スタッフSの海外ネットサーフィン No.49
「ニューヨーク美術館巡り」
読者の皆様こんにちわ。通例であれば今月頭に開催されたart on paperのレポートを掲載する所ではありますが、今回は既に光嶋裕介さんと野口琢郎さんというお二方によりフェアのレポートは万全。今更自分が何か書いたところで蛇足にしかなりそうにありません。ですが、こんなこともあろうかと(言うわけではまったくありませんでしたが)今回は社命によりフェア終了後に自分だけ滞在を延長し、美術館巡りを4日ほど堪能させていただきましたので、そのことについて書かせていただこうと思います、スタッフSこと新澤です。
草間彌生や堀尾貞治もインスタレーションを出展したアーモリーショーのサテライトフェアであるart on paper、出展画廊の数も100以下とあって来場者数もどこまで稼げるのか…と、開始前はやや不安でしたが、光嶋さんと野口さんが書かれている通り、自分が今まで参加した中規模フェアでは体験したことがない人の入りと売り上げを記録し、サンタフェの悪夢を払拭して終わることができました。来年も是非ともまた参加したいところですが、ニューヨークは最先端の街だけあって流行り廃りが異様に激しいらしく、今後の参加についても内容は十分に吟味する必要がありそうです。
人生二度目の来訪となるニューヨーク、初めて来た時は自由の女神像とエンパイアステートビルを昇り、セントラルパークを散歩するだけで終わってしまいましたが、今回は4日の自由時間を使って満喫させていただきました。
■自由行動1日目
1週間お世話になったアパートからチェックアウトし、まず最初に向かったのは滞在先だったLower East SideにあるAnthology Film Archives。ときの忘れもので作品を取り扱い、またちょくちょく上映会を行っているジョナス・メカスが設立した映像芸術の殿堂です。自分は楽観的にここに来ればメカスさんに会えるか繋ぎを取ってもらえるだろうとお気楽に考えていたのですが、そもそもここ、午後は一般公開していませんでした。しかもメカスさんは私書箱こそここに置いていますが、訪れるのは一週間に一度あるかないかという程度、勿論閉館中に突然訪れたギャラリスト(どう見てもただの旅行者)のために連絡を取ってくれることもなく、結局日本から持ってきたお土産を職員さんに預けるだけで終わってしまいました。
Anthology Film Archives外観
自分の見通しの甘さで出鼻を挫かれましたが、気を取り直して移動を再開。最初は複数の路線が同じプラットホームに停車するせいでエラく複雑に思えたマンハッタンの地下鉄ですが、よくよく確認するとホテルまでは最寄駅から乗り換えなしで向かえることに気付き、気が楽になりました。
今回自分が宿泊したのはPaper Factory Hotelという、読んで字のごとく元々は製紙工場だった建物をホテルに改装した所で、場所はマンハッタン島の東、ロングアイランドに位置しています。自分は価格とマンハッタン島までのアクセスでこのホテルを選びましたが、中々に洒落たデザインで部屋も広々としており、快適に過ごせました。部屋に冷蔵庫がないことと、シャワーヘッドが固定式だったことだけは減点材料でしたが。
Paper Factory Hotelロビー
ともあれ無事にチェックインも終わり、荷物も部屋に押し込めて身軽なった所で早速ニューヨーク探索に出発です。ホテルを出た時点の時刻は午後2時。流石に美術館を2ヵ所巡るには時間が足りないと、この日はフランク・ロイド・ライト設計のグッゲンハイム美術館に行きました。
今日世界各地に展開し、自分の連載でもビルバオとニューヨークを取り上げたことのあるグッゲンハイム美術館。今まで話題にしておいて何ですが、実物を訪れるのは今回が初めてです。世界の近代美術を牽引する美術館、その第一印象は「以外と小っさい」と身もふたもないないものでした。
ちなみに以前の連載記事で使用した美術館の画像と、今回自分が撮影した画像を比べるとこのような感じ。
以前の記事で使用した画像
今回自分が撮影した画像
撮影技術がいかに人の認識を騙すか、大変良く分かりますね。
ともあれ木枯らしが吹きすさぶ中でいつまでも外にいるワケにもいかず、とっとと館内に入ると、外観のイメージとは正反対の広々とした空間が。
グッゲンハイムの特徴である吹き抜け構造。
ここで2013年に元永定正の《作品(水)》が展示されたのかと思うと、感慨深いです。
……自分はブログの記事で取り上げただけで何の関わりもないのですが。
2017年2月10日から9月6日まで開催中のVisionaries: Creating a Modern Guggenheim
チケットを購入して緩やかな登り坂を上ると、いきなり大量かつ大型のワシリー・カンディンスキーの油彩に迎えられ、ゴッホ、ピカソ、シャガール、ジョアン・ミロ、クロード・モネ、パウル・クレー、ジャクソン・ポロック等々、自分のような不勉強な人間でも知っている巨匠の作品が立て続けに展示されていました。勿論華々しい作品が多数ありましたが、中でも自分が気に入ったのは以下の作品(?)です。
ゴッホが1888年半ばにジョン・ピーター・ラッセルに宛てた手紙。
友人に向けて手紙を書こうと思う度、制作に気を取られてしまうと書きつつ、《種をまく人》や《少女の頭》のスケッチが描かれており、ゴッホの創作意欲の高さが窺えます。
螺旋通路の一番上からの一枚。
欧米人向けにデザインされているわりに手すりが低く、高所恐怖症の自分は下を覗き込んだ瞬間に腰砕けになってしまいました(シンガポールからまったく進歩がないですね)。この写真を撮った後は通路の外側の壁(作品展示側)に沿って下まで降りました。作品鑑賞中に前を横切ってしまった皆様、申し訳ございませんでした。
この後は他の美術館を覗くには時間が足りず、かと言って早々にホテルに引っ込むのも勿体無い。ではどうするかとボケっとセントラルパークのベンチに座り込むこと十数分。タイムズスクエアまで徒歩で行けばニューヨーク探索できて時間も潰せると結論し、レキシントン通りを延々南下してみました。


トランプ・タワー入り口。
建てた本人はあれだけ好き勝手やってるのに、よくまだ襲撃されてないなと物騒な考えが過ったり。
聖パトリック大聖堂。
スカイスクレイパーの谷間(というほどのこの建物も背は低くないですが)にこのような中世的外観の建物があるのもニューヨークならではというイメージ。
聖パトリック大聖堂の斜向かいにあるロックフェラーセンター。
日本人の悲しい習性故か、ランドマークを見るとつい撮影してしまいます。
先日訪れたばかりのタイムズスクエアに無事到着。
この日の夕食はネットで評判のハンバーガーチェーン、SHAKE SHACKに行ってみました。
結論: ネ ッ ト の 評 判 を 鵜 呑 み に し て は い け ま せ ん 。
大層な評判で行列も凄かったので味も期待したのですが、自分にしてみればかけた時間に見合うとは思えませんでした。ちなみにこのバーガーチェーン、日本にも進出しており、先日出展したアートフェア東京の会場である東京国際フォーラムと、画廊のある外苑前にも支店があります。その内こちらも行ってみようと計画中です(懲りてない)。
■自由行動2日目
前日の夜にホテル近く(徒歩10分)の大型スーパーで購入したバニラファッジ味とシナモンロール味のシリアルバーという、健康に良いのか悪いのか判断に苦しむ逸品で朝食を済ませた後、まずはフェアで内間作品を購入いただいた方へ雨が降る中作品の納品へ向かいました。フェア期間中も自由行動中も、冷え込むことはあってもずっと晴れていたというのに、作品を届けなければならないこの日、この時だけ雨でした。納品が終わって外に出たら止んでました。God damn!
気を取り直して現地在住の知人と落ち合い、韓国人街で焼肉三昧の昼食を堪能した後は、昨日のグッゲンハイムと並ぶニューヨークアートシーンの顔役、MoMAに向かいました。
西53番通りと西54番通りの間にあるMoMA。
この画像は53番通りから撮影。通りが狭くて全景は撮影できませんでした。
54番通り側の入り口。
日本の建築家・谷口吉生の設計した新館が奥に見える彫刻庭園。
残念ながら展示替え中で庭園は立ち入り禁止でした。
この時に開催していた企画展は"Francis Picabia: Our Heads Are Round so Our Thoughts Can Change Direction"。
長くて9年、短くて3年。同一作家と思えない目まぐるしいスタイルの変化で有名な作家の初期から晩年までの作品を1フロア使って展示していました。
印象派の時代(1902年-1909年)
これが
機械の時代(1915年-1924年)
これや、
透明の時代(1927年-1932年)
これを経て、
(非具象の時代)(1945年-1951年)
最後にこう。
……人の意識の変遷って凄いなぁ。
常設展の方ではグッゲンハイム同様、知った名前がズラリと並び、なるほど世界に名立たるとはこういうことかと実感させられました。そんな中で、そこここに日本人作家の名前を見つけることができ妙に嬉しく感じました。
野口琢郎さんの師事していた写真家・東松照明
アーモリーショーでのインスタレーションの他、日本とアメリカでの個展開催と衰えを知らぬ草間彌生
自分が存在した日付を淡々と記録する河原温
来月22日から町田市立国際版画美術館で個展「HANGA JUNGLE」が開催される横尾忠則
赤瀬川原平らと芸術集団ハイレッド・センターを結成し、60年代以降の日本のコンセプチュアル・アートに大きな影響を与えた高松次郎
大量と呼んでもまだ足りない作品の数々。呑気に観て回っていたら時間が足りず、全てを見る前に退館時間となってしまいました。
この日の晩は、ときの忘れもの同様にart on paperに出展されていたhpgrp galleryの戸塚さんにお誘いいただき、MoMAのすぐ近くに居を構える、こちらもart on paperに出展されていたRonin Galleryの棟方志功展のオープニングにご一緒させていただきました。戸塚さんに色々な人をご紹介いただいたのですが、最後に紹介していただいたのは何と元ジャパンソサエティの手塚さん。アメリカはこんなに広いのに、人の縁の何と身近なことか。
ここ最近はジャンクフードが続き、野菜が足りない! と体が訴えている(ような気がしたので)この日の夕飯はスーパーのサラダバーでした。ただしパスタとマッシュポテトとドレッシング山盛りの。何やら自分自身に詐欺を働いている気がしないでもありませんが、美味しかったので問題はないはずです。
■自由行動3日目
昨日の雨のち曇り空が嘘のような晴天の下、本日最初に向かったのは、アメリカ美術の専門・ホイットニー美術館です。
ホイットニー美術館全景。
2017年はホイットニービエンナーレの開催年なのですが、間が悪く開催は3月17日から。
5階と6階がビエンナーレ設営のため閉鎖されているせいで入館料はやや安くなっていましたが、少しも得した気分になれませんでした……が、屋上からの展望に一気に気分が晴れました。我ながら単純極まりない。
周辺にはスカイスクレイパーがないため、かなり先まで見通せました。
何よりこの空の青!
展示よりも天気に気を良くしてもらい、アンディ・ウォーホル、ジャスパー・ジョーンズ、エドワード・スタイケン等の作品を見て回った後は、天気が良いからと調子に乗って徒歩でハドソン川沿いに前日お世話になったhpgrp galleryへ。事前連絡もなしに訪ねたせいで戸塚さんとは入れ違いになってしまいましたが、写真家エヴェレット・ケネディ・ブラウンが日本・相馬市の伝統行事を撮影した作品シリーズ「Japanese Samurai Fashion」を堪能させていただきました。
この後は今回の延長滞在のメインイベントであるチェルシー画廊街巡りに繰り出しました。
亭主からはここいらの画廊に名刺を渡して繋ぎを取ってくるように言われていたのですが……いざ実際に画廊を訪ねてみるとどれもスケールが違いました。最初に入ったガゴシアンギャラリーがサイズでは一番大きかったのですが、展示スペースは区民体育館に匹敵するどころか収められそうな空間が2つ用意されており、展示してある作品も最小で100号以上と、青山の狭小画廊とは文字通りスケールの桁が違っていました。
ガゴシアンギャラリー外観。
あまり大きくないようにも見えますが、丁度写っている通行人と比較してもらえば、実際のサイズが分かると思います。
展示スペース。
やはり人が写っていないと錯覚しそうなほど広々としており、贅沢な空間の使い方がされています。
こちらは以前ビーコンの方を記事にしたDIA Foundationのチェルシー支部が開催していた菅木志雄展。
6点中5点は60年代から70年代に制作された作品でしたが、この写真に写っている"Law of Halted Space"はこの企画のために2016年に制作された最新作です。
これ以外にも複数の画廊を見て回りましたが、どこも元は倉庫街という特性を活かしてスケールの大きい展示を展開していました。しかしここまでデカい作品ばかりだと買い手が付くのだろうかなどと疑問に思いましたが、ある撮影禁止の画廊では最小でも短辺2mはある大型作品10点が完売となっており、金も土地もある所にはあるんだなーと思い知らされました。
及び腰で名刺を配りつつギャラリーを巡って右左、ケースに残っていた名刺が無くなる頃には時間は18:00、アメリカの画廊の終業時刻なりました。
夕暮れ時のチェルシー画廊街。
ハイラインの上で休憩中に撮影しました。
この一見うらぶれたビル街が、実は超高額な美術品を扱う画廊通りというのは、分かっていても中々に妙な感じです。
この日の晩御飯は再びのジャンクフード。いかにもアメリカンなバーガーチェーンでセットメニューを注文したら、出てきたのはドリンクとバーガーの包みのみ。付け合わせのポテトは? と思いつつ包みを見ると妙に分厚い。まさかと包みを開いてみたら、そこにはパテと一緒にバンズに挟まったポテトフライが。 そ う き た か 。
まぁたまに自分でもやってることだしと思いなおして美味しくいただきました。
■自由行動4日目
帰国日は朝から空港に向かわなければならないので、実質最終日。
この日は終日メトロポリタン美術館を探検するつもりで朝から行動開始。
そういえばイタリア料理的なピッツァは食べたけど、ジャンク的なピザはまだ食べていなかったなぁと、日本で言えば立ち食い蕎麦屋的な雰囲気のあるピザ屋に入店。ピザ2切れと付け合わせにフライドポテトを注文したら、どう見てもピザが付け合わせにしか見えない山盛りのポテトが出てきた。改めてメニューを確認してみると、ピザ一切れよりポテト一皿の方が高かった。何故毎回こうも自分はやらかしてしまうのか…結局残すのは勿体無いのでケチャップとマヨネーズとマスタードと塩胡椒を駆使して完食しました。おかげで最終日なのに夕飯はコンビニで購入したサンドイッチで足りました。ホント何やってるの自分。
とにかく、お腹も膨らませたのでメトロポリタン美術館へ出発。
メトロポリタン美術館外観。
何故か記憶では正面エントランスがセントラルパークと向き合っていたのですが(実際にはエントランスの裏手がセントラルパークです)、さて何と混同していたのやら。
15の夏にここを通り過ぎた時には、たしか大恐竜展とかやってたなぁ見たかったなぁと回顧しながら、チケットを購入してまずはエジプト美術から見学を開始。
時間もあるし色々見て回ろうと気楽に構えていたのですが、世界最大級という規模を軽く考えていました。もう見ても見ても全然終わりがありません。最初から全部見ようとは思っていませんでしたが、結局エジプトとアジア系、アメリカ区画を見た時点でギブアップ、ヨーロッパ区画は流し見て近代美術区画を見て終わりました。
エジプト区画とアメリカ区画の間にあるデンドゥール神殿。
神殿の壁画とかならともかく、神殿そのものを常設展示するとか発想が色々とおかしいと感じるのは自分だけでしょうか?
パピルスコーナーにあったヒエログリフの説明書き。
今までヒエログリフはどうしてあんなイラスト然としているのに言語として成り立つのか不思議でしたが、なるほどここまで崩せばハングル語辺りとそう変わらないなと納得。
でも最後の一文字は崩したにしても無理があると思う。
続くアメリカ区画では美術品というより家具や各時代のアメリカの生活を紹介するように住宅の再現例が多数設営。
その再現された室内の一つは何とフランク・ロイド・ライトの"Little house Living Room"。
全然小さくないと思った自分は悪くないです。
こちらもアメリカ区画の一部。
この画像では見えにくいですが、延々と続くショーケースの中に椅子、テーブル、チェスト、時計、食器等が大量に展示されており、ここだけで1日どころか1週間は見ていられます。
ヨーロッパ区画の一部の見取り図。ここだけでもそこらの美術館には到底及ばない作品の数々が収蔵されていますが、これでもほんの一区画です。
最後の方は最早意地で現代美術区画を見て回り、ギリシャ、ローマ区画はスルーして今回のメトロポリタン美術館探検は終了としました。
終わりが見えないことでここまで疲労させられるとは正直思っていませんでした。
次に来る時は3日程の長期計画で攻略しようと思います。
これにて当初見て回ることを計画していた場所は全て巡ったのですが、最後に一か所、フェアの最中に来場者の方に、野口琢郎作品に因んで勧めてもらったノイエギャラリーへ。
街角の建物の一角を使ったこの美術館はドイツとオーストリア作家の作品を専門に扱っており、クリムトもその中に含まれているのがお勧めされた理由です。
なるほど確かに《金の女》は野口さんの作品の引き合いで出される煌びやかな華がありました。残念ながら館内は撮影禁止だったので写真はありませんが、メトロポリタンでの疲れを癒す傍ら、ゆっくりとクリムトの作品を堪能しました。
最後にご紹介するのはウォールストリートジャーナルに掲載されたart on paperの広告と、アーモリーショーに出展された草間彌生のインスタレーションの紹介記事です。


最初にも書きましたが、art on paperの報告は前出の野口さんと光嶋さんの記事をご覧ください。
■野口琢郎さんのレポート
■光嶋裕介さんのレポート
この記事を書いている時点でアートフェア東京も終了し、ときの忘れもののアートフェア出展ラッシュもようやく一段落しました。今後は10月のArt Taipei、12月のArt Miami、1月のシンガポールのフェアに出展を申し込む予定となっております。
(しんざわ ゆう)
◆スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
「ニューヨーク美術館巡り」
読者の皆様こんにちわ。通例であれば今月頭に開催されたart on paperのレポートを掲載する所ではありますが、今回は既に光嶋裕介さんと野口琢郎さんというお二方によりフェアのレポートは万全。今更自分が何か書いたところで蛇足にしかなりそうにありません。ですが、こんなこともあろうかと(言うわけではまったくありませんでしたが)今回は社命によりフェア終了後に自分だけ滞在を延長し、美術館巡りを4日ほど堪能させていただきましたので、そのことについて書かせていただこうと思います、スタッフSこと新澤です。
草間彌生や堀尾貞治もインスタレーションを出展したアーモリーショーのサテライトフェアであるart on paper、出展画廊の数も100以下とあって来場者数もどこまで稼げるのか…と、開始前はやや不安でしたが、光嶋さんと野口さんが書かれている通り、自分が今まで参加した中規模フェアでは体験したことがない人の入りと売り上げを記録し、サンタフェの悪夢を払拭して終わることができました。来年も是非ともまた参加したいところですが、ニューヨークは最先端の街だけあって流行り廃りが異様に激しいらしく、今後の参加についても内容は十分に吟味する必要がありそうです。
人生二度目の来訪となるニューヨーク、初めて来た時は自由の女神像とエンパイアステートビルを昇り、セントラルパークを散歩するだけで終わってしまいましたが、今回は4日の自由時間を使って満喫させていただきました。
■自由行動1日目
1週間お世話になったアパートからチェックアウトし、まず最初に向かったのは滞在先だったLower East SideにあるAnthology Film Archives。ときの忘れもので作品を取り扱い、またちょくちょく上映会を行っているジョナス・メカスが設立した映像芸術の殿堂です。自分は楽観的にここに来ればメカスさんに会えるか繋ぎを取ってもらえるだろうとお気楽に考えていたのですが、そもそもここ、午後は一般公開していませんでした。しかもメカスさんは私書箱こそここに置いていますが、訪れるのは一週間に一度あるかないかという程度、勿論閉館中に突然訪れたギャラリスト(どう見てもただの旅行者)のために連絡を取ってくれることもなく、結局日本から持ってきたお土産を職員さんに預けるだけで終わってしまいました。

自分の見通しの甘さで出鼻を挫かれましたが、気を取り直して移動を再開。最初は複数の路線が同じプラットホームに停車するせいでエラく複雑に思えたマンハッタンの地下鉄ですが、よくよく確認するとホテルまでは最寄駅から乗り換えなしで向かえることに気付き、気が楽になりました。
今回自分が宿泊したのはPaper Factory Hotelという、読んで字のごとく元々は製紙工場だった建物をホテルに改装した所で、場所はマンハッタン島の東、ロングアイランドに位置しています。自分は価格とマンハッタン島までのアクセスでこのホテルを選びましたが、中々に洒落たデザインで部屋も広々としており、快適に過ごせました。部屋に冷蔵庫がないことと、シャワーヘッドが固定式だったことだけは減点材料でしたが。

ともあれ無事にチェックインも終わり、荷物も部屋に押し込めて身軽なった所で早速ニューヨーク探索に出発です。ホテルを出た時点の時刻は午後2時。流石に美術館を2ヵ所巡るには時間が足りないと、この日はフランク・ロイド・ライト設計のグッゲンハイム美術館に行きました。
今日世界各地に展開し、自分の連載でもビルバオとニューヨークを取り上げたことのあるグッゲンハイム美術館。今まで話題にしておいて何ですが、実物を訪れるのは今回が初めてです。世界の近代美術を牽引する美術館、その第一印象は「以外と小っさい」と身もふたもないないものでした。
ちなみに以前の連載記事で使用した美術館の画像と、今回自分が撮影した画像を比べるとこのような感じ。


撮影技術がいかに人の認識を騙すか、大変良く分かりますね。
ともあれ木枯らしが吹きすさぶ中でいつまでも外にいるワケにもいかず、とっとと館内に入ると、外観のイメージとは正反対の広々とした空間が。

ここで2013年に元永定正の《作品(水)》が展示されたのかと思うと、感慨深いです。
……自分はブログの記事で取り上げただけで何の関わりもないのですが。

チケットを購入して緩やかな登り坂を上ると、いきなり大量かつ大型のワシリー・カンディンスキーの油彩に迎えられ、ゴッホ、ピカソ、シャガール、ジョアン・ミロ、クロード・モネ、パウル・クレー、ジャクソン・ポロック等々、自分のような不勉強な人間でも知っている巨匠の作品が立て続けに展示されていました。勿論華々しい作品が多数ありましたが、中でも自分が気に入ったのは以下の作品(?)です。

友人に向けて手紙を書こうと思う度、制作に気を取られてしまうと書きつつ、《種をまく人》や《少女の頭》のスケッチが描かれており、ゴッホの創作意欲の高さが窺えます。

欧米人向けにデザインされているわりに手すりが低く、高所恐怖症の自分は下を覗き込んだ瞬間に腰砕けになってしまいました(シンガポールからまったく進歩がないですね)。この写真を撮った後は通路の外側の壁(作品展示側)に沿って下まで降りました。作品鑑賞中に前を横切ってしまった皆様、申し訳ございませんでした。
この後は他の美術館を覗くには時間が足りず、かと言って早々にホテルに引っ込むのも勿体無い。ではどうするかとボケっとセントラルパークのベンチに座り込むこと十数分。タイムズスクエアまで徒歩で行けばニューヨーク探索できて時間も潰せると結論し、レキシントン通りを延々南下してみました。



建てた本人はあれだけ好き勝手やってるのに、よくまだ襲撃されてないなと物騒な考えが過ったり。

スカイスクレイパーの谷間(というほどのこの建物も背は低くないですが)にこのような中世的外観の建物があるのもニューヨークならではというイメージ。

日本人の悲しい習性故か、ランドマークを見るとつい撮影してしまいます。

この日の夕食はネットで評判のハンバーガーチェーン、SHAKE SHACKに行ってみました。
結論: ネ ッ ト の 評 判 を 鵜 呑 み に し て は い け ま せ ん 。
大層な評判で行列も凄かったので味も期待したのですが、自分にしてみればかけた時間に見合うとは思えませんでした。ちなみにこのバーガーチェーン、日本にも進出しており、先日出展したアートフェア東京の会場である東京国際フォーラムと、画廊のある外苑前にも支店があります。その内こちらも行ってみようと計画中です(懲りてない)。
■自由行動2日目
前日の夜にホテル近く(徒歩10分)の大型スーパーで購入したバニラファッジ味とシナモンロール味のシリアルバーという、健康に良いのか悪いのか判断に苦しむ逸品で朝食を済ませた後、まずはフェアで内間作品を購入いただいた方へ雨が降る中作品の納品へ向かいました。フェア期間中も自由行動中も、冷え込むことはあってもずっと晴れていたというのに、作品を届けなければならないこの日、この時だけ雨でした。納品が終わって外に出たら止んでました。God damn!
気を取り直して現地在住の知人と落ち合い、韓国人街で焼肉三昧の昼食を堪能した後は、昨日のグッゲンハイムと並ぶニューヨークアートシーンの顔役、MoMAに向かいました。

この画像は53番通りから撮影。通りが狭くて全景は撮影できませんでした。


残念ながら展示替え中で庭園は立ち入り禁止でした。

長くて9年、短くて3年。同一作家と思えない目まぐるしいスタイルの変化で有名な作家の初期から晩年までの作品を1フロア使って展示していました。

これが

これや、

これを経て、

最後にこう。
……人の意識の変遷って凄いなぁ。
常設展の方ではグッゲンハイム同様、知った名前がズラリと並び、なるほど世界に名立たるとはこういうことかと実感させられました。そんな中で、そこここに日本人作家の名前を見つけることができ妙に嬉しく感じました。





大量と呼んでもまだ足りない作品の数々。呑気に観て回っていたら時間が足りず、全てを見る前に退館時間となってしまいました。
この日の晩は、ときの忘れもの同様にart on paperに出展されていたhpgrp galleryの戸塚さんにお誘いいただき、MoMAのすぐ近くに居を構える、こちらもart on paperに出展されていたRonin Galleryの棟方志功展のオープニングにご一緒させていただきました。戸塚さんに色々な人をご紹介いただいたのですが、最後に紹介していただいたのは何と元ジャパンソサエティの手塚さん。アメリカはこんなに広いのに、人の縁の何と身近なことか。
ここ最近はジャンクフードが続き、野菜が足りない! と体が訴えている(ような気がしたので)この日の夕飯はスーパーのサラダバーでした。ただしパスタとマッシュポテトとドレッシング山盛りの。何やら自分自身に詐欺を働いている気がしないでもありませんが、美味しかったので問題はないはずです。
■自由行動3日目
昨日の雨のち曇り空が嘘のような晴天の下、本日最初に向かったのは、アメリカ美術の専門・ホイットニー美術館です。

2017年はホイットニービエンナーレの開催年なのですが、間が悪く開催は3月17日から。
5階と6階がビエンナーレ設営のため閉鎖されているせいで入館料はやや安くなっていましたが、少しも得した気分になれませんでした……が、屋上からの展望に一気に気分が晴れました。我ながら単純極まりない。

何よりこの空の青!
展示よりも天気に気を良くしてもらい、アンディ・ウォーホル、ジャスパー・ジョーンズ、エドワード・スタイケン等の作品を見て回った後は、天気が良いからと調子に乗って徒歩でハドソン川沿いに前日お世話になったhpgrp galleryへ。事前連絡もなしに訪ねたせいで戸塚さんとは入れ違いになってしまいましたが、写真家エヴェレット・ケネディ・ブラウンが日本・相馬市の伝統行事を撮影した作品シリーズ「Japanese Samurai Fashion」を堪能させていただきました。
この後は今回の延長滞在のメインイベントであるチェルシー画廊街巡りに繰り出しました。
亭主からはここいらの画廊に名刺を渡して繋ぎを取ってくるように言われていたのですが……いざ実際に画廊を訪ねてみるとどれもスケールが違いました。最初に入ったガゴシアンギャラリーがサイズでは一番大きかったのですが、展示スペースは区民体育館に匹敵するどころか収められそうな空間が2つ用意されており、展示してある作品も最小で100号以上と、青山の狭小画廊とは文字通りスケールの桁が違っていました。

あまり大きくないようにも見えますが、丁度写っている通行人と比較してもらえば、実際のサイズが分かると思います。

やはり人が写っていないと錯覚しそうなほど広々としており、贅沢な空間の使い方がされています。

6点中5点は60年代から70年代に制作された作品でしたが、この写真に写っている"Law of Halted Space"はこの企画のために2016年に制作された最新作です。
これ以外にも複数の画廊を見て回りましたが、どこも元は倉庫街という特性を活かしてスケールの大きい展示を展開していました。しかしここまでデカい作品ばかりだと買い手が付くのだろうかなどと疑問に思いましたが、ある撮影禁止の画廊では最小でも短辺2mはある大型作品10点が完売となっており、金も土地もある所にはあるんだなーと思い知らされました。
及び腰で名刺を配りつつギャラリーを巡って右左、ケースに残っていた名刺が無くなる頃には時間は18:00、アメリカの画廊の終業時刻なりました。

ハイラインの上で休憩中に撮影しました。
この一見うらぶれたビル街が、実は超高額な美術品を扱う画廊通りというのは、分かっていても中々に妙な感じです。
この日の晩御飯は再びのジャンクフード。いかにもアメリカンなバーガーチェーンでセットメニューを注文したら、出てきたのはドリンクとバーガーの包みのみ。付け合わせのポテトは? と思いつつ包みを見ると妙に分厚い。まさかと包みを開いてみたら、そこにはパテと一緒にバンズに挟まったポテトフライが。 そ う き た か 。
まぁたまに自分でもやってることだしと思いなおして美味しくいただきました。
■自由行動4日目
帰国日は朝から空港に向かわなければならないので、実質最終日。
この日は終日メトロポリタン美術館を探検するつもりで朝から行動開始。
そういえばイタリア料理的なピッツァは食べたけど、ジャンク的なピザはまだ食べていなかったなぁと、日本で言えば立ち食い蕎麦屋的な雰囲気のあるピザ屋に入店。ピザ2切れと付け合わせにフライドポテトを注文したら、どう見てもピザが付け合わせにしか見えない山盛りのポテトが出てきた。改めてメニューを確認してみると、ピザ一切れよりポテト一皿の方が高かった。何故毎回こうも自分はやらかしてしまうのか…結局残すのは勿体無いのでケチャップとマヨネーズとマスタードと塩胡椒を駆使して完食しました。おかげで最終日なのに夕飯はコンビニで購入したサンドイッチで足りました。ホント何やってるの自分。
とにかく、お腹も膨らませたのでメトロポリタン美術館へ出発。

何故か記憶では正面エントランスがセントラルパークと向き合っていたのですが(実際にはエントランスの裏手がセントラルパークです)、さて何と混同していたのやら。
15の夏にここを通り過ぎた時には、たしか大恐竜展とかやってたなぁ見たかったなぁと回顧しながら、チケットを購入してまずはエジプト美術から見学を開始。
時間もあるし色々見て回ろうと気楽に構えていたのですが、世界最大級という規模を軽く考えていました。もう見ても見ても全然終わりがありません。最初から全部見ようとは思っていませんでしたが、結局エジプトとアジア系、アメリカ区画を見た時点でギブアップ、ヨーロッパ区画は流し見て近代美術区画を見て終わりました。

神殿の壁画とかならともかく、神殿そのものを常設展示するとか発想が色々とおかしいと感じるのは自分だけでしょうか?

今までヒエログリフはどうしてあんなイラスト然としているのに言語として成り立つのか不思議でしたが、なるほどここまで崩せばハングル語辺りとそう変わらないなと納得。
でも最後の一文字は崩したにしても無理があると思う。


全然小さくないと思った自分は悪くないです。

この画像では見えにくいですが、延々と続くショーケースの中に椅子、テーブル、チェスト、時計、食器等が大量に展示されており、ここだけで1日どころか1週間は見ていられます。

最後の方は最早意地で現代美術区画を見て回り、ギリシャ、ローマ区画はスルーして今回のメトロポリタン美術館探検は終了としました。
終わりが見えないことでここまで疲労させられるとは正直思っていませんでした。
次に来る時は3日程の長期計画で攻略しようと思います。
これにて当初見て回ることを計画していた場所は全て巡ったのですが、最後に一か所、フェアの最中に来場者の方に、野口琢郎作品に因んで勧めてもらったノイエギャラリーへ。

なるほど確かに《金の女》は野口さんの作品の引き合いで出される煌びやかな華がありました。残念ながら館内は撮影禁止だったので写真はありませんが、メトロポリタンでの疲れを癒す傍ら、ゆっくりとクリムトの作品を堪能しました。
最後にご紹介するのはウォールストリートジャーナルに掲載されたart on paperの広告と、アーモリーショーに出展された草間彌生のインスタレーションの紹介記事です。


最初にも書きましたが、art on paperの報告は前出の野口さんと光嶋さんの記事をご覧ください。
■野口琢郎さんのレポート
■光嶋裕介さんのレポート
この記事を書いている時点でアートフェア東京も終了し、ときの忘れもののアートフェア出展ラッシュもようやく一段落しました。今後は10月のArt Taipei、12月のArt Miami、1月のシンガポールのフェアに出展を申し込む予定となっております。
(しんざわ ゆう)
◆スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
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