2016年のあれこれを、今日と明日の二回で振り返ります。
今年は画廊では、中藤毅彦、オクヤ・ナオミ、光嶋裕介の三作家の個展、恩地孝四郎、浮田要三、ルイーズ・ニーヴェルスン、菅井汲の物故4作家の作品展、「山口長男とM氏コレクション展」など8回のアンソロジー、計15回の展覧会のほか、大野幸さんプロデュースによる「ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサート」を4回開催しました。
アートフェアへの出展も今までのうちで一番多く、シンガポール、東京、釜山、ジャカルタ、福岡、ソウル、台北と7都市への参加でした。さすがにこの頻度にはスタッフが音を上げ、来年はもう少し控えめに・・・・と亭主は反省しております。

◆「中藤毅彦写真展 Berlin 1999+2014」
2016年1月6日[水]~1月16日[土]
中藤毅彦ギャラリートーク1月9日(土)には写真史家の金子隆一さんと中藤毅彦さんによるギャラリートークを開催しました。


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写真家中藤さんの個展で始まった2016年でしたが、お正月早々に届いたのが美術評論家ヨシダ・ヨシエ先生の訃報でした。
200703細江展12007年3月「細江英公展」にて
左から、ヨシダ先生、細江英公先生、社長。
帽子に着流し姿で銀座を歩く姿はいかにもダンディでしたが、反骨を貫いた生涯でした。
没後ご遺族の依頼で遺品の整理をお手伝いしましたが、重要な資料文献はアメリカに渡ることになりました。
その経緯については和光大学の三上豊先生が『ヨシダ・ヨシエへの手がかり』としてまとめています。

連載開始(第1回)以来、何かと話題を呼んだ笹沼俊樹さんのエッセイ「現代美術コレクターの独り言」が 第21回でひとまず休載となりました。以後もご自分が記録した詳細な日記をもとに誰も知らない現代美術のエピソードを書きためておられます。一日も早い復活を願うばかりです。

今年はいくつか展覧会のお手伝いもしました。
尊敬する師匠の上田浩司さんのMORIOKA第一画廊での「元永定正展」、ときの忘れものが一軒家の時代からのご贔屓である平井勝正さんの新宿・ポルトリブレでは「日和崎尊夫展」、そしてメカスファンのトゥルーリさんの企画で東京・白金のOFS Galleryで「ジョナス・メカスと幸せのかけら」展が開催されました。

創作版画は亭主の原点ですが、神戸まで行って兵庫県立美術館で見た「奇想の版画家 谷中安規展 蔵出し! M氏コレクション」は(少し言わずもがなのことを書いてしまいましたが)忘れがたい好企画でした。
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◆「ART STAGE SINGAPORE 2016」(シンガポール)
2016年1月21日[木]~1月24日[日]
出品作家:葉栗剛、長崎美希、秋葉シスイ、常松大純、安藤忠雄、ル・コルビュジエ、光嶋裕介、草間彌生、ナム・ジュン・パイク
シンガポール2初めて社長と亭主も参加(このときは元気でした)。作家の葉栗剛さん、長崎美希さん、秋葉シスイさんたちと気持ちの良い時間を過ごすことができ、地元のニュースサイトにも紹介され、成果も上々でした。

シンガポール

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National Gallery Singaporeの屋上からの眺め。正面の舟がのっかったような3本ビルがフェアの会場です。

長年親しんだ神奈川県立近代美術館・鎌倉館が遂に閉館となったのも今年の大きな話題でした。さようならカマキン、社長は学生時代の仲間たちと最後のお別れに。
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◆「恩地孝四郎展」
2016年2月6日[土]~2月20日[土]
20160212恩地展ギャラリートーク_172月12日(金)に千葉市美術館主任学芸員の西山純子さんによるギャラリートークを開催しました。

亭主にとって2016年最大のショックは東京国立近代美術館の「恩地孝四郎展」でした。いかに自分が画商として卑小な存在かを痛いほど感じさせられた大、大、大展覧会でした。半分愚痴ともつかぬ感想を繰り返し書いたのも今となってはお恥ずかしい限りですが、消すこともままならない・・・・・(2016年2月7日、2月9日、2月12日、2月21日)。
開催に尽力された近美の松本透先生はじめ関係者には心より敬意を表します。間違いなく今年のBest 1でした。生きているうちにあれだけの恩地作品を眼にすることができ、亭主は本望です。

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建築史上重要な建物や、60年代の熱気を伝えるモニュメントなどが次々と壊されていっています。靉嘔と池田満寿夫による「金沢八景ビル」の壁画が解体されてしまったのも残念なニュースでした。

2月27日にツァイト・フォトの石原悦郎さんが亡くなられました。石原さんがツァイトを起こした1978年に私たちの機関誌に掲載したインタビューを再録しましたが、聞き手は柳正彦さんです(まだ学生、後に渡米、クリストの助手となる)。
parco73石原悦郎、アラーキ石原悦郎さん(左)と荒木経惟さん
1983年6月7日
渋谷パルコ「アンディ・ウォーホル展」オープニング

ときの忘れものの近くで執り行われた葬儀ではたくさんの方がその死を悼み、飯沢耕太郎さんには急遽追悼文をお願いしました。
その後、秋に刊行された『写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン』の著者粟生田弓 さんには著者からのメッセージを寄稿していただきました。

スペインで活躍する根岸文子さんから日本大使公邸で個展開催という嬉しい便りをいただきました。
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◆「アートブックラウンジ Vol.1 版画挿入本の魅力」
同時開催「文承根展」

2016年3月9日[水]~3月17日[木]
06壁面には文承根の版画作品10点を展示しました。
今年の夢は先ず「好きな本」を画廊に展示すること、そして「音楽」でした。本の舞台に誂えた特注本棚、通称モンドリアン本棚は仙台の小林さんの労作です。

アートブックラウンジ_1

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●ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサート
第1回「独奏チェロによるJ.S.バッハと現代の音楽~ガット(羊腸)弦の音色で~」

2016年3月19日[土]
20160319コンサート_出演:富田牧子(チェロ)、木田いずみ(歌)
プロデュース:大野幸
壁面には曲目に合わせてジョン・ケージなど。
木造で天井高5mの画廊空間は音響がいい、亭主の第二の夢、ここでプロの音楽家に他ではできないようなプログラムで演奏してもらいたい。
ちゃんとしたプロデューサーに依頼して、年間通してのプログラムを組んでもらう、そんな夢にうかうかと乗ってしまったのが建築家で学生時代からヴァイオリンを弾いている大野幸さん。磯崎アトリエOBで亭主とは長年の付き合いです。
ところが記念すべき第一回のコンサートに大野さんは仕事で海外、言いだしっぺの亭主は病院のベッドでうんうん唸っていました。
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◆「2016春のコレクション展」
2016年3月19日[土]~4月2日[土]
出品作家:ジョン・ケージ、内間俊子、内間安瑆、高橋大輔、他
春のコレクション展ときの忘れものの展示にしては妙に寒々しい(笑)、いえ作品はそれぞれ一級品であります。
3月12日早朝、事故に遭った亭主は救急車で運ばれ二週間入院していました。
間の悪いことに海外からの賓客との商談など予定されていた営業スケジュールはすべてキャンセル、売上げ激減で、一時はどうなることかと社長は小さな胸を痛めていたようです。
ノーテンキな亭主にとってはこのブログの「毎日更新」が途切れることの方が心配でしたが、強力豪華執筆陣のおかげで、産休中の大番頭すら亭主の入院には気づかなかったらしい。

春のコレクション展_

ブログは幾つかの長期連載が終了し、笹沼さんのエッセイも休載になりピンチ。退院したばかりの亭主は病院通いとリハビリの日々でパソコンすら打てない。
救世主は夜野悠さんと杉山幸一郎さんのお二人。新たに始まった「書斎の漂流物」第1回と、「幸せにみちたくうかんを求めて」第1回は大好評で、アクセス急上昇でした。

夜野さんは京都の石原輝雄さんのご紹介ですが、実はいまだにお目にかかっておりません。

杉山さんはむかしスイスのアートフェアに出展した折に知り合ったときはまだ学生さんでした。一時帰国したあと再び渡欧し、ピーター・ズントーの事務所に入った俊英です。スイスから送られてくる瑞々しい文章と写真が毎回楽しみです。
img_02

アルマンド ルイネッリさんのアトリエ、
杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第6回 アルプスのモダニストより
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◆「浮田要三展」
2016年4月8日[金]~4月23日[土]
07具体メンバーだった浮田要三の大作など7点を展示しました。
大阪のまだ会ったこともないHさんという女性から浮田アトリエ存続への協力を請われたことがありました。そのときは何のお手伝いもできなかったのですが、ご遺族から代表作を譲っていただき初めて浮田先生の作品展を開くことができました。
生前の作家をよく知る河﨑晃一さんに「浮田要三展に寄せて」を執筆していただきました。

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◆「オクヤナオミ展」
2016年5月10日[火]~5月28日[土]
04_オクヤ・ナオミのパリ時代の大作6点をご覧いただきました。
オクヤさんはむかしから版画を扱っていたのですが、HPを見た海外の方からタブローが欲しいとリクエストがあり、それがきっかけで油彩も扱うことになりました。

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◆「アートフェア東京2016」
2016年5月11日[水]~5月14日[土]
アートフェア東京
出品作家:瑛九、松本竣介、瀧口修造、野田英夫、関根伸夫、ゴッタルド・セガンティーニ、ハインリッヒ・フォーゲラー、恩地孝四郎、ピエト・モンドリアン、セルジュ・ポリアコフ、オノサト・トシノブ

ArtFairTokyo16_12関根伸夫の作品をはさんで高橋龍太郎さんと。
今年駄目ならもう止めよう、とまで思っていたのですが今回はやっと成果を挙げることができました。
来年も出展します。

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◆「ART BUSAN 2016」(釜山)
2016年5月19日[木]~5月23日[月]
出品作家:秋葉シスイ、野口琢郎、瀧口修造、小野隆生、葉栗剛、長崎美希、フランク・ロイド・ライト、安藤忠雄、磯崎新、ル・コルビュジエ、光嶋裕介、瑛九、マン・レイ、吉原治良、浮田要三、松谷武判、草間彌生、ナム・ジュン・パイク、文承根
RIMG0923_600初めて出展しましたが、なんとも後味の悪いフェアでした。
張り切って広いブースを確保し、作家の皆さんと参加したのですが、事務局の不誠実、お粗末さにはあいた口が塞がりませんでした。
もう二度と出るつもりはありませんが、最大の収穫はIさんという素晴らしい通訳(結婚されて釜山に在住の日本人女性)に巡り会えたことでした。言葉の壁をどう乗りこえるかがフェアの鍵です。秋のソウルのフェアにはIさんに無理をお願いして釜山から出張ってもらいました。

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●ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサート
第2回「J.S.バッハへ~チェロとギターによるソロとデュオ」

2016年5月27日[金]
RIMG1069出演:富田牧子(チェロ)、塩谷牧子(ギター)
プロデュース:大野幸
プーランクやコダーイなど<20世紀以降の優れた曲の数々を、18世紀ドイツ・バッハの曲で挟むサンドイッチのような構成のプログラム>を組んだプロデューサーの大野さん。傷なお癒えない亭主も束の間楽しいひとときを過ごすことができました。

ギャラリーコンサート2

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◆「アートブック・ラウンジVol.2~画廊のしごと(南画廊のカタログ)」
同時開催「ここから熊本へ~地震被災者支援展」

2016年6月14日[火]~6月25日[土]
05_600南画廊の志水楠男さんにはとてもお世話になりました。
東京画廊と異なり、毎回毎回違ったデザイン、サイズでカタログをつくるのが志水さんの流儀でした。
亡くなられた後、ご遺族からカタログをまとめて譲っていただいたこともあり、いつか志水さんが作ったカタログを南画廊の作家たちの作品とともに展示したいと思っていました。

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4月14日夜、熊本地方など九州を襲った大地震は否応なく3.11を思い出させました。
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被害の大きかった熊本県益城町

私たちの画廊は吹けば飛ぶような超零細企業です。
それでも多くのお客様に支えられ何とか生きていますが、画廊は平和な時代、安全な社会だからこそ成り立つ商売です。今まで<中村哲医師とペシャワール会を支援するチャリティ・オークション>、<東日本大震災復興支援>、<NYジャパン・ソサエティのベネフィット・オークション>など、作家とお客様の協力を得て、ささやかな支援を続けてきました。
今回も少しでもお役にたてたらと、私たちのコレクションを提供し、頒布しました。
従来と同様、売上金総額634,500円は、一番被害の大きかった益城町でお年よりや子供たちのケアに尽力されている木山キリスト教会に400,000円を、熊本市の城下町の風情を残す唐人町で被災した築100年の商家の西村家の復興資金に234,500円を、それぞれ送金いたしました。

今年の近美は凄いですね。新春の「恩地孝四郎展」といい、6月の「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」といい、ナショナル・ミュージアムの見識と誇りをかけての意欲的な展覧会がつづきます。
20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_282016年6月6日近美にて、
吉増剛造ご夫妻。
2009年9月にお願いしたジョナス・メカス展のギャラリー・トークは忘れがたいものでした。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_12思いもかけず戸張孤雁「唱える女」に会うことができ、感無量。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_10戸張孤雁「煌めく嫉妬」の原型はむかしギャラリー方寸で展示したことがあります。
この日は吉増剛造、松本竣介、そして戸張孤雁をたっぷり楽しんできました。


6月18日(土)~7月18日の会期で開催された福井の「野田哲也展」にも少しお手伝いさせていただきました。開催に尽力されたのは長年野田作品をコレクションしているアートフル勝山の会の荒井由泰さんです。
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ここまでが2016年前半の回顧。
後半(7~12月)は明日のブログで。

本日の瑛九情報!
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qei_140_work瑛九
《(作品)》
フォトデッサン
40.8×31.9cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

瑛九の展覧会は21世紀に入ってからだけでも、渋谷区立松涛美術館(2004)、国立国際美術館(2005)、筑波大学(2010)、宮崎県立美術館・埼玉県立近代美術館・うらわ美術館(2011)、栃木県立美術館(2014)などで開催。人気なのです (【公式】東京国立近代美術館 広報 ‏@MOMAT60th ・ 11月19日 twitterより)と近美の企画者がつぶやいていますが、先日書いたとおり没後の瑛九展示の先鞭をつけたのが国立近代美術館でした。
今までに瑛九回顧、関連の展覧会を開いた美術館は国立近代美術館はじめ、本間美術館、国立国際美術館、宮崎県総合博物館、宮崎県立美術館、埼玉県立近代美術館、伊丹市立美術館、都城市立美術館、町田市立国際版画美術館、北九州市立八幡美術館、北九州市立美術館、梅田近代美術館、兵庫県立近代美術館、和歌山県立近代美術館、福岡市美術館、入善町下山芸術の森発電所美術館、下関市立美術館、山中湖美術館、大川美術館、宮崎・森の空想ミュージアム、千葉県立美術館などなど。
ほぼ数年おきに回顧展が開催されるというようなことは他の抽象画家では例がありません。
瑛九畏るべし。~~~
瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で開催されています(11月22日~2017年2月12日)。外野応援団のときの忘れものは会期終了まで瑛九について毎日発信します。

●ときの忘れものは2016年12月28日(水)~2017年1月16日(月)まで冬季休廊です。
いつもより長い冬休みですが、お正月早々、ART STAGE SINGAPORE 2017に出展するためです。
ブログは執筆者の皆さんのおかげで年中無休、年末年始も連日新鮮な情報、エッセイをお届けします。
メールやネットでのお問合せ、ご注文には1月6日より通常通り対応いたします(日曜、月曜、祝日を除く)。

◆銀座のギャラリーせいほうで「石山修武・六角鬼丈 二人展―遠い記憶の形―」が開催され、ときの忘れものの新作エディションが発表されます。
会期:2017年1月10日[火]~1月21日[土]*日・祝日休廊
201701_ISHIYAMA-ROKKAKU
主催/会場:ギャラリーせいほう
協力:ときの忘れもの
●オープニングパーティー
1月10日(火)17:00~19:00
ぜひお出かけください。