<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第46回

山田脩二「ひと夏の旅」より(佐田岬半島)_1500
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男の子の世界と、女の子の世界。
真ん中の樹木によってふたつに分たれている。
女の子の世界は木の根方より低いところにあり、陽がよく当たる。
男の子の世界はそこより少し高くて、木陰になっている。

女の子たちはおしゃべりしながら、膝の上に広げた帳面に何かを書き付けている。
男の子がしているのはそれぞれ別のこと。奥にいる子は両脚を木の幹にもたせかけてドリル帳のようなものを両手で掲げ、手前の子は顎の下に手を置いて膝を折って眠っている。

どこの子も齢は七、八歳くらい。にもかかわらず、おとなになったときの姿が早くもその身に宿っているように感じられてならない。子どもらしい、と感じるのと同時に、歳を重ねたおばさんやおじさんを見ているような感覚にもなるのだ。

たとえば、少女たちが土間で干した豆をよったり、梅干しを漬けている姿を、すんなりと目に浮かべることができないだろうか。手を動かしながら口も動かしていて、おしゃべりしつつも作業は着々と進んでいく。

少年たちがいるのは、田んぼが見渡せる屋根付きの台の上だ。弁当を食べ終えて一休みしているところで、ひとりは農事日記をめくって昨年の作柄を振り返り、もうひとりは胎児のように身をちぢめて昼寝している

どちらか一方の世界に重心を置くこともできたが、写真家はそうせずに世界をまっぷたつに分けてとらえた。樹々を境にして男女の世界が別々にあることに反応し、画面の左右にそれを分銅のように分けてバランスをとったのだ。

それから数十年がたったいま、写真を見ながらわたしは思うのだ。世界を男と女に分けてバランスを取るのは、そのころの社会のやり方でもあったということに。

共同体的なものをひきずっている社会に暮らす人間は、都市社会にいる人間と表情がちがう。昔はもちろんのこと、現代でもそうだ。子どものなかにおとながいる、と同時に、おとなのなかにも子どもがいる。都会のおとながハメを外して子どもじみた騒ぎをするのとは別の子どもがいる。

それは、「うしろを振りむくと親である/親のうしろがその親である」ではじまる山之口莫の詩「喪のある風景」にあるような、人から人にバトンが渡された記憶がふっと表にでてくる瞬間だ。日の光、土のにおい、風のにおい、空気の湿り気などに呼び覚まされ、人のからだに一瞬灯るそれは、子どもでもあり、おとなでもある人の姿なのだと思う。

大竹昭子(おおたけあきこ)

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●紹介作品データ:
山田脩二
〈ひと夏の旅〉より(佐田岬半島)
1963年撮影
ゼラチン・シルバー・プリント
29.4×20.5cm
『山田脩二 日本旅1961-2010』(2010年、平凡社)収録

山田脩二 Shuji YAMADA
1939年兵庫県生まれ。桑沢デザイン研究所を修了後、印刷会社で印刷と写真の技術を2年間学ぶ。退社後、グラフィックデザイナーを目指しながら、常滑や瀬戸内海などを旅する。1970-80年代にかけて、建築写真家(カメラマン)として活躍。造形的な写真を撮り続けるかたわら日本各地を旅して、新旧入りまじった村や街、都市の風景を撮影した写真が、数多くのメディアに取り上げられる。1982年に職業写真家に「終止符宣言」をして、兵庫県淡路島の瓦生産地集落・津井で瓦師(カワラマン)に転身。伝統的ないぶし瓦を現代に活かす作り手として活動しながら、地域に点在する炭焼生産地の現場を訪ね、"焼き"にこだわり続ける。主な著書、『山田脩二 日本村1969-79』(1979年、三省堂)、『カメラマンからカワラマンへ』(1996年、筑摩書房)、『山田脩二 日本旅1961-2010』(2010年、平凡社)など。

●展覧会のご案内
兵庫県の西脇市岡之山美術館で山田脩二さんの展覧会が開催されます。
「山田脩二―日本村・日本旅・日本晴れ―」展
会期:2016年11月27日[日]~2017年3月26日[日]
会場:西脇市岡之山美術館
   〒677-0039 兵庫県西脇市上比延町345-1
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館:月曜日(祝日の場合は翌日)と祝日の翌日、年末年始12月29日(木)~2017年1月3日(火)
入館料:大 人 310円(260円)
高大生 210円(160円)
小中生 110円(80円)  ()内20名以上の団体割引料金
※障がい者割引有
※ココロンカード利用可

西脇市岡之山美術館は「山田脩二―日本村・日本旅・日本晴れ―」展を開催する運びとなりました。
山田脩二は1939年兵庫県武庫郡鳴尾村(現西宮市)に生まれ、桑沢デザイン研究所に学び、グラフィックデザイナーを志して印刷工場の現場に2年間身を投じた後、職業カメラマンとして主に建築写真のジャンルで活躍しました。同時に日本各地を旅して人々の生業と暮らしの表情、常滑などの焼きもの産地の製造現場、都市と地域をカメラに収めました。それらの仕事の集大成写真集『山田脩二・日本村1969―1979』(1979年、三省堂刊)は、高度成長によって新旧が激しく混じり合う、常に変容してやまない日本の姿が映し出された貴重なドキュメントとして注目を浴びました。
1982年以降は淡路島の瓦産地、津井に移住して瓦師(カワラマン)となり、2007年南あわじ津井の瓦衆と《達磨窯プロジェクト「脩」》を立ち上げ、達磨窯を復興・築窯し、いぶし瓦を焼き続け、銀色に渋く光る肌と独特の風合いをみせる瓦・敷瓦の製造を手がけながら淡路島の風景、全国に点在する炭焼きの現場、日本の津々浦々の写真も撮り続けています。
本展は、淡路移住以降の写真の仕事を中心に紹介し、淡路の達磨窯との出会いが生む独創的な“山田瓦”の仕事、写真も瓦も焼いて、裏と表の“焼き具合”に徹底的にこだわる山田脩二の人生の旅そのものの魅力を紹介します。(プレスリリースより転載)

[イベント]
山田脩二とキュレーターによるギャラリートーク

日時:11月27日(日)11:00~11:30
会場:本館

スライドショー&対談
山田脩二×山﨑均(当館客員キュレーター、神戸芸術工科大学教授)
日時:11月27日(日)14:00~15:00
会場:アトリエ
参加費:無料(要入館料)
定員:20名(要予約)

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●大竹昭子ポートフォリオ『Gaze+Wonder NY1980』のご案内
600600
大竹昭子ポートフォリオ『Gaze+Wonder NY1980』
発行日:2012年10月19日
発行:ときの忘れもの
限定8部
・たとう入り オリジナルプリント12点組
・写真集『NY1980』(赤々舎)挿入
テキスト:堀江敏幸、大竹昭子
技法:ゼラチンシルバープリント
撮影年:1980年~1982年
プリント年:2012年
シートサイズ:20.3x25.4cm
各作品に限定番号と作者自筆サイン入り
価格:220,000(税別)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●大竹昭子写真集『NY1980』(サイン本)のご案内
NY1980大竹昭子写真集『NY1980』サイン本
2012年
赤々舎 発行
109ページ
20.5x15.7cm
テキスト:大竹昭子(ときの忘れものWEB連載エッセイ「レンズ通り午前零時」に加筆・修正+書き下ろし)
デザイン:五十嵐哲夫
2,300円(税別) ※送料別途250円


「撮るわたし」と「書くわたし」を育んだ80年代のニューヨークへ!
鋼鉄のビルが落とす鋭い影、ストリートにあふれるグラフィティー。
30年前、混沌のニューヨークへ渡り、カメラを手に街へ、世界へと歩きだした。生のエネルギーを呼吸し、存在の謎と対峙する眼。
ジャンルを超えて活躍する著者が、写真と言葉の回路を解き明かした重要な一冊。
そこに通っているのは一本のレンズ通りである。虚構と現実をつなぐこの通りこそが、過去といまと未来を接続するラインなのであり、それをつかみとることに生のリアリティーがあるのを強く確信したのだった。(本文より)

◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
 ・大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
 ・frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
 ・夜野悠のエッセイ「書斎の漂流物」は毎月5日の更新です。
 ・笹沼俊樹のエッセイ「現代美術コレクターの独り言」はしばらく休載します。
 ・杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
 ・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は毎月11日の更新です。
 ・普後均のエッセイ「写真という海」は毎月14日の更新です。
 ・野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
 ・小林紀晴のエッセイ「山の記憶」は毎月19日の更新です。
 ・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
 ・八束はじめ・彦坂裕のエッセイ「建築家のドローイング」(再録)は毎月24日の更新です。
 ・小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」は毎月25日の更新です。
 ・スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
 ・森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。
 ・光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は毎月30日の更新です。
 ・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
  同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」と合わせお読みください。
  「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
 ・中村茉貴のエッセイ「美術館に瑛九を観に行く」は随時更新します。
 ・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」英文版とともに随時更新します。
 ・深野一朗のエッセイは随時更新します。
 ・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
 ・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は終了しました。
 ・荒井由泰のエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は終了しました。
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 ・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイや資料を随時紹介します。
 ・「オノサト・トシノブの世界」は円を描き続けた作家の生涯と作品を関係資料や評論によって紹介します。
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土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
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