぐに氏から当該の資料が取り出された体験を語る方もいた。
 筆者が今回ヨシダ氏のご遺族に声をかけさせていただいたのは、数年前の針生一郎旧蔵資料の整理に携わった経験があったからだ。針生一郎氏は生前から務めていた和光大学に蔵書の寄贈の意向があったが、他大学の例をみるまでもなく、寄贈図書の受け取りはスペースの都合により困難であった。それでも未収蔵の書籍、一部の図録など2400件余りは和光大学図書館へ入り、洋書は国立新美術館へ収蔵された(『針生一郎蔵書資料年表』[せりか書房 2015年]参照)。針生、ヨシダ両氏以外にも近年では瀬木慎一氏、中原佑介氏ら評論家の旧蔵書資料については話題となることがあった。国内の美術館は作品および作家に関する資料には関心を向けるが評論家、画廊や美術関係者の資料となると受け入れには慎重になることが多い。東京文化財研究所、国立新美術館美術資料室などの活動はあるにしても、つまりは国内には美術資料の受け皿となるアーカイブがないといっていいだろう。
 今回のヨシダ・ヨシエ旧蔵資料の扱いについては、「海外流失」を懸念する声もあった。しかし、散逸することを思えば、資料への一定の収集方針をもって当たったUCLAの素早い判断には見習うことが多い。本冊子は、まずはUCLAにできる「ヨシダ・ヨシエ文庫」、その書籍と資料リストを中心に、ヨシダ・ヨシエへの手がかりを記録する意図から編集してみた。

あとがき(49p)
 今回、この小冊子を急ぎ発行したのは、「ヨシダ・ヨシエ」の名を少しでも留めておきたかったからだ。それには私が鶴ヶ島のご自宅で体験したことを反映し、編集しておきたかった。私が『美術手帖』に所属していたとき、初期の依頼原稿体験のひとりがヨシダ氏だった。松本竣介の原稿をお願いし、風景画に描かれた新宿の公衆便所などを案内していただいた。そのころヨシダ氏は所沢にお住まいで、草木が絡み付いた確か黄色の壁の建物だったような記憶がある。書斎には山となった書籍が積まれていた。それらの書籍の多くは、知人や、アメリカ、高知、古書店から市場へと渡っていった。この間の事情を本冊子で記録してみた。
 1月中旬、私が書庫に入った段階では、UCLA「ヨシダ・ヨシエ文庫」設立のために動いている嶋田美子氏がある程度分類されていた。それでも懐中電灯が必要なほど奥が深い部分があり、資料を取り出しながらみていくことになった。
 私が4回にわたり収集にあたらせていただいたなかで、いくつか気になったことをあげておく。
 東京画廊、南画廊などの主要な画廊の古い図録類がほとんど見当たらなかった。これは以前からヨシダ氏が資料を知人にさしあげていた経緯と関連するのだろう。例えば、東京文化財研究所にある笹木繁男資料には、ヨシダ氏から譲られたものがあると聞く。そのように幾人かの方にわたった資料があると思われる。また松澤宥の本『プサイの函』(造形社 1982)もなかった。モダンアートセンター・ジャパンの活動についての資料もわずかだった。『美術手帖』のバックナンバーは70年代以降のものが多く、『芸術新潮』『みづゑ』はまとまっ てはいなかった。多くの作家の小品があったが、当該の作家資料は少なかった。
 さて、私の手もとにはまだ不思議なものが数点ある。なかでもエロスとタナトスのヨシダ氏らしい、開かれた女性器の前に髑髏をおいた写真(撮影者不明)とその髑髏がある。冊子の表紙にと手もとにキープしたのだが、勇気がなく掲載はとりやめた。こうしたものが所蔵されるアーカイヴの設立が望まれる今日である。

 冊子作成にあたり以下の方々のご協力をいただきました。
 ご遺族の吉田可久也氏、吉田亜津史氏。UCLA教授のウィリアム・マロッティ氏。作家の嶋田美子氏。弔辞の再録を許諾していただいた小沢節子氏。ときの忘れものの綿貫ご夫妻。古書日月堂の佐藤真砂氏。原爆の図丸木美術館学芸員の岡村幸宣氏。財団法人池田20世紀美術館広報担当の安井崇信氏。レイアウトしていただいた相馬理奈子氏。
 ありがとうございました。
三上豊
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美術関係に限らず、ある方が亡くなると、ご遺族は遺された故人の私物、書籍、書簡、その他もろもろの「モノ」の処分に途方に暮れる(ことが多い)。
古物商や古本屋さんにぜんぶ売ってしまう、
故人の関係していた機関(大学、美術館、図書館)に寄贈する、
形見分けのようにして故人の親しかった方々におわけする、
思いきって破棄する、etc.,

いろいろな選択肢がありますが、ヨシダ先生の場合、重要な文献資料は海を渡ってカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に収められることになりました。
しかし、それだけで片付くような物量ではとてもなく、三上先生のご尽力で、古本屋さんが大半の書籍を処分し、絵画など作品類は私ども「ときの忘れもの」がお引き受けしました。
そのような経緯をきちんと整理し、何がUCLAに収められたかを記録したのが、本冊子です。

私どもがお引き受けした作品類(油彩、水彩、版画、オブジェ他)については、少しづつ売却の作業を進めますが、その第一弾として、
11月26日(土)~12月3日(土)に開催する「戦後の前衛美術‘50-70 Part Ⅲ(入札)」S氏コレクションと合わせ数十点を出品する予定です。
主な作品としては、河原温、赤瀬川原平、桜井孝身、高山良策、中村宏、池田龍雄、豊島弘尚、平賀敬などですが、11月中旬には出品リスト(入札リスト)が準備できますので、どうぞご期待ください。

●今日のお勧め作品は、ヘルベルト・バイヤーです。
作家と作品については、小林美香のエッセイ「写真のバックストーリー」第1回をご覧ください。
20160925_bayer_untitledヘルベルト・バイヤー
「Untitled」
1930年代(1970年代プリント)
Gelatin Silver Print on baryta paper
37.7×29.0cm
Ed.40(18/40)
裏面にサインあり


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