石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」番外編─2
展覧会『Reflected; 展覧会ポスターに見るマン・レイ』
2016年11月7日(月)〜12月16日(金)
京都工芸繊維大学 美術工芸資料館2階展示室
石原輝雄
これまでに集めたマン・レイの展覧会ポスターに焦点を当てた展示をすることになった。会場は京都駅から地下鉄烏丸線で17分、松ヶ崎駅下車徒歩9分にある京都工芸繊維大学の美術工芸資料館。同館は浅井忠、武田五一などの創設時教授がもたらしたデザイン教育の教材を核として充実させた世紀末から第一次世界大戦期に至るポスターや、村野藤吾の建築資料などの収集・研究・展示で特に知られている。黒い壁面が特徴的な二階の会場からは虹のモニュメント越しに比叡山が望まれ、北側の山には「妙法」の火床、8月16日のざわめきが、冬の季節には嘘のように寒い。
展覧会は、京都市内で催されたあるレセプションで、関係者と交わした何気ないやり取りが発端だったが、今回の場合も、わたし的にはお酒の援護射撃を受けての出来事だった。
高野川(2016年2月)
京都工芸繊維大学美術工芸資料館
展示室から; 虹のモニュメントの後方に比叡山を望む
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さて、コレクションをしているポスターは1954年にパリ6区のフュルステンベル画廊のものが一番古く、作家の死(1976年11月)をはさんで、最近の国際的な回顧展までのおよそ150枚。熱心に集めて38年が経った。展覧会のポスターはマン・レイの作家活動を直接的に跡づける貴重なアイテムで、多くの場合は会期が終わると処分され、残されることがない。「自伝作家」であるマン・レイの仕事に迫ろうとした時、何時、何処で、どんな展覧会があったのか、誰が企画し何が展示されていたのかを追跡するのは極めて重要だと思う。カタログや案内状も、これを物語ってくれるけれど、壁面に掲示されたポスターは、「歩く人」にとって、特に重要だと思われる。少なくともわたしには影響力が強い──ポスターの前に立つと、何故か血が騒いでしまうのである。
フュルステンベル画廊(1954年)
エスポジツィオーニ宮殿(1975年)
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展示品は会場スペースの関係で、約60枚にしぼられたが、時代と地域によってデザインが変化しているのを、改めて感じた。作家の選択による生前の展覧会は別として、1980年代以降の国際的な再評価の動きの中で、展示品から選ぶイメージが国によって変わる事や、『聖職のヴィーナス』『桃風景』『イジドール・デュカスの謎』などの場合に顕著である画面処理の変化を知るのは刺激的である。マン・レイの場合にも当てはまるが、物故作家の展覧会は、同じような作品が数年間隔で世界を巡回する為に、目新しさに欠ける。しかし、組織する企画者の力量によって、時代状況や問題意識が明確に打ち出された場合には、作家が今も生きているような感覚を味わう事ができる。そして、これを明確に示すのが展覧会を告知するポスターの役割であり、デザイナーの解釈・表現力が試される機会ともなる。さらに加えるならば、展示された場所の気配が濃厚に現われるのもポスターの性格で、フランスのエスプリやイタリのモダン、ドイツのバロック的気配、アメリカの金権主義、日本の潔癖症といったものを指摘するのも可能であるだろう。こうした、ポスターを入手する度に感じていたものを、展覧会場で一同に並べ、相互に見比べながら確認出来るのは、コレクターとしても研究者(自身でこう称するのは躊躇するけど)としても有り難い。
出来上がってきた同大学の美馬智氏によるポスターを見ていると、2016年京都でのマン・レイ解釈が判る。光のイメージはマン・レイに固有のもので、「f」を強調させたことで代表作「アングルのヴァイオリン」を想起させてくれるし、カメラや暗室の空間で、暗と明、右と左の反転が作品を生み出す様子を理解させてくれる。さらに、紙面端がフイルムのノッチに見え、鏡の側か現実の側のどらを見ているのか、戸惑わせるインパクトに包まれている。タイポグラフだけのポスターには、ウイーンの画廊(1990年)のものがあるが、このアプローチは、几帳面で日本的である。
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京都工芸繊維大学美術工芸資料館(2016年)
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今回の展覧会は、国立国際美術館でのマルセル・デュシャン展(2004年)のキュレーターであった平芳幸浩准教授の担当で行われる企画で、題して『Reflected; 展覧会ポスターに見るマン・レイ展』 会期中の12月3日(土)13時より、関西シュルレアリスム研究会と共同で、「マン・レイとシュルレアリスム」をめぐる公開研究会が行われ、特別講師としてトリスタン・ツァラの研究で知られる早稲田大学の塚原史教授が上洛。俊英の研究者である木水千里、河上春香両氏と詩人松本和史氏の発表も予定されていると聞く(尚、聴講は無料であるが事前申し込み制となっている)。
展覧会の様子などは改めて報告させていただきたいと思うので、楽しみにお待ちいただきたい。
(いしはらてるお)
●今日のお勧め作品はマン・レイです。
マン・レイ
「釣人の偶像」
1926年/1975年
ブロンズ
H20.8x4.4x4.4cm
Ed.1000
マン・レイの刻印あり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
展覧会『Reflected; 展覧会ポスターに見るマン・レイ』
2016年11月7日(月)〜12月16日(金)
京都工芸繊維大学 美術工芸資料館2階展示室
石原輝雄
これまでに集めたマン・レイの展覧会ポスターに焦点を当てた展示をすることになった。会場は京都駅から地下鉄烏丸線で17分、松ヶ崎駅下車徒歩9分にある京都工芸繊維大学の美術工芸資料館。同館は浅井忠、武田五一などの創設時教授がもたらしたデザイン教育の教材を核として充実させた世紀末から第一次世界大戦期に至るポスターや、村野藤吾の建築資料などの収集・研究・展示で特に知られている。黒い壁面が特徴的な二階の会場からは虹のモニュメント越しに比叡山が望まれ、北側の山には「妙法」の火床、8月16日のざわめきが、冬の季節には嘘のように寒い。
展覧会は、京都市内で催されたあるレセプションで、関係者と交わした何気ないやり取りが発端だったが、今回の場合も、わたし的にはお酒の援護射撃を受けての出来事だった。



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さて、コレクションをしているポスターは1954年にパリ6区のフュルステンベル画廊のものが一番古く、作家の死(1976年11月)をはさんで、最近の国際的な回顧展までのおよそ150枚。熱心に集めて38年が経った。展覧会のポスターはマン・レイの作家活動を直接的に跡づける貴重なアイテムで、多くの場合は会期が終わると処分され、残されることがない。「自伝作家」であるマン・レイの仕事に迫ろうとした時、何時、何処で、どんな展覧会があったのか、誰が企画し何が展示されていたのかを追跡するのは極めて重要だと思う。カタログや案内状も、これを物語ってくれるけれど、壁面に掲示されたポスターは、「歩く人」にとって、特に重要だと思われる。少なくともわたしには影響力が強い──ポスターの前に立つと、何故か血が騒いでしまうのである。


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展示品は会場スペースの関係で、約60枚にしぼられたが、時代と地域によってデザインが変化しているのを、改めて感じた。作家の選択による生前の展覧会は別として、1980年代以降の国際的な再評価の動きの中で、展示品から選ぶイメージが国によって変わる事や、『聖職のヴィーナス』『桃風景』『イジドール・デュカスの謎』などの場合に顕著である画面処理の変化を知るのは刺激的である。マン・レイの場合にも当てはまるが、物故作家の展覧会は、同じような作品が数年間隔で世界を巡回する為に、目新しさに欠ける。しかし、組織する企画者の力量によって、時代状況や問題意識が明確に打ち出された場合には、作家が今も生きているような感覚を味わう事ができる。そして、これを明確に示すのが展覧会を告知するポスターの役割であり、デザイナーの解釈・表現力が試される機会ともなる。さらに加えるならば、展示された場所の気配が濃厚に現われるのもポスターの性格で、フランスのエスプリやイタリのモダン、ドイツのバロック的気配、アメリカの金権主義、日本の潔癖症といったものを指摘するのも可能であるだろう。こうした、ポスターを入手する度に感じていたものを、展覧会場で一同に並べ、相互に見比べながら確認出来るのは、コレクターとしても研究者(自身でこう称するのは躊躇するけど)としても有り難い。
出来上がってきた同大学の美馬智氏によるポスターを見ていると、2016年京都でのマン・レイ解釈が判る。光のイメージはマン・レイに固有のもので、「f」を強調させたことで代表作「アングルのヴァイオリン」を想起させてくれるし、カメラや暗室の空間で、暗と明、右と左の反転が作品を生み出す様子を理解させてくれる。さらに、紙面端がフイルムのノッチに見え、鏡の側か現実の側のどらを見ているのか、戸惑わせるインパクトに包まれている。タイポグラフだけのポスターには、ウイーンの画廊(1990年)のものがあるが、このアプローチは、几帳面で日本的である。
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今回の展覧会は、国立国際美術館でのマルセル・デュシャン展(2004年)のキュレーターであった平芳幸浩准教授の担当で行われる企画で、題して『Reflected; 展覧会ポスターに見るマン・レイ展』 会期中の12月3日(土)13時より、関西シュルレアリスム研究会と共同で、「マン・レイとシュルレアリスム」をめぐる公開研究会が行われ、特別講師としてトリスタン・ツァラの研究で知られる早稲田大学の塚原史教授が上洛。俊英の研究者である木水千里、河上春香両氏と詩人松本和史氏の発表も予定されていると聞く(尚、聴講は無料であるが事前申し込み制となっている)。
展覧会の様子などは改めて報告させていただきたいと思うので、楽しみにお待ちいただきたい。
(いしはらてるお)
●今日のお勧め作品はマン・レイです。

「釣人の偶像」
1926年/1975年
ブロンズ
H20.8x4.4x4.4cm
Ed.1000
マン・レイの刻印あり
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