藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」第21回

 アーカイブ機関でいつも頭を悩ますのは、時間・空間・人手の不足。その中でも、空間=収蔵スペースの不足は、近現代資料については特に悩ましい問題です。現代に近くなればなるほど残された資料も多くなり、その形態も多様になります。デジタル技術を使用して作成された資料=ボーン・デジタル資料は、決定的な保存方法が見つからないまま、データ量だけは年々増加の一途をたどっています。技術が進歩し続けていく以上、解決策は永遠に見つからないのかもしれません。
 近現代建築資料館では、今のところボーン・デジタル資料の収集は行っていないものの、ご多分に漏れず、物理的な資料を収蔵するスペースの不足は恒常的な問題です。スペースの問題を緩和させるために、収蔵方法の検討は必至です。収集してきた資料は図面筒や段ボール箱に入っており、積み重ねたままだと大きな容積を必要としますし、必要があっても取り出すのに一苦労です。整理を進めるにあたって必要なのは、資料をこれ以上劣化させない安全な状態に移行させ、かつ効率的に収蔵することです。素材や技法によって適切な保管の方法は変わってきますが、その詳細は専門家の方にお任せするとして、ここでは収蔵方法とその工夫についてご紹介します。
 アーカイブ資料は、基本的には中性紙の包材に収容して保管します。筆者が50程の海外の建築アーカイブ施設を見た限りでは、図面は特大サイズでない限り、マップケースに収蔵されていることが殆どでした。マップケースの収蔵力はかなりのもので、紙の質にもよりますが、A0サイズの深さ4.5センチメートルのケース1段にA1サイズの図面が400枚強入ります。しかし、マップケースに収蔵するためには図面が平たい状態になっている必要があり、巻いて筒に保管されていることの多い建築設計図面は、平たくするフラットニング作業に骨が折れます。何十年も巻かれた状態だった図面は、図面端部を保護するテープの糊付けが剥がれてべたべたになっていたり、厚手のフィルムは癖が強くつきすぎてなかなか平らにならなかったり。フラットニングの方法も様々ですが、資料館では、シンプルに重しを乗せて数日から数週間置いています。伸ばした図面は中性紙のフォルダに入れて保管します。予算が潤沢にある施設であれば、中性紙フォルダを大量に購入できますが、特注品はかなり値が張ります。筆者が2週間研修をさせてもらったアルヴァ・アアルト財団では、ロール状の中性紙を購入して、フォルダを切り出して自作していました。フィンランドで外注すると、フォルダひとつがロール紙1本に相当するそうです。筆者もこれを参考に、ロール紙から図面用フォルダを作成してみました。(図1)結果、自家製フォルダのコストは外注の約1/9となることが分かりました。が、これには人件費は含まれていません。アアルト財団では、インターンに作成を任せていました。うまく時間と手間をやりくりして、効率よくコストを抑える必要があります。

DSC04803_s図1)
ロール状の中性紙から作成した図面フォルダ。
(写真はすべて筆者)


 海外では収蔵容器にも色々なバリエーションがありました。日本の博物館・資料館では資料の平置きが多いようですが、海外のアーカイブ施設では、比較的小さな紙資料は縦置きが基本です。平置きだと必然的に資料や容器を重ねていくことになるので、下にある資料が取り出しにくくなります。縦置きだと、棚からも容器からも資料が取り出しやすいのです。同じ大きさの容器を効率よく詰めて並べた場合、容器自体を取り出すのが難しくなりますが、多くの容器には、指を引っかけて棚から取り出すための紐やくぼみがついていました。(図2、図3、図4)日本で市販されている中性紙容器にはこのような工夫があるものがみつけられなかったので、組み立てる際に紐をつけてみました。ちょっとしたことですが、これで格段に取り出しやすなります。(図5)
 限りある予算やスペースを使ってなるべく多くの資料の収蔵を考えることは、アーカイブ資料に関わる際の大事なことです。細かく地味な作業ですが、小さな工夫が資料を扱いやすくします。アーキビストは資料が利用可能となる状態を目指して整理をするわけですから、最終的な活用のかたちを考えながら、収蔵方法を検討することも大切です。

DSC00330図2)
アメリカで使用されている紐つき中性紙箱。


DSC01756図3)
フランスで使用されている紐つき中性紙箱。


DSC02162図4)
ベルギーで使用されている穴空き中性紙箱が棚に並んでいるところ。


box図5)
市販の中性紙箱に引き出すための紐を付けたもの。


ふじもと たかこ

藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。

●今日のお勧め作品は、磯辺行久です。
DSCF7400磯辺行久
《ワッペン》
1965年
カラーリトグラフ
イメージサイズ:45.2×30.2cm
シートサイズ :56.0×37.8cm
Ed.50
サインあり


DSCF7394磯辺行久
《ワッペン》
1965年
カラーリトグラフ
イメージサイズ:40.7×27.2cm
シートサイズ :49.5×38.2cm
Ed.50
サインあり


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