スタッフSの「港千尋×frgm」ギャラリートーク・レポート

読者の皆様こんにちわ。木枯らしとビル風が吹き荒ぶ年の暮れ、着膨れする周囲を尻目に年中同じYシャツチノパン姿で出歩いております、スタッフSこと新澤です。身内に「見てる方が寒い」と文句を言われることはあるものの、諸悪の根源は都心交通の過剰暖房にあると断固主張させていただく所存です。

そのようなどうでもいい主義主張はさておきまして、本日の記事では「ルリユール 書物への偏愛―テクストを変換するもの―」展の最終日11月19日(土)に開催された、写真家・著述家の港千尋先生を招いてのギャラリートークを紹介させていただきます。

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ルリユール展GT_01トーク前に作品を見て回る港千尋先生

前回の「光嶋裕介新作展 ~和紙に挑む~ 幻想都市風景」のギャラリートークでお招きした松家仁之さんは初対面でしたが、今回ご来廊いただいた港千尋先生も展示作家である造本作家グループLes fragments de M(略称frgm)の皆様のご要望でお招きしたものの、亭主はじめ画廊スタッフとはギャラリートーク当日が初顔合わせでした。

ルリユール展GT_02恒例行事・亭主の前語り。
今回のお題は港先生の著書にパリの版画工房が登場することから、日本の石版画について。

トークはまずは港先生とfrgmの皆さんの紹介から始まったのですが、多摩美術大学美術学部情報デザイン学科教授、第52回ヴェネチア・ビエンナーレ美術展日本館の展示企画コミッショナー、あいちトリエンナーレ2016の芸術監督を務め、写真家・評論家して多彩な活動をされる港先生もさることながら、frgmの皆さんもインターネットも普及していない時代に気持ち一つで異国の地に飛び立ち、言葉の壁に苦労されながらも技術を身に着けられた方ばかりで、かつてフランスに住みながらもフランス語に恐れをなして英国の全寮制学校に逃げ込んだ身としては、その熱意には脱帽する他ありませんでした。

トークの本題は港先生が長らく取り組んできた「記憶」というキーワードを基に語っていただき、亭主が前語りで挙げたパリ14区の石版画工房の話から、閉鎖前の国立印刷所の見学で見ることができた印刷の歴史、その風景を写した写真集の中で触れた日本の活字の話から、大日本印刷で日本活字のルーツ的存在である秀英体の活版印刷部門に招かれたことなどを始め、フランス国立印刷所の仕事の一つにルリユールの制作があることや、美術品と言っていい制作過程や結果を持ちながら、それ以外の「記憶」である書籍というものがなければ成り立たない特異性について等々、最後には来場者の方々からの質問にも密にお答えいただき、非常に濃い時間をご提供いただきました。

ルリユール展GT_04トーク後の懇親会。ときの忘れもの初の製本の展覧会でしたが、遠方からのお客様も多く、今後の展開を期待させる内容でした。

ルリユール展GT_05二次会ではご来場いただいた和光大学の三上豊先生や建築評論家の植田実先生も交えて増々会話が弾み、楽しい一時でございました。

ルリユール展GT_03トーク後恒例の集合写真。

(しんざわ ゆう)

■港 千尋(みなと ちひろ 1960年9月25日~)
神奈川県藤沢市出身の写真家・写真評論家(著述家)。多摩美術大学美術学部情報デザイン学科教授。フランス在住。「群衆」「移動」などをテーマに写真を撮りながら、多彩な評論を行う。2007年6〜11月、イタリアで行われたヴェネツィア・ビエンナーレでは、日本館コミッショナーを務めた。2014年8月1日には、あいちトリエンナーレ2016の芸術監督に就任。タスマニアの美術館、Museum of Old and New Art監修。
2006年〈市民の色〉で伊奈信男賞受賞。2007年第52回ヴェネチア・ビエンナーレ美術展における日本館の展示企画コミッショナーに就任。著書に『記憶――創造と想起の力』(講談社、サントリー学芸賞)、『第三の眼』(廣済堂出版社)、『遠心力』(白水社)、『自然 まだ見ぬ記憶へ』(NTT出版)、『洞窟へ――心とイメージのアルケオロジー』(せりか書房)、『影絵の戦い』(岩波書店)、写真集『瞬間の山』、『文字の母たちLe Voyage Typographique』(インスクリプト)、『In-between2 フランス、ギリシャ』(EU・ジャパンフェスト日本委員会)など多数。

本日の瑛九情報!
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今回の近美の瑛九展は作家のデビューした前後の1935年から1937年のフォトデッサン、コラージュに焦点をあてた展示ですが、晩年の点描作品も出品されています。
近美瑛九「田園」左から「田園 1959」「午後(虫の不在) 1958」「青の中の丸 1958」「れいめい 1957」
写真がピンボケですいませんが、中でも見ごたえがあるのが左端の120号の大作・油彩「田園」。
かつては私たちの画廊で展示したこともある最晩年の傑作です。

この「田園」は近美の所蔵ではなく寄託作品で、所有者はあの「なんでも鑑定団」に出演したKさんです。~~~
瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で始まりました(11月22日~2017年2月12日)。ときの忘れものは会期終了まで瑛九について毎日発信します。