石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」番外編─2-2

『マン・レイへの廻廊』

展覧会『Reflected; 展覧会ポスターに見るマン・レイ』
    2016年11月7日(月)〜12月16日(金)
    京都工芸繊維大学 美術工芸資料館2階展示室


manray27-1北山通り

manray27-2京都工芸繊維大学美術工芸資料館

石原輝雄


2-2-1 展示準備

11月4日(金)、美術工芸資料館(京都工芸繊維大学)での展示作業に立ち合った。地下鉄を松ヶ崎で降り北山通りに上がると紅葉が始まっている。東寺の五重塔の先端が北山通りと云う高低差から、この辺りは京都市内でも秋が早く、大学の木々も黄色く美しい。展示室に入ると、ほとんどのポスターのパネル貼り込みが済んでおり、仮り置きされている。担当のH氏とシートの状態や全体とのバランスから展示品の最終調整。そして、各室で国別、開催年度順を基本にしつつ、視覚効果を考慮し展示位置を決定。パネルの高さはセンター合わせの140cmで等間隔、国毎の境は広くとってメリハリをつけ決定。国や時代によるポスターの変遷が判りやすい展示になったと思う。後は専門家の作業に任せ、早めの昼休憩をとりに学食のオルタスへ。そして、H氏とデュシャンやマン・レイをからめての世間話。学生達の表情を見ていると、光に包まれた空間に、希望があればと願う。── この日の作業は順調に進み3時頃に終了。会場を回りながら「我が愛しのマン・レイ」の細部を確認すると、入手した日の事柄が浮かぶ、思えば遠くへ来たものだ。

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manray27-6オルタス

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manray27-7展示準備

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2-2-2 マン・レイへの廻廊

11月8日(月)、午前中に仕事を済ませ、急いで松ヶ崎へ向かう。美術工芸資料館のエントランスには展覧会の垂れ幕、二階会場正面には白い文字で「Reflected IMAGES OF MAN RAY IN POSTERS」── インパクトのある洒落た導入部となっている。廻廊で繋がれた3箇所の展示室は、全て黒色の壁面で、シートを挟むパネルも黒。ここに照明を当てるとイメージが光り輝いて現れる。洞窟でイコンと出会う感覚に近いと言えようか。

最初の展示室は「フランス」で、1954年のフルステンベール画廊から1981年にポンピドー・センターで開かれた大回顧展までの17シート。ニースのロヴレリオ画廊を除くと開催地はパリに限定される結果となった。ほとんどのシートがマン・レイ存命中の個展のものなので、作者自身の好みや戦略から選んだイメージが並び、注目に値する。学芸員やデザイナーの解釈以前の、生身のマン・レイが展示室に居る、部屋には眼を閉じたまま入り、中でゆっくり瞼を開けてもらいたい。心の解像力がアップしたのは、わたしだけでは無いと思うのだけど。

manray27-10京都工芸繊維大学美術工芸資料館

manray27-11会場正面

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展示室1: フランス

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manray27-15第一の廻廊

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 美術工芸資料館二階の展示室の二つは、一片が斜めになった四角形で違和感が残る空間なのだが、光を上手く遮断し、次の展示室への廻廊を魅力的にしている。扉で塞がれていない展示室2(長方形で一番広く26点展示)に向かうと、『天文台の時間──恋人達』を使ったミラノ市立美術館のシートが、暗闇から浮かびあがっている。70年代アメリカのPOPなエロティシズムと、スイスやイタリアのデカダンな魅力が交差して、この部屋も見応えがある。── 展示室毎に平芳幸浩准教授が適切な解説を示しておられるので、ご確認願いたい。

展示室2: アメリカ、ヨーロッパ諸国、オーストラリア

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manray27-19第二の廻廊 詩人・谷川俊太郎氏旧蔵のラジオコレクションが置かれている。

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 最後の展示室には日本の画廊や美術館のシート16点を飾った。この中には、わたしが1983年に京都のR画廊で開催したコレクション展の折に作った(わたしのデザインです)シートが含まれていて、マン・レイの未亡人ジュリエットに贈って喜んでいただいた事を思い出す。我が国での1981年から2010年のポスターを通観すると、マン・レイの受容に関する統一感や進展のなさを感じるが、総じてセゾン系(高輪美術館、セゾン美術館、セゾン現代美術館)のものは魅力的である。


展示室3: 日本

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 一階展示ホールを眼下に囲んでめぐる3箇所の展示室。洞窟のような暗闇から浮かびあがって輝くイメージは、マン・レイのイコンであり、廻廊の様々な角度から観る事の出来る表情は、ミーノータロウスに捧げられた生贄の少年や少女であるように思われる。赤い糸玉を渡される事なく迷宮に入ってしまったわたしが、38年の後まで生きてこれたのはマン・レイの慈悲、いやいや、迷宮の大きさ故に見付かっていないと解釈すべき事柄。今日も片手を壁から離すことなく、ゆっくり進んでおります。

 さて、展覧会の報告に多くの写真を提供させていただいた。本来は先入観なく御高覧いただいた方々それぞれの視点でポスターと時代、マン・レイ受容の国柄による差異を感じて欲しいところですが、お許しください。── わたしには、このように見えているのです。

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 展覧会に関連して12月3日(土)13時から美術工芸資料館で「マン・レイとシュルレアリスム」と題するシンポジウムが催されます。出演者4名のテーマは、塚原史「マン・レイ─ダダ・シュルレアリスムの越境者」、松本和史「レイヨグラフ作品を起点とした即興のパフォーマンス」、河上春香「チェコ・アヴァンギャルドの中のマン・レイ─プラハからの眼差し」、木水千里「「私は近作を描いたことがない」─1966年のアメリカでの大回顧展からみるマン・レイの晩年」と予定されており、関西シュルレアリスム研究会との共同開催なので、多様な視点で盛り上がる討論を期待したい。尚、シンポジウム聴講には事前申し込みが必要となっているので、聴講希望の場合は、参加者の氏名を記したメールを美術工芸資料館宛(sympo123@jim.kit.ac.jp)にお送りいただきたい。

(いしはらてるお)

◆石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」目次
第1回「アンナ 1975年7月8日 東京」
第1回bis「マン・レイ展『光の時代』 2014年4月29日―5月4日 京都」
第2回「シュルレアリスム展 1975年11月30日 京都」
第3回「ヴァランティーヌの肖像 1977年12月14日 京都」
第4回「青い裸体 1978年8月29日 大阪」
第5回「ダダメイド 1980年3月5日 神戸」
第6回「プリアポスの文鎮 1982年6月11日 パリ」
第7回「よみがえったマネキン 1983年7月5日 大阪」
第8回「マン・レイになってしまった人 1983年9月20日 京都」
第9回「ダニエル画廊 1984年9月16日 大阪」
第10回「エレクトリシテ 1985年12月26日 パリ」
第11回「セルフポートレイト 1986年7月11日 ミラノ」
第12回「贈り物 1988年2月4日 大阪」
第13回「指先のマン・レイ展 1990年6月14日 大阪」
第14回「ピンナップ 1991年7月6日 東京」
第15回「破壊されざるオブジェ 1993年11月10日 ニューヨーク」
第16回「マーガレット 1995年4月18日 ロンドン」
第17回「我が愛しのマン・レイ展 1996年12月1日 名古屋」
第18回「1929 1998年9月17日 東京」
第19回「封印された星 1999年6月22日 パリ」
第20回「パリ・国立図書館 2002年11月12日 パリ」
第21回「まなざしの贈り物 2004年6月2日 銀座」
第22回「マン・レイ展のエフェメラ 2008年12月20日 京都」
第23回「天使ウルトビーズ 2011年7月13日 東京」
第24回「月夜の夜想曲 2012年7月7日 東京」
番外編「新刊『マン・レイへの写真日記』 2016年7月京都」
番外編─2『Reflected; 展覧会ポスターに見るマン・レイ』
番外編─2-2『マン・レイへの廻廊』
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●今日のお勧め作品はマン・レイです。
ray_10_banzyou板上の影
1972年
イメージサイズ:46.0×36.0cm
額装サイズ:67.5×87.0cm
E.A.
Signed

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2016年 小学館  322頁
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