先日お伝えしたとおり、30年余りを過ごしてきたこの青山を去ることになりました。
早ければ来月にも別の街の、新しい空間に移転します。
貧乏画廊でも長くやっているといろいろな作家、作品とめぐり会う機会も少なくない。
当時はごく普通のことだと思っていたことどもも、40年も経つと、その時代を知っていた人もいなくなり(少なくなり)、自分の常識が若い世代にはまったく通用しないのだと気づくことになります。
倉庫に山と積まれた作品群も公認会計士からは「不良在庫」扱いされるのに、新米の学芸員には「えっ、こんな珍しい作品、初めてみました~」とか言われ、ついついニヤニヤしてしまう、困ったもんです。
この春、たまたま私たちが出品などでお手伝いした展覧会が重なりました。
広島には殿敷侃、豊田には瑛九とル・コルビュジエ、町田には横尾忠則のそれぞれ作品を貸し出ししています。
全会場に伺わねばならないのですが、町田はともかく、広島、豊田はちと遠い。そうでなくても引越し騒ぎで通常の作業も遅れ勝ち、会期はまだあるから・・・などと油断していると終わってしまいかねない。
ということで、先日一番遠い広島に行ってまいりました。豊田、町田にも近々伺うつもりです。
●広島市現代美術館


「殿敷侃:逆流の生まれるところ」
会期:2017年3月18日[土]~5月21日[日]
会場:広島市現代美術館
時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館:月曜日
広島には幾度も行っていますが、山の上にある黒川紀章設計(1989年開館)の広島市現代美術館にはオープン直後に来たことがあるだけで長いことご無沙汰でした。没後25年を迎えた殿敷さんの短くも果敢な生涯を振り返った本展については、既に担当学芸員の松岡剛先生と、アート・ウオッチャーの佐藤毅さんに寄稿していただいています。
正直言って打ちのめされました。初期の微細な点描作品や晩年のインスタレーションの仕事は少しは知っていたつもりでしたが、薄暗い会場に展示されたキノコ雲の写真を拡大・反復させた巨大シルクスクリーン、鉛筆やボールペン、あるいはスタンプで描いた無数の点や線の集積からなる大作群ははじめて見るものばかりでした。
廃棄物や漂流物を周囲の人々を巻き込みながら集め、繰り広げたダイナミックなインスタレーションの記録(映像、写真、記録文書)も重要ですが、むしろそういう激しい活動の裏で日常的に孤独な制作作業の末に生み出されたであろう静寂な画面の美しさに圧倒されました。
呆然としたまま山を下り、40年もの長い付き合いになるギャラリーたむらのご主人と飲んだ翌朝、いつもは外から見るばかりだった広島平和資料記念館にはじめて入りました。
多くの中学生、そして海外の人たち(こんなに多くの人が訪れていることにも驚きました)に混じり、原爆で亡くなった子供たちの遺品(学生服、弁当箱・・・)と死ぬ間際に残した言葉、ご遺族の無念のにじむ手記などを読みながら、涙がとまりませんでした。
殿敷侃展は会期終了まで残り僅かですが、ぜひご覧になってください。
展覧会図録はときの忘れものでも扱っています。
『殿敷侃:逆流の生まれるところ』図録
2017年
広島市現代美術館 発行
278ページ
25.7x18.7cm
価格3,400円(税別、送料別途)
目次:
・序にかえて―殿敷侃についての覚書 寺口淳治
・I 何くそ、こんな絵は…:初期具象からポップアート的絵画へ 1964-1970
・II たたみ込まれた執念:点描と銅版画の実験 1970-1980
・III 上手く描くと忘れ物をする:長門という場所での創作
・VI 埋め尽くすものと、隙間からのぞくもの:反復と集積による表現 1980-1985
・V 逆流する現実:廃材によるインスタレーション 1983-1991
・逆流の生まれるところ 松岡剛
・年譜
・文献リスト
・出品リスト
~~~~
●豊田市美術館


「岡﨑乾二郎の認識―抽象の力―現実(concrete)展開する、抽象芸術の系譜」
会期:2017年4月22日(土)〜6月11日(日)
会場:豊田市美術館 展示室1~4
休館日:月曜日
開館時間:10:00~17:30(入場は17:00まで)
企画監修:岡﨑乾二郎(造形作家)
論客の岡﨑乾二郎さんを監修に迎え、美術館のコレクションを中心に他からも借り集めて構成した異色の展覧会で、巷の噂ではめっぽう評判がいい。岡﨑さんならではの近代美術史を大胆に読み直す試みについては、担当学芸員の千葉真智子先生に先日ご寄稿いただきましたので、ぜひお読みください。
~~~~
●町田市立国際版画美術館


「横尾忠則 HANGA JUNGLE」
会期:2017年4月22日[土]~6月18日[日]
会場:町田市立国際版画美術館
時間:平日/10:00~17:00、土・日・祝日/10:00~17:30(入場は閉館の30分前まで)
休館:月曜
亭主が美術界に入った時代(1970年代)のスターとは「社会面に載る人」のことでした。
横尾忠則と池田満寿夫がまさにスターでした。
本展に関しても、担当学芸員の町村悠香先生にご寄稿をお願いしており、5月21日に掲載予定です。ホントはもう少し早く掲載したかったのですが、予想外(!)に人気で(あの町田に続々と横尾ファンが押し寄せている)、原稿の執筆どころじゃないらしい。
~~~横尾忠則は1960年代にアンダーグラウンド演劇のポスターをエロスと妖しさがただよう総天然色のデザインで制作して以来、グラフィズムによって時代の流行をつくりだし、日本文化をリードするデザイナーとして注目を浴びました。それ以後「時の人」としてさまざまなメディアに取り上げられますが、その一方でHANGAの制作にも積極的に取り組んでいきます。1982年に「画家宣言」を発した後もペインティングと併行して、版画の枠を超えた作品を制作し続けています。~~~(町田市立国際版画美術館HPより)
広島、豊田、町田いずれも担当学芸員たちの熱意あふれる展覧会です。
どうぞお出かけください。
●今日のお勧め作品は瑛九、横尾忠則、殿敷侃です。
瑛九
《花々》
1950年
油彩
45.5×38.2cm(F8)
横尾忠則
《タヒチの印象 I-A(耳付)》
1973年
スクリーンプリント・和紙(耳付)
イメージサイズ:85.0×60.5cm
シートサイズ:112.0×72.5cm
Ed.100の内、T.P.(数部)
サインあり
※レゾネNo.36(講談社)
殿敷侃
《地中の虫》
リトグラフ
イメージサイズ:21.2×35.9cm
シートサイズ :36.2×45.1cm
Ed.30
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
早ければ来月にも別の街の、新しい空間に移転します。
貧乏画廊でも長くやっているといろいろな作家、作品とめぐり会う機会も少なくない。
当時はごく普通のことだと思っていたことどもも、40年も経つと、その時代を知っていた人もいなくなり(少なくなり)、自分の常識が若い世代にはまったく通用しないのだと気づくことになります。
倉庫に山と積まれた作品群も公認会計士からは「不良在庫」扱いされるのに、新米の学芸員には「えっ、こんな珍しい作品、初めてみました~」とか言われ、ついついニヤニヤしてしまう、困ったもんです。
この春、たまたま私たちが出品などでお手伝いした展覧会が重なりました。
広島には殿敷侃、豊田には瑛九とル・コルビュジエ、町田には横尾忠則のそれぞれ作品を貸し出ししています。
全会場に伺わねばならないのですが、町田はともかく、広島、豊田はちと遠い。そうでなくても引越し騒ぎで通常の作業も遅れ勝ち、会期はまだあるから・・・などと油断していると終わってしまいかねない。
ということで、先日一番遠い広島に行ってまいりました。豊田、町田にも近々伺うつもりです。
●広島市現代美術館


「殿敷侃:逆流の生まれるところ」
会期:2017年3月18日[土]~5月21日[日]
会場:広島市現代美術館
時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館:月曜日
広島には幾度も行っていますが、山の上にある黒川紀章設計(1989年開館)の広島市現代美術館にはオープン直後に来たことがあるだけで長いことご無沙汰でした。没後25年を迎えた殿敷さんの短くも果敢な生涯を振り返った本展については、既に担当学芸員の松岡剛先生と、アート・ウオッチャーの佐藤毅さんに寄稿していただいています。
正直言って打ちのめされました。初期の微細な点描作品や晩年のインスタレーションの仕事は少しは知っていたつもりでしたが、薄暗い会場に展示されたキノコ雲の写真を拡大・反復させた巨大シルクスクリーン、鉛筆やボールペン、あるいはスタンプで描いた無数の点や線の集積からなる大作群ははじめて見るものばかりでした。
廃棄物や漂流物を周囲の人々を巻き込みながら集め、繰り広げたダイナミックなインスタレーションの記録(映像、写真、記録文書)も重要ですが、むしろそういう激しい活動の裏で日常的に孤独な制作作業の末に生み出されたであろう静寂な画面の美しさに圧倒されました。
呆然としたまま山を下り、40年もの長い付き合いになるギャラリーたむらのご主人と飲んだ翌朝、いつもは外から見るばかりだった広島平和資料記念館にはじめて入りました。
多くの中学生、そして海外の人たち(こんなに多くの人が訪れていることにも驚きました)に混じり、原爆で亡くなった子供たちの遺品(学生服、弁当箱・・・)と死ぬ間際に残した言葉、ご遺族の無念のにじむ手記などを読みながら、涙がとまりませんでした。
殿敷侃展は会期終了まで残り僅かですが、ぜひご覧になってください。
展覧会図録はときの忘れものでも扱っています。

2017年
広島市現代美術館 発行
278ページ
25.7x18.7cm
価格3,400円(税別、送料別途)
目次:
・序にかえて―殿敷侃についての覚書 寺口淳治
・I 何くそ、こんな絵は…:初期具象からポップアート的絵画へ 1964-1970
・II たたみ込まれた執念:点描と銅版画の実験 1970-1980
・III 上手く描くと忘れ物をする:長門という場所での創作
・VI 埋め尽くすものと、隙間からのぞくもの:反復と集積による表現 1980-1985
・V 逆流する現実:廃材によるインスタレーション 1983-1991
・逆流の生まれるところ 松岡剛
・年譜
・文献リスト
・出品リスト
~~~~
●豊田市美術館


「岡﨑乾二郎の認識―抽象の力―現実(concrete)展開する、抽象芸術の系譜」
会期:2017年4月22日(土)〜6月11日(日)
会場:豊田市美術館 展示室1~4
休館日:月曜日
開館時間:10:00~17:30(入場は17:00まで)
企画監修:岡﨑乾二郎(造形作家)
論客の岡﨑乾二郎さんを監修に迎え、美術館のコレクションを中心に他からも借り集めて構成した異色の展覧会で、巷の噂ではめっぽう評判がいい。岡﨑さんならではの近代美術史を大胆に読み直す試みについては、担当学芸員の千葉真智子先生に先日ご寄稿いただきましたので、ぜひお読みください。
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●町田市立国際版画美術館


「横尾忠則 HANGA JUNGLE」
会期:2017年4月22日[土]~6月18日[日]
会場:町田市立国際版画美術館
時間:平日/10:00~17:00、土・日・祝日/10:00~17:30(入場は閉館の30分前まで)
休館:月曜
亭主が美術界に入った時代(1970年代)のスターとは「社会面に載る人」のことでした。
横尾忠則と池田満寿夫がまさにスターでした。
本展に関しても、担当学芸員の町村悠香先生にご寄稿をお願いしており、5月21日に掲載予定です。ホントはもう少し早く掲載したかったのですが、予想外(!)に人気で(あの町田に続々と横尾ファンが押し寄せている)、原稿の執筆どころじゃないらしい。
~~~横尾忠則は1960年代にアンダーグラウンド演劇のポスターをエロスと妖しさがただよう総天然色のデザインで制作して以来、グラフィズムによって時代の流行をつくりだし、日本文化をリードするデザイナーとして注目を浴びました。それ以後「時の人」としてさまざまなメディアに取り上げられますが、その一方でHANGAの制作にも積極的に取り組んでいきます。1982年に「画家宣言」を発した後もペインティングと併行して、版画の枠を超えた作品を制作し続けています。~~~(町田市立国際版画美術館HPより)
広島、豊田、町田いずれも担当学芸員たちの熱意あふれる展覧会です。
どうぞお出かけください。
●今日のお勧め作品は瑛九、横尾忠則、殿敷侃です。

《花々》
1950年
油彩
45.5×38.2cm(F8)

《タヒチの印象 I-A(耳付)》
1973年
スクリーンプリント・和紙(耳付)
イメージサイズ:85.0×60.5cm
シートサイズ:112.0×72.5cm
Ed.100の内、T.P.(数部)
サインあり
※レゾネNo.36(講談社)

《地中の虫》
リトグラフ
イメージサイズ:21.2×35.9cm
シートサイズ :36.2×45.1cm
Ed.30
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
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